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零落に散り、泡沫と死ぬ Fall into Ruin / Die Like Foam  作者: 魂宝石
第二章 オーランス王国
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第二章4 何度目かの気絶

何度目かの気絶



「絶魔部隊の…元帥…?」


オーランス王国の大門扉の前で、一人の老人と少年、そして少女が言葉を交わしていた。周りの王国民は、何故あの少女が二人と話をしているのか、興味を持っているような視線を向けてくる。

王国民にとっては違和感しかないのだろう。

見たことのない少女が、王国の上層部と言葉を交わしているなんて。


「ダルネンのこと、もちろん知ってるよね?」


ルフナがスグハの顔を覗きながら聞いてくる。

「もちろん知ってるよね」と聞かれるほど、ダルネンは有名人なのかなんなのかわからない。スグハはこの世界に来て、まだ三日目ほど。

ナギサとドレイクとは、世界について聞く前にはぐれてしまったため、歴史や文化については何も知らない状態だ。

どう答えていいのか分からず、言葉が詰まってしまう。


「………?聞こえてますか〜?スグハさん〜」


「体調が優れませんか?それならば王国を案内しますので休憩しましょう」


「すみません、少しぼーっとしてただけです」


「本当ですか?それなら良かったです」


ダルネンが鎧を鳴らしながらスグハに聞いてくる。

魔女を滅ぼしたいと思っているようには見えないほど、親切な老人だ。

誰にでも優しくするような暖かい雰囲気を、この老人は纏っている。

しかし、そんな人が絶魔部隊の元帥となると何か裏がありそうだ。


「そういえば、まだ貴方の名前を聞いてはいませんでしたね。教えていただけると、こちらも話しやすい」


ダルネンが印象の良い笑顔を見せながら言う。確かに、まだスグハはダルネンに名前を明かしていなかった。相手が名前を言ったのなら、自分も教えるのが礼儀というものだろう。


「私はスグハ。サクラギ・スグハです」


お辞儀をぺこりとし、名前を明かす。魔女との関係を持つスグハには、ダルネンは敵となりうる存在の相手だ。ドレイクのこともあり、深く関係は持たないようにしたい。


「心に刻んでおこう」


威厳のある声でそう答える。絶魔部隊という、オーランス王国の象徴ともなりうる組織の元帥だ。ただの老人には無いような覇気を纏っている。

少しだけ、その覇気に気圧されるスグハだが、ダルネンのすぐ隣にいるルフナがなんともないように話す。


「スグハは面白い人ですから、先生もすぐ仲良くなれますよ!」


ダルネンに目を輝かせながらルフナは言う。ルフナの「面白い」は馬鹿にしているのかどうか分からないので素直に喜べない。しかし、笑いながら話すルフナにそういったものはないのかもしれないが。

ダルネンはルフナの頭を鉄の鎧で撫でた。一回撫でるごとに金属音が響いて、気持ちよくなさそうな感じがする。しかし、ルフナは変わらず笑っていた。

心が温まるような瞬間を少しだけ見れた後に、ダルネンは急に改まった顔をして、スグハを見る。


「まず、スグハさんに聞きたいことがある。君は、どこの国から来たのだね?」


唐突な質問に、スグハは少し言葉を詰まらせる。スグハの故郷は他でもない日本。しかし、この世界はそのような国は存在せず、計四つの王国と帝国があるだけだった。相手はただの老人じゃない。適当な国を言っても嘘と見抜かれるだろう。


「えーっと……実は私も分からなくて…」


日本という国がないのなら、それは「分からない」と言うしかない。この世界では故郷のない少女なのだから。

ダルネンは困惑して、はてなマークが浮かんでいるような顔をする。


「それはどういうことだろうか?」


困惑するのも当然。

自分の出身が知らなければどこから来たという話になる。


「じゃあどこから来たんですかぁー?」


ダルネンの心の中を代弁するかのように、ルフナは言う。


「私の故郷は、この世界の地図に乗ってなくて……だから分からないです」


「それはそれは!特殊な故郷なんですね!」


ルフナはなんの疑いも感じた様子はせず、特殊な、で済ませる。

そもそもの話、故郷が分からない人に同情はしないのだろうか。

と、不満を心の中で叫ぶが、同情してくれと言っているような自分の方も、なんだか性格が悪い気がしてきた。ルフナと絡むのは何故か疲れる。

色々な感情が混ざって一つのため息へ変えた。

そんなスグハの様子を見てダルネンは、


「ふむ、じゃあ質問を変えよう。君はどうやってこのオーランス王国まで来たのかね?」


恐らく、戸惑っているスグハのことを見て埒が開かないと思い、質問を変えたのだろう。しかし、その質問もスグハにとっては同じような答えをするしかない。ゾケニア山脈でフィアーに囚われていたはずが、目覚めた時にはオーランス王国へ転移していたのだ。

説明のしようがない。


「実は、それも分かんなくて……。目覚めたらここに居たんです」


「そして、俺が助けてあげたって感じですぅ〜!」


先ほどの質問と同じような答えをすると、ルフナがそこに割り込むかのように入ってくる。

全く、人が真剣に考えている最中なのに、空気が読めないやつめ。

と、心の中で愚痴をこぼす。ルフナを睨んでいると、そこにダルネンも言葉を発した。


「分からないことだらけだな、君は」


苦笑しながら頬をかくダルネン。

なんだか申し訳なく感じてきて、少し顔を俯ける。しかし、その空気を変えようと、さらなる質問をダルネンは出してきた。


「じゃあ、最後に質問だ。君は、オーランス王国の決まりについて知っているか?」


このくだりは何回するのだろうか。もちろん答えはノー。ルフナに魔女との関わりを話すなと言うことなら聞いたが、ルールというより、それは魔女との関係がバレないようしろという警告だった。

だから、三回目のそれを言うしかない。


「……分からないです」


分からないと言うのが何故か怖くなって、顔を再び俯かせる。


「えっ?マジかよスグハさん。そりゃやばいでしょ。勉強したことある?」


ルフナがそんなスグハを気にもせず、煽りまくる。

勉強するも何も、できる環境などなかった。この世界に来て数日も経たないスグハの目線にもなって考えて欲しい。想像もできない出来事の連続であることは間違い無いが、たとえどんな理由だったとしても、あまりに度が過ぎた煽りだ。

瞬間、ダルネンの顔が険しくなる。先ほどまでの顔とは、全く違う顔に。


「ルフナ、簡単にそういうことを言っちゃいかん。相手の目線になって発言をしなさい」


ルフナにそう言って叱る。彼はダルネンの言葉に少し拗ねたように顔をぷいっとそっぽ向けた。「ザマァ」と心の中でニヤニヤしながら、彼の拗ねた顔を見つめる。そんな彼をよそに、ダルネンは話す。


「あぁ、あと一つ」


何一ついい予感などしないが、その言葉の続きを待つ。


「君は、魔女と関わりを持ったことがあるか?」


スグハにとって、一番聞かれたくなかった言葉だ。スグハは、自分の隠したい部分の核心を突かれるのにめっぽう弱い。隠したいが故に生まれた不安を握られて、体が反応を隠せなかった。ピクリと、後ろめたいものを感じている反応が。


「うっ……」


しかし、そこで謎の助けが入る。今のスグハにとっては、最高の助けだった。頭の奥から響く頭痛が、スグハの体の反応を誤魔化したのだ。


「おやおや?大丈夫ですかー?本当に体調悪そうですよぉー?」


反省した色を見せない口調で、心配しているのかしていないのか区別がつかない感じにスグハに聞く。ダルネンの方が心配そうな顔で見てくる。


「だい…じょう…ぶ…」


頼りない声で返答するが、意識が闇に落ちるのを感じる。





「………どこ?」


何度感じたか分からない意識の暗闇から帰還を果たす。

その後、スグハの目に映ったのは、茶色の木で出来た木造の屋根だった。明かりが少しだけあり、木目が見えるぐらいまでの明るさだ。そして、背中と頭を包み込む綿のような感触。私は、どうやらベッドに寝っ転がっているようだ。

起き上がり、辺りを見渡すと、豪華な装飾が施された貴族が住んでいそうな部屋だった。鏡やタンスがあり、柱時計が建てられている。

異世界でもわかる、この贅沢感。

そして、この部屋を見る限り、誰かの家のようだ。ならば、どこかに人がいるはず


「誰か人がいないかな……?」


人を探しにいくために、ベッドから体を表す。少しだけ立ちくらみがするが、すぐ治るだろう。それに、服装は気を失う前と変わっておらず、何か探られた形跡もない。

唯一変わっていたのは、靴が脱がされていることだ。

そのまま木造の床を踏みながら、ドアの前へ立つ。

ゆっくりとドアノブを捻り、外を見てみると、そこには長い廊下があった。

明かりは電気ではなくロウソク。なんともロマンチックな内装なんだ、とスグハはため息を漏らした。


すると、廊下の奥に大きな影が一つ。目を細めてみると、それは人の形をしていた。廊下に出て行き、絨毯の敷かれた床を歩く。靴下と絨毯が擦れる音が聞こえ、なんとも言えない感情が込み上げる。


「すみません……」


人影に近づいて、小さい声で呼ぶ。すると、それに気づいた人影はこちらに近づき、


「スグハ様!目覚めたのですね!」


ロウソクの光が、その人の顔を少しだけ照らす。目の前には、黒髪に黒曜石のように輝く瞳があった。美しく整った顔。前髪が少しだけ目にかかっていて、『美男子』と言う言葉が似合う容姿だった。

急に迫ってきたので、スグハは一歩後ずさる。

どうやら、エルフやドワーフなどの種族ではなく、スグハに近い「人」のようだ。

執事のような格好の青年にため息を漏らしていると、


「危ないですよ、勝手に部屋から出るなんて」


低めで落ち着いており、妙に圧がある声だった。

一般的には「イケボ」と呼ばれる部類の声のようで、とごかナギサのことを連想してしまう。何故か心の臓物が跳ね上がった。


「体調は大丈夫ですか?」


優しい声で、そう伺う。一日で何回気絶したか分からないぐらい、散々な目にあったので、体調が良いわけがなく、今も変な立ちくらみに耐えている最中だ。

しかし、謎のプライドがスグハの言葉に偽りをかけた。


「は…はい。大丈夫…うっ……」


大丈夫ではないのに大丈夫と言ってしまうスグハ。全然大丈夫じゃなさそうなスグハの様子を見て、執事は優しく話しかける。


「優れないようですね。無理してはいけませんよ。一旦ベッドまで戻りましょう」


瞬間、ぐらついた体を支えられ、執事の大きな背中に乗っけられる。鍛えられた筋肉の感触と、呼吸するたびに感じるいい香りがスグハの鼓動を早めた。

しかし、どんなイケメンにだって、急に抱えられたら困惑してしまうも当然だ。


「ちょっ……何して…」


顔の奥が熱くなるのを感じながら、少しだけ抵抗をする。

しかし、彼は強引に背中の上に乗らせて、部屋へ戻っていく。なんだか、ナギサと似ている気がする。


「無理をしないほうがいいですよ」


再び放たれる低くも優しい声。理由は分からないが、そんな彼について知りたくなった。まだ出会って数分もしない彼にこんな惹かれるとは、どうかしている。そんな気持ちとは裏腹に、自分の本心には抗うことのできない好奇心が勝った。


「あなたは…誰?」


ゆっくりと、彼の耳元で囁く。今気づいたが、間違って耳元で話してしまった。

うるさくなかっただろうか、とスグハの中で少しの後悔が生まれる。

が、そんなことを気にしていないように、この執事は話した。


「ライド・レストピア。オーランス城の執事であり、ルフナ・エレイソン様の使用人でございます」


ライドは歩いていた足を止めて、お辞儀ができない代わりに態度でそれを示す。まさかのルフナに仕えているものだとは思わなかった。

ルフナに対する印象がクソガキであるため、こんな使用人がいることに違和感しか覚えることができない。


「はい、もう一度ベッドに入っていただけますか?」


手短に自己紹介を終えると、スグハに向かってそう言う。

そして、ベッドの中に戻ると、ライドは咳払いをして、


「スグハ様は状況が分からないと思いますので、説明させていただきます」


確かに、今は状況が何も分からない。これはナイスタイミングだ。


「あなたは、エレイソン家の所有するオーランス最大の城、オーランス城に居ます。政治に関わる上層部の方々が、この城で滞在をしているのです」


エレイソン家……ということは、ルフナの家族がこの城を所有していることになる。オーランスという名前がついているため、てっきり王でもいるのではないかと思ったが、政治家たちが集まる城らしい。


「そして、スグハ様はオーランス城の客人フロアの一室で滞在を許可されているという状況です。どういう理由か分かりませんが、ルフナ様が承諾したので、当分はここで過ごせます」


ルフナが許可をするということは、この城の管理人みたいなものと推測できる。にしても、あんなガキに務まるのか?

と、スグハは本音を心の中で吐き出す。

この城についてはよく分からないが、とにかく国の大切なものがある場所、という認識でいいだろう


「ええと…じゃあ、ここはオーランス王国の重要な場所なんですよね?」


「はい、オーランス城は機密情報が飛び交う王国の中心部と言っても過言ではありません」


何故、そんな城に滞在させたのか、意味がわからない。どこの誰かも知らない人に、滞在させていい場所ではないことを、クソガキでも分かっているはず。ますます分からないルフナに、スグハは頭を悩ませる。


「なんで私が滞在することを許可されてるんですか…?」


「それは…ルフナ様にしか分かりません。私も最初は反対しましたが、どうしてもということで。あ、別にスグハ様を悪く思っているわけではありませんよ」


返答に困ったので苦笑だけして答えた。分からないだらけの今は、口角を上げるのにも苦労する。すると、彼がそんなスグハの気持ちを察したのか分からないが、話しかけてきた。


「体も疲れているでしょうし、入浴することをお勧めします。……大丈夫です。ルフナ様のことは見張りますので」


どうやら、ライドもルフナの性格については知っているようだ。

風呂に入れるなら今すぐにでも入りたい。汗でベトベトし、臭いも気になるから早くサッパリ洗い流したいところだ。それに、汚いまま寝てベッドをベトベトにしたくない。

なんかダジャレみたいだなーと思いつつ、ライドに話す。


「ありがとうございます…。じゃあ、連れて行ってくれますか?」


ライドは「勿論」と言うかのように、無言の頷きをする。

せっかく入ったベッドから、抜け出して脱衣所へ向かった。


第二章4 終



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