第二章3 オーランスの大門扉
オーランスの大門扉
「絶魔主義国……」
魔女を許さない絶魔主義国家、オーランス王国。その国の領土で、スグハは目を覚ましたのだ。ゾケニア山脈の直ぐ麓にあり、目の前に広がる壮大なる城の数々。石造りの家が多くあり、田畑の面積がびっくりするほど大きい。都会暮らしだったスグハには見られない光景だったため、興味津々だった。
空気も都会とは違い、透き通っていて気持ちがいい。
「こんな外で話すのもあれですし、僕の家までどうぞ」
フィアーの被害者の一人であるルフナ・エレイソン。彼は十八歳の青年だったと言うが、フィアーによって体を小さくさせられたらしい。
スグハにした行為がなければ、もう少し紹介してやってもよかったのだがな。
「怖いです。なんか変なことされそうで」
軽蔑の目をルフナに向けると、彼はギョッとした顔をする。
彼はスグハが目覚める前に、体を触りまくった変態だ。起こすためとはいえ、鼻の下を伸ばしながらいうのではクソガキ認定されるのも無理はない。
スグハの言葉に若干顔を俯かせる。
「クソガキ認定されてますね俺〜。大丈夫ですよ。もう殴られるのはごめんなので!」
手形のついた頬を撫でながら、笑ってルフナは答える。スグハのビンタは彼の心に深く刻まれたようだ。しかし、胡散臭さは消えない。
でも、ルフナの好意には答えるとしよう。
「はぁ…分かりましたよ。何かしたら叫びますからね」
「ええどうぞ!すぐに衛兵さんがくるでしょう!」
どうやら、王国は五種類の種族が暮らしているらしい。
その種族は、獣人、鳥族、ゴブリン、エルフ、ドワーフと、異世界ものでは必ず聞くことになる種類だった。
様々な文化が融合しためんどくさい王国なようで、一通り覚えるのには二年くらい必要だとか。
それに、このオーランス王国は絶魔主義国家ということで、魔女や魔人を酷く嫌う国らしい。理由はしっかりとあり、一代目の王、ゼルン・オルレストの娘が魔女になって暴れ回った過去があるからだという。
「だから、魔女はこの国に入った瞬間に銃殺されるんですよ!怖いですね!」
「そんなことがあったんだね…。でも、全ての魔女が恐ろしいわけではないと思う。悪い魔女がいるなら優しい魔女もいるはず」
ドレイクが、スグハにとっては優しい魔女だ。泡沫の魔女と自称していた彼女は、ナギサのことを助け、スグハにも気さくに話しかけてくれた。そんなドレイクも、どこかで非難されていると思うと胸が痛くなる。
ルフナも王国と同じ考えを持っているなら、もう一度考える機会を与えたい。
「私は、さっきまで魔女と一緒にいたの。でもその人は優しくて……」
瞬間、ルフナはスグハの服を引っ張り、倒れさせた。何が何だか分からないスグハは、声を裏返らせるしかできず、倒れていくのを感じるだけ。すると、口を塞がれ、耳元で囁かれる。
「魔女との関係を口に出さない方がいい。今回は俺だけが聞いていたから良かったが、他の人に聞かれていたら通報されるぞ」
今までのルフナとは全く違う声をしていた。裏切られたかと一瞬思い、胸の奥が激しく唸っている。
その本気で警告するような声に、スグハは息を詰まらせた。
「全く!もう少し気をつけないと死にますよ〜」
「あ…あぁ、気をつける」
両目を閉じて腕を組むルフナ。幼く見えるが実は結構大人な感じかもしれない。
しかし、急に囁かれたもので、戸惑いによって言葉がうまく出ない。
「さぁ、もうオーランスの大門扉はすぐそこです。気を引き締めないといけませんよ〜」
ルフナのその口調が、気を引き締めようにも引き締められない。彼はふわふわとした口調なのでついつい気が緩んでしまうのだ。
静かにスグハは頷き、ルフナについていく。
「エリザー、ルフナが入る!」
大声でルフナが叫ぶと、大門扉の奥から女性の声がする。
「おかえりルフナ様!今日のご飯は何にします?肉にしますか?それとも質素なやつがいいですか?それとも…アタシ?」
「ああ、肉にしよう」
「ご主人わかってないね………」
奇妙な会話が繰り広げられる中、スグハは一人硬直している。ルフナにこんなメイドらしきものがいるのかと、何故か違和感しか感じない。
思考が止まったスグハに、耳をつんざくような爆音が鳴る。それと共に、見えたのは大門扉が開く様子だった。
「―あ…め………――…」
ルフナがスグハに向かって何かを言う。しかし、その声は爆音にかき消されて何も聞こえない。頭が揺らされるような感覚に、スグハは足がすくんでしまう。
やがてその音は鎮まっていき、大きな金属音がして終わった。
「あ、ごめん。耳塞げって言うの忘れてた⭐︎」
………ぶっとばすぞ。
「そんな顔しないでくださいよ〜。謝ってるじゃないですかー」
「本気でビックリしたんだけど!マジで許さない!サイテー!」
クールに振る舞うことを忘れるほど怒り心頭なスグハ。忘れてたでは済まされないほどスグハの心臓に深く傷ができた。
寿命が五十年縮んだ気がする。
「はぁ―っ…はぁーっ……本気で怒ったからね」
「うおっ怖っ。でも僕いじめられるの好きなのでご褒美です」
お前の性癖などどうでもいい!と心の中で叫ぶ。
それよりも、こいつの最低なところは、自分だけ耳を塞いでいたと言う点だ。スグハに危険を知らせず、自分だけ助かろうなんて子供でも許さない。ルフナは大人か。
「まぁまぁ、落ち着いてくださいよ〜。謝ってるじゃねぇか!」
「何故逆ギレ!?」
ルフナの考えていることが全く読めない。性癖を暴露、謝ったり、逆ギレしたりと話すだけで疲れるやつだ。
変な汗をかいたスグハは不快感マックスの顔でルフナを睨む。
「めっちゃ汗かいてるじゃないですか。くさっ。お風呂に入ってくることをオススメしますよ〜」
「マジでお前ぶっ転がすぞ」
「ビックリした〜。てっきりぶっ殺すって言われると思ってました」
「あぁそうだよそういう意味で言ったんだよ」
怒りに声を震わせながらルフナに言う。クソガキとブチギレが衝突し、側から見たら変な奴らだが、彼女らに周りを見る余裕などなかった。
「そもそもだな、誰がこんなに汗かかせたと思う?ルフナだろうがっ!」
「ひゃーなんのことだかさっぱりー」
すると、開いた扉の奥から声が聞こえる。
「はっはっはっはっ!随分と仲良しですねお二人さん!」
金属の鎧を纏い、見た目から強そうな老人が出てくる。白髪で髭は長く伸びていた。地面を踏むごとに靴の跡が残っている。
「お〜、これはこれは。ダルネン先生じゃないですか」
ルフナがその老人をダルネンと呼んだ。どうやら、ルフナにとって、ダルネンという人物は先生らしい。笑顔が素晴らしく、印象に残る人だ。
「貴方は始めて見ますね。私はダルネン・オルポリス」
「この王国の、ゼルン絶魔部隊の元帥であります」
第二章3終




