『白』、初めて『色』を知る
――――何もない真っ白な空間
その真っ白で、際限の無いであろう広大な空間では一人の少年が絵を描いていた。
「~♪~~~~♪~♪♪」
鼻歌交じりに筆をキャンパスに走らせているが、そこには何も描かれていない。
何故なら絵の具が白いからだ。
白い絵の具で白いキャンパスに絵が描けるはずが無い。
だが、少年は白しか持っていない。何故か、それは――
「~♪……ふぅ……出来た!」
――少年が一人だからだ。
「……誰も居ない」
絵が完成して喜んでいた人物と同じとは思えないほどに落ち込む少年。
「……『白』以外に色って無いのかなぁ?」
そう呟いた瞬間、何故か少年の頬を透明な雫が伝っていく。
少年が初めて流したそれは、この白い空間に落ちた。
その瞬間、空間がひび割れ崩れ始める。
「はわわっ!?」
遂に少年は足場をなくし、際限の無い『白』の穴へと落ちていった。
◆◆◆◆◆◆◆◆
チュンチュン……
「うわぁぁ!?」
ガバッ! と先ほどの少年が目を覚ます。
「ゆ、夢……?」
少年が安堵の息を吐き、ふと周りを見渡した。
「あれ? ココは??」
そこは少年の家ではなかった。
いや、少年には家がないのだからこの表現はおかしい。
そこは家だった、が正しい表現だろう。
「ん~? どうして僕はベッドで寝てるの??」
少年は昨夜、確かに森の奥深くにあった龍の巣の跡で寝た。
それなのに今はベッドの上だ。
「うぬぬ……分からない……」
少年が頭をひねって考えていたら突然部屋の扉が開く。
「あっ! 起きてる!! お母さーん!起きたよー!!」
入ってきたのは一人の少女。
『白』の少年と同じぐらいの歳の可愛らしいオレンジの髪をした女の子だった。
「アンナ?それは本当なの? ――あら、本当ね」
少女――アンナの母親と思われる黄緑色の髪をした美しい女性が少年の顔を見て驚いたような声を出す。
「ねぇ! 君は誰なの!? 龍の巣で寝てたんでしょ!?」
アンナが少年に質問する。
だが、少年は少女の目を見ていない。
その視線の先には少女の髪があった。
「ねぇ、この綺麗な『色』は何て言うの?」
少年はアンナの髪を手にとって聞いた。
「これ?これは『オレンジ色』って言うんだよ!」
「オレンジ色――その色は?」
少年は次にアンナの母親の髪を指して聞いた。
「私のは黄緑色よ――ねぇ、ボク。お父さんとお母さんは?」
「お父さん?お母さん?居ないよ?」
少年の言葉にアンナの母は驚いた。
「じゃ、じゃあ今まで何してたの……?」
「え~っとね~、絵を描いていたんだ! でも『白』しかないから上手く描けなかったんだぁ~」
少年は笑顔だった。これで自分の絵に『色』がつくと思うと嬉しかったのだろう。
けれどアンナの母親はそんなことは知らない。
両親が居ない、この事実で頭がいっぱいだった。
「(見た目はアンナと同じ……つまり七歳前後の子ども。……だけど一人)」
今までどんな生活をしていたのか、想像がつかなかった。
そんなことを考えていたら彼女の服を引っ張るものが。
「ねぇ、お母さん。この子をお家に止めてあげようよ!」
アンナはそんな母親の心情を察したのか笑顔で提案した。
「そうね、それがいいわね。――ねぇ、ボク。お名前は?」
「僕? 僕は『レン』って言うんだ!」
少年――レンは誰に貰ったのか分からない、気が付いたら持っていた名前を言った。
「レン……いい名前ね。じゃあレン?私達の家族にならない?」
家族――それはレンが欲しいものの一つだった。
「うん! 僕なる!!」
レンは笑顔で頷いた。
「私はエレナ=フリークス。この子はアンナ=フリークスよ。よろしくね、レン」
「よろしく! ……私がお姉ちゃんだからね!!」
この日、『白』の少年は『オレンジ』と『黄緑』を知った。