襲撃
今回もアイリ視点です
〜アイリ視点〜
お父様との修練が終わった私は、お風呂に入って汗を流し自室で着替えていた。
コンコン
「お姉ちゃん、入っても大丈夫?」
「サリアか?良いわよ」
そうして入ってきたのは妹、サリア・ランベルグだ。
彼女も金髪碧眼であり、アイリがストレートなのに対し、サリアは少しパーマがかかった髪型である。
今年で8歳になり、美しい、と言うよりは可愛いといった顔立ちである。勿論非常に整っている。
「お姉ちゃんお疲れ様」
「ありがと。サリアは出掛ける準備できてる?」
「うん!昨日の夜から準備してたから大丈夫だよ!」
えっへん!とでも聞こえてくるようにサリアは言った。
そんなに楽しみにしていたなんてサリアは可愛いな。
「そうか、私も着替え終わったら直ぐ行くから、ちょっと待ってて」
「はーい!」
そう言って、荷物を取りに行ったのだろう、サリアはパタパタと出て行った。
外に出るとお父様がお見送りに出てきていた。
「気をつけるんだよ?アイリ、ちゃんと剣は持ったかい?」
「はい、大丈夫です」
私は腰の剣を手で確認した。
お父様はさらに真剣な顔をして、
「そうか。良いかい?絶対に魔森には近づいてはダメだよ?危険と思ったら直ぐに帰ってきなさい」
私は大きく頷き、
「もちろん分かっています。サリアを危険に晒すわけには行きませんからね。それでは行ってきます、お父様」
「うん、行ってらっしゃい」
そう言って私とサリアは手を振りながら歩いて行った。
私とサリアはサラン草原で野いちごを集めていた。
サラン草原はランベルグ領の南に位置している。その南にはローヴァーの魔森が広がっているが、境界辺りを衛兵が巡回しているし、そもそも魔森から魔獣が出てくる事は滅多にないので、近づきすぎなければ問題は無かった。
「また一個みっけ!」
「全く、野いちご探しはサリアに全然敵わないなぁ」
私とサリアは野いちごをいくつ集められるか競争しているのだが、全く勝てる気がしない。
「なんか上手く見つけるコツでもあるのか?」
「うーん、なんかね、あそこにある気がする!って思ったところにあるんだよ!」
「私には何も感じないんだが…」
「しゅーちゅーすればわかるよ!気合だよ!もっと熱くなりなよ!お姉ちゃん!」
腰に手を当てながらサリアはそう言う。
あれ?サリアってこんなに熱血な子だったっけ?
「そ、そっか!とりあえずサリアはどのくらい集められたんだい?」
「えっとね、これくらいかな!」
そう言って籠の中を見せてもらうと半分以上入っていた。
「お、結構集まったね。私のと合わせれば足りるんじゃないかな?」
「うん」
そう、今日の野いちご集めはお父様に内緒でイチゴタルトを作ってあげるための材料集めなのだ。
「これだけあれば料理長に渡せば作ってもらえるはずだ。そろそろ日が傾いてきたし帰ろうか」
「はーい!」
私とサリアは満足しながら、帰る準備をしていた。
すると…
カーンカーンカーン!!
突然街の方から鐘の音が響いた。
何?と思っていると、境界を巡回している衛兵達が走りながら、
「敵襲の鐘がなっている!急いで街に戻るぞ!」
と叫んでいた。
「サリア!私たちも急いで家に帰ろう!」
「うん!」
サリアが頷くと、私達は街に向かって走っていった。
街に着くと、いたる所から火の手が上がっていた。
「きゃー!!!」
「壊せ殺せ!皆殺しにしろ!」
誰かが叫んだ。町の人々は逃げ惑ったが、声に応えるように鎧を着た兵士たちが人々を次々と切り殺していた。
「お姉・・ちゃん・・・」
サリアが今にも泣きそうな顔をしてこちらを見上げていた。
「見ちゃダメだ!急いで家に帰ろう!お父様が心配だ!」
そう言って、サリアにこれ以上見せてはいけないと思い、手を引っ張りながら家に向かって走った。
もう少しで家に着く、という所で、門の中から剣を打ち合う音が聞こえてきた。
「く、おとなしく斬られやがれ!」
「そういう訳にもいかないんで・・・ねっ!」
門をくぐると、お父様が5人の兵士に囲まれながらも打ち合っているのが見えた。
「お父様!」
思わず私は声を上げてしまった。私の声に気づいた兵士達とお父様の視線がこちらに集まった。
そしてお父様と打ち合っていた兵士が、
「あれは・・・男爵の娘か!捕まえろ!」
と仲間に向かって叫んだ。
「アイリ!サリア!逃げろ!」
お父様はそう叫びながら兵士たちと私達の間に立った。
「お父様はどうするのですか!?」
「俺がこんな奴らに負けるとでも思っているのか?」
お父様は微笑みながらそう言った。
「絶対負けないでくださいね!」
と私が叫ぶと、お父様は、あたりまえだ、と呟いた。
そして私はサリアの手を引きながらサラン草原の方へ逃げて行った。