『白』、ハンターになる ―後編―
次の日。
遂にレンのハンターライセンス試験が始まった。
目指すはDランク。標的はウルフだ。
そんなレンが今何をしているかと言うと?
【ゴアァァァァァ!!!!】
「わぁ~! おっきぃ~!!! あはははは!!!」
Aランクの魔物である【フレアレオン】に追われていた。
フレアレオンとはその名の通り火を使うライオンだ。
彼らはメスでも子どもでも鬣があり、その鬣が大きく、高温であればるほど強くなる。
今レンが追われているヤツの鬣は端から端まで四メートル、しかも白い光を出している。
身体のサイズが全長四メートルと言うことを考えると大きさは平均より二メートルばかし大きいがそれは大した問題ではない。
コイツが持っている白い光を発するほどの高温の炎は殆ど無い。
しかも外に放出する温度が全くといっていいほど無いことを考えると、コイツはその強大な力に飲まれていない。
所謂天才と言うヤツだ。
だが、どこの世界にも天才は居るものだ。
勿論、レンだってその部類に入る。
「う~ん……あの炎は氷をすぐに溶かしちゃうだろうし……どうしたらいいかなぁ?」
そんなことを百メートルを七秒切るスピードで走りながら考えるレン。
勿論、素の身体能力ではない。
レンは『赤』と『黄色』を混ぜ合わせ、純色の『オレンジ』を作ったからだ。
本来、純色のオレンジは存在しない。
アンナのオレンジ色の魔力は、『赤』と『黄色』の混色であって、純色ではない。
これが、『色彩魔法』の能力である。
色を混ぜ合わせて完全に新しい色を作る魔法だから、『純色のオレンジ』が出来たのだ。
「あ。……あれ? 何だろう? 今何か思いつきそうだったのに……」
思いつきそうで思いつかない、モヤモヤした感覚がレンを襲う。
【ガアッ!!!】
フレアレオンの鬣から直径三メートルほどの大きな炎の塊が発射される。
「わぁっ!? もうっ! 危ないじゃんか!!」
レンは掌をフレアレオンに向けて、魔力球を発射する。
「それっ! 【純色の玉遊び】!!」
赤、青、黄色、白、黄緑、オレンジ、茶色。
全部で七色の魔力球が、それぞれ打ち出される。
白より後に言った色は、色彩魔法によって作り出された純色。
純色に近ければ近いほど質がいいとされるこの世界の魔力は、当然、質に応じて威力もあがる。
【ゴガッ!?】
赤は吸収され、青は当たる前に霧散。オレンジに至っては相手を強化してしまった。
だが、それを上回るほどのダメージを、レンが元々持っていた色である白と、その他の色で与える事に成功した。
「やった! 動きが止まってる今なら!!」
レンが走る足を止めて、相手に向かって右手を銃のようにして構える。
左手をそれに添えて、目を瞑り、呪文を唱えだした。
『我ハ光ノ化身。ソノ色ハ白、ソノ役ハ神聖……』
呪文を唱えるごとに、レンの指先に白の魔力が集まる。
『我ガ魔力ヲ糧トシテ、目ノ前ノ敵ヲ打チ払ワン!! 【光ノ洗礼】!!』
レンが呪文を唱え終わると同時に、その魔力は弾け飛び、無数の光の矢となってフレアレオンに向かって飛んでいく。
ズドドドドドドドドッ!!!
【ギャオオォォォォォォ!?】
あまりの痛みに巨大な悲鳴を上げるフレアレオン。
これが審判魔法だ。その絶大な威力は、禁術指定されてもおかしくないほどの物である。
「ハァ……ハァ……ッ!」
勿論、その威力に相応しいだけの魔力を消費するため、術者は立っていることがやっとになる。
「これでダメだったら僕、食べられちゃうんだろうなぁ……」
地面に座りながら、レンがそう呟く。
あれほどの悲鳴を上げて無事な魔物など、恐らく上位の龍ぐらいの物だろう。
攻撃が当たったときに上がった土煙が徐々に晴れていく。
そこには、全身に傷を負い、立ったまま絶命している一匹の獅子が。
その姿は実に雄雄しく、威厳あるものだった。
「か、かっこいい……」
その姿に、レンは数時間ほど見惚れてしまっていた。
◆◆◆◆◆◆◆◆
「マスター? ソワソワするぐらいなら何で行かせたんですか?」
集会所。
マスターはココで、レンの帰りを待っていた。
「純色の白だぞ? どのような結果になるのか楽しみではないか」
「だからってソワソワしすぎです。別に息子というわけでもなしに……」
レンが出発した正午からもう六時間と三十分が過ぎていた。
もう日がかなり傾いている。
恐らく、後三十分もあれば沈んでしまうだろう。
「確かにそうなのだが……気になるではないか」
その時、外がザワザワと騒がしい事に、マスターと受付嬢は気が付いた。
「……何事ですかね?」
「もしかしてレンが帰ってきたのか!?」
そう思ったマスターは、居ても立ってもいられずに、集会場の外へ飛び出した。
そこでまず最初に見たものは
「っ!? フレアレオン……の死体!?」
「あ、マスター。これで僕、ハンターになれるー?」
「レン!?」
フレアレオンの死体と、それを両手で楽々と持ち上げているレンだった。
「どうしたんですかマスター……って、えっ!? これをあの子が!?」
マスターの後に続いて出て来た受付嬢もこの状況に驚く。
「マスター?どうなのー?」
レンがフレアレオンを置きながら、再度、マスターに聞く。
「あ、あぁ……これならAランクはいけるぞ」
「本当っ!? やったぁー!!」
ピョンピョンと飛び回って喜ぶレン。
「ははは……九歳の子どもがAランク……私より上……」
受付嬢が自信をなくしたように地面に座り込む。
「あれ? ねぇ、お姉さん。どうしたの?」
レンが純粋そうな瞳で受付嬢を見る。
「き、気にしないで……あ、あはははは……」
虚ろな目で乾いた笑いをする受付嬢。
「へ? ねぇ、マスター。お姉さんどうしちゃったの?」
「そっとして置いてあげよう。……それはそうと、一つ聞いていいかね?」
「ふぇ? 何、マスター?」
「君は何でハンターになろうとしているのだね?」
マスターはずっと疑問に思っていたのだ。
ハンターは、様々な依頼をこなす、所謂【何でも屋】のような物だ。
その依頼の中には当然命が危ない物もある。
レンにとって、それを超えるほどの魅力的な理由という物が、マスターには思いつかなかった。
「僕がハンターになった理由? それはねー、アンナと同じ学校に行くためとね~、『世界の色』を知るためだよ!」
レンはマスターの質問に満面の笑みで答えた。
「僕はね? 色を全然知らないんだ。だから、世界を旅して、いろんな『色』を見るんだよ!」
「……そうか。その願い、叶うといいな」
「うん!!」
こうして、レンは無事にAランクハンターとなった。
レンが次に何色に会うのか。
それはアンナが通う『フォルティナ学園』に行くまでのお楽しみ。