人の恋路を邪魔する奴は
誤字報告いただきました!ありがとうございます!
ふう。
心でため息をつく。笑顔は保ったままなのだからこのくらいは許してほしい。
いつも通りシャンデリアは光り輝いているし、出されている食事だっていつも通り美味しい。
いつも通りでないのは私の心だけだ。
「どうした?タルティーヌ、疲れてしまったかい?」
エスコートしてくれた婚約者、ゲイル様が声をかけてくれた。
「そうね、少し疲れたかしら。座ってもいい?」
「じゃあここで座って待ってて。何か喉を潤せるものを貰ってくるよ。」
彼は甲斐甲斐しい。優しくて自慢の婚約者だ。
政略で決まった婚約だというのにとても気があって、大変ありがたい事に誰からみても理想のカップルと言われるくらいの仲良しだ。
飲み物を取りに行ってくれる彼を微笑みで見送って、今日の憂鬱の原因に想いを馳せる。
※※※※※※
「あらタルティーヌ様、ごきげんよう。お元気でいらっしゃいまして?」
久しぶりにお会いした。……この方は苦手だ、出来れば無視して欲しかった。
「お久しぶりですね、ノウミィ様。お父上のご活躍の噂、よくお聞きしておりますわよ。」
この方は天才だ。本当に天才的で。
「まあ、そんな当て擦りをされるような事、貴方にしたかしら!わたくしそんなつもりは…」
みるみる間に眼が潤む。
そう、彼女は人を悪人に仕立て上げるのが天才的に上手い。ノウミィ・フォレスタ子爵令嬢。人によって評価が真っ二つになるという珍しい令嬢だ。
「ノウミィ!大丈夫?貴方また…」
駆け寄った"彼女を熱烈に支持する"ご令嬢に何故か睨まれる。
「あらノウミィ様どうなさったのかしら?わたくしは先日お父様が叙勲を受けたというのでお祝いを申し上げようとしていたところなのですが。」
「本当に?どうせまたノウミィに嫌がらせをしようとしたのではなくて?貴方たちはやたらとノウミィに厳しくていらっしゃるから。」
すっと助け舟が入った。
「タルティーヌ、どうしたの?またノウミィ嬢に絡まれているの?」
絡まれている、というワードにノウミィ様がカッと目を見開く。…あら涙はどちらへ?
「リリア!そうなの。わたくし先日お聞きした彼女のお父様のご活躍の噂を話題に出したんだけどお気に召さなかったみたいで…当て擦りって言われちゃったの。」
「まっ、そんな事わたくし言っておりませんわ!酷い!そうやってわたくしの事をいつも悪者になさるのよ!」
またもや眼が潤み始めたが、さらに強力な助っ人が現れた。
「あら、わたくしたち真後ろにおりましたけどタルティーヌ様は"お父上のご活躍の噂、よくお聞きしておりますわよ。"としか仰ってなかったわよ。なのに急に当て擦りだとか何とか言い出したと思ったらお仲間が一緒になって責め始めて。」
「ええ、ですからわたくしたち、ねえ?」
「ねえ?もしかしたら叙勲の噂って間違いなのかしら?って。」
「でも先日わたくしたち、ノウミィ様が自慢なさっているのを直接お聞きしましたし…。って、みんなで悩んでおりましたの。」
「だってねえ、それじゃあまるで…」
「ノウミィ様が、ねえ?」
ノウミィ様を庇っていたご令嬢が少しずつ離れていく。今更離れたところで無駄だろうに。
それに気づきノウミィ様もまた憎々しげな表情を隠すことなく、最後にギリリと睨みつけてから去っていった。
まあ、彼女たちの魂胆は分かりきっている。
「はあ、貴方も大変ねぇ。あの人たちの悪あがきっぷりったら。あのくらいのことで貴方たちの仲が揺らぐことは無いっていつ理解するのかしら。」
そう。狙いはゲイル様だ。わたくしと彼の婚姻は政略的なもの。伯爵家のひとり娘であるわたくしの家に次男の彼が婿入りする事になっていたのだ。
だが半年ほど前の事…
「ええっ!兄上がですかっ!そんな、兄上は我が侯爵家の跡取りではないですか、無茶苦茶な話だ!」
彼の兄、ポダロッサ様が大臣であるお父上と共に他国の会議に参加した。各国の大臣が集まる大きな会議だったため行事も多く、凡そ1ヶ月その国に滞在する事になっていた。
その国では女性も重要なポジションに登用されるらしく、発言力のあるわが国には特に優秀と思われる女性が対応してくれていた。
……その方が王女であったなんて。
そして長子継承が原則のその国において、彼女は次期女王でもあった。
その彼女に見初められてしまったのだ。そうなれば、ポダロッサ様は彼の国の王配である。資源豊富で高度な文明を有する大国、断るのは難しい。そもそもこんな良い話断ろうと考えるものは普通いないが。
それでもポダロッサ様は当然悩んだ。だが気がつけば周囲を固められておりイエス以外の答えが返せない状態にされていた。
と、本人はぼやいていたがゲイル様もわたくしも分かっている。
ポダロッサ様、一目惚れだったんでしょ?
侯爵家嫡男という事で有象無象の玉の輿狙いのご令嬢達が群がり、更には婚約の噂が出ただけのご令嬢でさえ嫌がらせを受け。
ポダロッサ様の伴侶選びは難航していた。
そんな中、嫌がらせを受ける心配もなく仕事の面でもお互い尊重し合える王女。自身が負う侯爵家への責務さえ無ければ喜んで飛びついたであろう。
「まあ、どうにかなるんじゃない?」
板挟みになった彼の罪悪感を軽くするためにそう言い、お父上は彼を送り出す決意をした。
ただそうなると問題になるのは…
「はい、ソーダ水。さっぱりするよ。……どうしたんだい?今日は何だか元気がないように見えるけれど。もし何かあるなら話を聞くよ。」
どれだけ笑顔で過ごしていても彼にはお見通しである。
「そうね、少し困った事になっていて。そろそろ貴方にも相談しなきゃって」
「あら、タルティーヌ様!随分お疲れのようね。」
「……ノウミィ様。」
「貴方はこちらでゆっくりなさったら?ゲイル様のことは任せて!わたくしが退屈しないようにお相手して差し上げますから。」
「いいえ、そこまでご面倒をおかけするのは申し訳ないですわ。」
「そんな、ご遠慮なさらないで。わたくしと貴方の仲じゃない!」
抱きついてきたノウミィ様が顔を寄せてこう言った。
「彼は侯爵家の跡取りになったの。伯爵家を継がなきゃならないアンタなんかもうお呼びじゃないのよ。」
ああ煩わしい。そうね、今日のところはゲイル様に甘えてしまいましょう。
彼女が喜ぶように、と思い些か傷ついた顔をして告げた。
「では、そうさせて貰おうかしら。ゲイル様、今日は先に帰らせていただくわ。貴方は存分に楽しんでらして。」
※※※※※※
アグバージェ侯爵家に突如降って湧いた後継者変更問題。兄のポダロッサ様が他国の王配になる事がほぼ決定した今。
伯爵家へ婿入りする予定だったゲイル様がフリーになることはもう決まったようなものだろう。
ふふ。仲が良いと言われて付け入る隙もなかったゲイル様とタルティーヌ様だったけど、こうなれば話は別ね。
だって、伯爵家を継がなきゃならないタルティーヌ様はどうやったってゲイル様と結ばれるのは無理じゃない!
ゲイル様だってあの女に義理立てして言い出しにくいんだろうけど。
侯爵家の跡取りの座が手に入るのよ?伯爵家に婿入りなんてまっぴらごめんに決まっているじゃない!
それを理解しているからか、あの女最近元気がないのよ。ふふふ。今日はうまく追っ払えたし、ゲイル様の次の婚約者はわたくしだとアピールしなければ。
その日、群がってきた令嬢達の中でうまく立ち回り"わたくしの優位性"を存分に知らしめたのだった。
「やあ、タルティーヌ。具合はどうだい?」
「わたくしは最近考える事が多すぎて疲れていただけよ。それより貴方のお疲れの方がよっぽど深刻そうだわ。」
ゲイル様の眼の下には真っ黒な隈が出来ていた。
「もう!大変だったんだよ!兄上はあれをずっと交わし続けていたのかと思うと本当に尊敬だよ。」
昨日私が去った後、彼は令嬢達から文字通り揉みくちゃにされたんだとか。
「ふふ。そんなに何回もできる経験じゃないでしょう?楽しめば良かったのに。」
揶揄うと、心底嫌な顔をしながら言い返される。
「そんなレベルじゃないよ!だってもうさ、あの…何だっけ?あのいっつも俺に聞こえてないと思って君に嫌味を囁いてくる女!どっかの子爵令嬢だか何だか知らないけど酷いんだよ!」
そう。彼は地獄耳なのだ。恐らくだが昨日彼女が彼に聞かれないように、とわたくしに抱きついて囁いた言葉もまるっと聞かれているはずだ。だってすごい顔してたもん、彼。
「せっかく侯爵家を継げる事になったのに、いつまでもタルティーヌ様に縛り付けられていて可哀想!わたくしなら侯爵夫人として支えて差し上げられるのにぃ!だってさ。」
うわあ、彼本当にノウミィ様のこと嫌いなんだなあ。彼女の声真似をしながら見たこともない嫌そうな顔してるし。
あまりの変顔に笑いをこぼすと彼もやっと笑顔になった。
「とにかく僕たちの婚約はどんな形であれ継続するから!約束だよ!まずはアイツの親父に抗議からだ!」
言葉が乱れていてちょっと危ういけど、彼の愛情の深さに泣きそうになる。
そう、私たちは"どんな形"になったとしても婚約自体は揺るがないのだ。
「ゲイル様、抗議はちょっと待ってね。今まであまりにもやられっぱなしだったし、わたくし以外にも被害に遭っている方がいるの。せっかくだから、やり返して差し上げようかなって。」
※※※※※※
その日のお茶会に衝撃が走った。今までずっと噂レベルだったあの話が現実のものとなったのだから。
とうとうゲイル様がアグバージェ侯爵家の後継として発表されたのだ。
「ねえ、お聞きになりまして?ゲイル様とタルティーヌ様、とうとう…」
「ええ、お聞きしましたわ。お家の事情だからご納得されているというお話ですけれど、あれほど仲が良かったのに。」
半数以上のご令嬢は2人に同情的だった。だって、自分たちだって政略結婚から逃れられないのだ。
"政略結婚でもあれほど仲睦まじく過ごせるのね"
それが希望になっていた令嬢たちは自分の事のように嘆き悲しんだ。だが残りのご令嬢方は…
「まあ、タルティーヌ様ったらやっとゲイル様を解放して差し上げるのね。」
「お2人は相思相愛だってお聞きしていたけど。それなら尚更ねえ。」
「お相手に侯爵家の跡取りの座が回ってきたのに、意地汚く縋りついて伯爵家に縛り付けようだなんて。」
言いたい放題だった。もちろん筆頭は。
「ゲイル様がお可哀想でわたくし見ていられなかったのです。ですから、わたくしゲイル様を解放して差し上げて!って何度何度も。ようやくご決心されたのね。」
ノウミィ様だ。決定的なことは言わないが、自分が次の婚約者に内定していると匂わせるような発言を繰り返していた。
「わたくし、ゲイル様が悩んでいらっしゃる所をお慰めしておりましたの。わたくしならこんな事で悩ませたりしない、立派に貴方の横で侯爵夫人としてやり遂げるのに、って。」
「ゲイル様がご決心されるお手伝いができた事、大変誇らしく思っておりますの。」
「ねえ、タルティーヌ。アレほっといていいの?」
「え?ああノウミィ様ね。いいのよほっといて。…というよりもね、あのまま1ヶ月ほど好きなようにさせて欲しいのよ。ふふ。わたくしやられっぱなしは性に合いませんから。」
「うわあ、タルティーヌのその顔、久しぶりに見られて嬉しいわ!」
大親友のリリア、リリアローズ・ベリサリテ侯爵令嬢にだけは作戦を伝えておいた。
そして一ヶ月後。
「ねえ、お聞きになりまして?ゲイル様、今日の夜会で!」
「ええ!今日の夜会で重大発表をなさるんでしょ?きっと新しい婚約者を発表されるんだわ!」
「わたくし、ノウミィ様に決まったと聞いたわよ!」
「ええっ!そうなの?わたくしはノウミィ様が勝手に言って回ってるだけって聞いたんだけど?」
「あなたたちしっ!…噂をすれば、のノウミィ様よ。」
ゲイル様が婚約解消した直後から、わたくしは猛アピールを続けていた。
だってこんなの早い者勝ちでしょう?ゲイル様には心配しなくて大丈夫と言われてはいたけれど、実際問題早く次を決めなければいけないのは明白。
まあ、多少タルティーヌ様のことを引きずるのは仕方がないことなんでしょうけど。
2人で過ごす時間が増えればすぐに忘れさせてみせるわ!
この一ヶ月、散々アピールしてきたしゲイル様も最初とは違ってわたくしと話している時に笑顔を浮かべるようになったわ。だから!
今日の主役はわたくし!
「ねえねえ、ノウミィ様物凄く派手じゃない?」
「確かに。やっぱり本人には今日プロポーズがあるって何となく伝えてるんじゃない?だからあんなにギンギラギンに仕上げてきたのよ!」
ご令嬢たちはゲイル様の婚約者発表を心待ちにして浮き足立っていた。
そんな中、今夜の夜会の主催者ベリサリテ侯爵が壇上に立った。
「今宵お集まりの皆さん、楽しんで頂いているだろうか。」
侯爵が話し出すと、先ほどまでのざわめきが嘘のように静まり返った。
「この場を借りて発表したい事があると言われましてな。彼に少し時間をやって欲しい。」
そう言って手招きしたのはゲイル様だった。
軽快な足取りで壇上に上がったゲイル様は、侯爵に礼をしてから話し始めた。
「まずはこの場を提供して下さったベリサリテ侯爵にお礼申し上げます。そしてリリア…リリアローズ侯爵令嬢にも、私の決定に関してたくさんの助言を頂きありがとうござました。」
丁寧にリリアに礼をしてから本題に進む。
「さて、早速本日お時間をいただきました件についてお話しいたします。すでにご存知の方も多いかと思いますが、兄ポダロッサが縁ありまして他国にて王配を賜る事になりました。それに伴い我がアグバージェ家におきましては後継者を変更する必要が出てまいりました。」
ノウミィ様の眼が輝いている。自分が選ばれるとまだ信じているのね。ここに至って一度も打診さえ受けてないと思うんだけど。
「我が家には兄と私しか子がおりませんので、この度私がアグバージェ家を継承する手続きが終了致しました。またそれに伴い…」
彼の視線が私を捉える。
「当初予定しておりました、私のマルシュ伯爵家への縁組の見直しも行われました。」
ノウミィ様は喜びのあまり飛び跳ねそうだ。んー??ご両親も?一緒に喜んでいるのかしら?
……ご両親は婚約の打診なんか来ていないことご存知よね?何故あんな反応なのかしら?
ま、いっか。彼の話の続きに集中しよう。
「その結果マルシュ伯爵家への婿入りの話は円満に解消となりました。」
この瞬間、男性陣からも歓喜の声が上がった。
そりゃそうだ、ノウミィ様ほど露骨にしゃしゃり出る人はいなかったけれど、わたくしだってかなりの優良物件だ。
そう、伯爵家への婿入りの道が開けたのだから。
だが、次の瞬間歓喜の声は消え去った。
「そして、私がマルシュ伯爵家に入るのではなく」
「タルティーヌ・マルシュ伯爵令嬢がアグバージェ侯爵家に入る事になりました。」
しーん。戸惑いが広がる。
「はっ?!ええっ!わたっ、わたくしがっアグバージェ侯爵夫人となって支えていくってっ!」
ノウミィ様の叫び声が響き渡った。
「ん?何の話だ?」
「ゲイル様っ!わたくし何度も貴方のことをお慰めして、わたくしなら侯爵夫人として寄り添って差し上げられるとお伝えしたではないですか!」
お慰めって。ちょっと誤解を招く言い方じゃない?
「あのね、何度も言ったよね?心配してくれてありがとう、ちゃんと今後のことは考えているから大丈夫だよ、って。君を迎え入れるなんて一言も言ってないよ?」
ノウミィ様のご両親が口をパクパクさせていたが、我に返って叫ぶ。
「う、ウチの娘を弄んだと言う事か?君のことを何度もお慰めしたんだろう?いくら我が家が子爵家だからと言って酷いだろう!」
ああそう言うことね。ノウミィ様はご両親にまで都合良く誤解させる言葉をチョイスしていたのね。
「ああ、君たち。息子の言葉に補足させてもらうよ。何度もお慰めってねえ、君。身持ちが悪い女ですって言って回っているようなものだよ。……まあ君の場合、息子のお手付きだと誤解させるのが目的だったんだろうけど。」
侯爵、物凄く嫌そうな顔なさってるわ。親子揃ってこういうタイプ本当に嫌いなのよね。
「皆様の前で誤解のないようお伝えしておく。彼女…えーっと?誰だっけ?まあとりあえずこの女性との間には何もない。そうだな?ゲイル?」
「はい、何度も大丈夫だから、と伝えたのですが理解していただけなくて。途中からは曖昧に微笑むだけにしていました。あ!友人のアドバイスもあって、決して2人きりになる事がないようにしておりましたので、彼女の言う"お慰め"は文字通り"慰めの言葉"を貰っただけです!」
「そ、そんな…」
※※※※※※
この日の夜会はノウミィ様の評判を下げるだけのものになってしまった。あ、もちろん私たちは祝福してもらえたけど。
あの話の顛末はこうだ。
壇上から降りてきたゲイル様はすぐに私の元へと駆けつけ、跪いて改めてのプロポーズをしてくれた。
もちろんその場でOKしたわ!
でも周囲はまだ心配そうだったの。それはそうよね、だってマルシュ伯爵家の後継問題がまだ残っているもの。だからお父様はたくさんの方々に囲まれてしまった。
「いやあ、我が家の後継問題も片付いたと言いますか……」
ちょっと気恥ずかしそうなお父様から、集まった皆様に衝撃の発言が出た。
「半年前、あのお話が出た後のことなんですがね。実はね…。」
そう、なんと私にきょうだいができたのだ。
「ええええええっ!」
お母様の年齢を考慮しても安全なお産とは言えなかったので極秘にされていたのだが。
一月ほど前に無事出産したのだ。しかも男女の双子を!
「男女両方産まれましたからな、大抵の継承には対処できるんですよ、はっはっは。」
「大きくなるまでは私が頑張ればいいからタルティーヌは好きな人と添い遂げろ、と言ってやることもできましてね。本当に良かったです。」
まあ子供の話がなくてもわたくしが嫁いでいたとは思うけどね。わたくしが伯爵家の後継を産めば良いだけだから。
そんな訳でノウミィ様が次の婚約者の座を狙って暗躍し始める頃には、すでに私たちの婚約は揺るぎないものになっていたのだ。ご愁傷様でした。
ノウミィ様のご両親からは侯爵家にも我が家にも丁寧な謝罪があった。
娘の"お慰めする"という衝撃ワードに思考停止してしまっていたこと。そして、お手つきにしたにも関わらず婚約解消が難航していること。
周囲には我が家が諦め悪く、娘の婚約が進まないと愚痴ってしまったそうだ。
そして、事前に打診もなくいきなり夜会で発表されると娘に聞き、侯爵家に対しても少し常識を疑っていたとか。
色々と軽んじられていると感じて我が家にも侯爵家にも悪感情を抱いていたのに。
「まさか、全て我が娘の虚言だったとは。」
そう言って肩を落とす子爵夫妻に何も言えなかったそうだ。
だから我が家も侯爵家も特にペナルティを課す事もなかったんだけど。
彼女自身は良い縁談をすっぱり諦める事にしたそうで。
「本当に申し訳ありませんでした。自身を恥じております。」
という謝罪があった。憑き物が落ちたような清々しい謝罪でびっくりだったけど。
そしてさらに衝撃だったのが。
「えっ!ポダロッサ様と一緒に!?」
「ええ、そうなの。ポダロッサ様が今回の顛末を王女にお話ししたらね。」
"なんと!ご実家にそんなにご迷惑をかけていたとは!そして1人のご令嬢の未来を潰す結果になってしまったのか…"
「って責任を感じていらっしゃるんですって。それで王女宮付きの女官の口を用意してくださったの。」
「ではあの国に渡られるのですか?」
「はい、タルティーヌ様にはとてもとても迷惑をかけてしまったので渡航する前にどうしても謝罪したくて。」
「ご苦労されることもあるでしょうが、どうぞお元気で。」
「ありがとうございます。ふふ。でもね、王女はとても豪快で楽しい方で。」
"国際結婚だからな、王配の国の女性の慣習も知りたかったからちょうど良かった。けどな"
「けどな?」
"けどな、ポダロッサに粉かけたらぶん殴るからな!"
「ですって!こんなにこざっぱり対処してくださる女性となら上手くやっていけそうなの。だから心配しないで。」
おおう。なんだか分からないけど良かったね。
そして。
「ではお互いに。」
「ええ、お互いに。」
"自分の居場所を大切に生きていきましょう"
そう言って別れたのだった。




