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「姉上とっても綺麗だよ」
「ありがとう。伯母様のお陰だわ」
「年々お母様に似てきたな。⋯⋯1人で行かせるのは心配だ」
「何が心配なの?モルダー兄様が一緒だから大丈夫よ」
そうなのだ。今日の私のエスコートは従兄のモルダー兄様がしてくれる事になったのだ。
王太子殿下の側近であるお兄様は、今日の夜会に参加はするけれど王太子殿下の傍を離れられないらしく、『ベルのエスコートが出来ないなら側近を辞める』とまで言って周りを困らせた。
ウィルはまだ参加できないし、お父様はこの国に来てから一切社交の場には出ていない。『隠居の身だから行けない』とか言い訳をしている。
確かに当主はお兄様で、他国から移住してきたお父様が表に出ることをよく思わない人もいるだろう。
そこで名乗り出てくれたのがモルダー兄様なのだ。
この国に到着してバーネット公爵家にご挨拶に行った時には王太子殿下の視察に同行していたため会えなかったモルダー兄様。
その視察から帰ってくるなり我が家に訪問してきた。
お祖父様と伯父様に似たクマのような人を想像していたが、身体付きは大きくて筋肉モリモリなのは一緒だけれど、聞いていた実年齢よりも若く見える童顔で、ご両親似ではなくお祖母様似だった。
ガッチリとした体に垂れ目の、凛々しいというよりかは可愛らしいワンコのような人。
会うなり『君たちがベルティアーナとウィルダーだね』と手を伸ばしてきた。お祖父様と伯父様で学習した私とウィルは思わず後退ってしまった。
結局、抱き上げられることも、高い高いをされることもなかったけれど、頭を撫で回され私のウェーブのかかった髪は絡まり、ウィルの髪は鳥の巣のようになった。
その後専属侍女のハンナがどれだけ苦労したことか⋯⋯
それ以来度々我が家を訪れるようになったモルダー兄様に、以前から教えを乞いたいと願っていたウィルはすごく懐いている。
「やあ!ベルティアーナ!いつにも増して可愛いじゃないか!」
「当然だよ!僕の姉上だからね!」
「⋯⋯モルダー、くれぐれもベルを頼んだよ」
「お任せ下さい。何人たりともベルティアーナには近付かせません」
「姉上は絶対にモルダー兄上から離れたらダメだよ」
「⋯⋯わかったから同じことを何度も言わないでよ」
これはウィルだけでなくお兄様にもお父様にも何度も言われ続け信用のない自分に少し落ち込んだ。
「さあ着いたよ。ここからは気を引き締めるんだよ」
「はい。仮面を被るのには慣れているから大丈夫です」
モルダー兄様の手を借りて馬車から降りる。
そのままエスコートされて夜会会場となるホールに向かった。
この国で初めて公の場。
入場する時に大きな声で名前を呼ばれる。
「バーネット公爵家モルダー様。ディスター侯爵家ベルティアーナ様ご入場」
淑女の仮面は貼り付け済み。
薄く微笑んで背筋を伸ばして真っ直ぐ前だけを見つめる。
中には色とりどりのドレスを着た貴婦人や令嬢たち、正装を着こなす男性たちの姿。
その中でも白いドレスの令嬢たちが私と同じデビュタントだ。
男性の衣装についてはよく分からない。
この国に来て数ヶ月経つけれど、私の知り合いは身内だけの狭い範囲だけ。
学院にも通っていない私を知る人はいないに等しい。
ふんふん。なるほど。なるほど。
ヒソヒソと話している内容を耳が拾うと、どうもモルダー兄様はモテるみたい。隣にいる私が気に入らないらしい。
睨んでいる令嬢が何人もいる。
このパターンは1人になると碌なことがないのは経験ずみ。
まだ婚約者のいないモルダー兄様は公爵家嫡男、次期公爵夫人の地位を狙っている令嬢が多いのは想定済み。そんな争いに巻き込まれないために、王家への挨拶とファーストダンスを踊り終われば帰る予定だった。
「女って怖いよね」
モルダー兄様にも令嬢方の会話が聞こえていたようだ。誰にも聞こえないように少し屈んで話しかけてきた。
「いつまでも婚約者も作らないモルダー兄様が悪いのでは?」
「それを言ったら俺と同じ歳のレックスも同じだろ?」
「レックス兄様にお付き合いしている令嬢はいませんの?」
「めちゃくちゃモテるけど聞いたことがないな。それどころか令嬢に対して愛想笑いもしないよ」
そんな他愛もない会話を2人でしていると、令嬢方の視線はどんどん鋭くなっていくのが分かる。
もう早く帰りたい。




