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Alluring / Fear  作者: 魂宝石
第二章 オーランス王国
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第二章1 繰り返される最悪

繰り返される最悪


あの夜、私が『異空斬移』を使って七ヶ月目の時。眠りから目覚めた時に見たのは、見慣れない町の景色だった。

雪の降る町だ。人口は多く、高い建築物がずらりと並んでいて心が躍った。


石でも粘土でもなさそうな黒い道が続き、そこには移動する物体がたくさんあった。

見たことのない建築物、見たことのない文化、感じたことのない空気。

しかし、そんな町に変な違和感がした。


それは、ベルリアでも、オーランスでも、アルザノスでも、ファイドでも、私の知る国の文化とは全く違っていたことだ。

建造物にそれらしきものはなく、唯一似たようなものといえば石造りの噴水があったことだ。

石造りの噴水はオーランス王国にも存在する。


そうやって、輝いている町を探索していた時だ。屋根の上で夜景を見ていると、そこには少女がいた。

光る棒の下で、真っ白な少女と対面していたのだ。

それを見て、一瞬で理解した。

フィアーに連れて行かれる、と。

無意識のうちに私の右足は動き、屋根から飛び降りた。

何があっても冷静に、恐れずに。少女を救うことに集中した。


(なぜ、フィアーがそこにいる…。王の娘は死んだはずだ…)


フィアーがそこにいるのはありえない話だった。オーランス王国の一代目王、ゼルン・オレルストの娘で、彼女は六千年前の夏場に死んだという神話的な話がある。

そして、王国と帝国に大災害を起こした張本人と、本には記載されていた。

無我夢中でその少女を担ぎ、屋根の上へ戻る。

正直言って、どうやって対処するか分からなかった。見るだけで背筋が凍り、逃げたいと本能が警鐘を鳴らす。しかし、フィアーは壊れていた。

歪んでいた。

あの頃の女の子ではなくなっていた。


無理やり斬理刀を使う羽目になり、転移した先はゾケニア山脈。

元の見知った土地へ帰還を果たしたのだが。


問題を抱えたまま、私は帰還してしまった。





「ドレイクさんのいう、五千転移者ではないと思います。ナギサさんと一緒にここまで転移したので……」


ドレイクのいう五千年に一度の転移者。

それは五千年に一度、異界から何かが転移して入ってくると言う内容のものだった。

何が原因で起こるのか、全く見当がつかないとドレイクは言っている。


「じゃあさ、この世界にくる前、何か転移の前兆みたいなのはなかった?なんでも、違和感と……」


違和感とか、とドレイクが言おうとした時に、微かにナギサの右手がピクッと動く。

スグハはその手を握っていたため、すぐに感じとることができた。


「お目覚めのようだな」


ナギサがゆっくりと、瞼を開ける。すると、目の前にいたのは手を繋ぐナギサと、その隣にはドレイクがいた。木の下で、命があることを感じ、


「ははっ、なにヘマこいてんだよ。ナギサちゃん」





スグハが泣き止むのに、結構時間がかかった。当たり前だ。

まだスグハは子供だ。実年齢などは聞いたことがないが、多分、まだまだ子供なのだろう。

あんなに怖い思いをしたら、泣きじゃくるのも無理はない。

そして、不安に押し潰れそうだった心をなんとか奮い立たせたのだから。

泣くのを我慢して、奮い立たせたのだから。

迫り来る死を、拒絶したのだから。

彼女は諦めなかった。

ドレイクから聞いた話によると、スグハは私が殺されかける寸前、走って助けに行こうとしたらしい。

スグハは、本当に親切だ。


「さて、これからどうしようかね」


スグハが泣き止んだあと、ドレイクはそう呟く。

この山脈を越えようと思っても、ナギサの体力的に難しいだろう。スグハも体が細く、耐えられるか分からない。


「なるべく、早くこの山脈から出たいね」


「あぁ、そうだな」


ナギサとドレイクがそう言う。

確かに、ここの山は日差しが強く草しか広がっていない。それに、あの白髪の男の無惨な死体が目に入ってしまうので、早く出たかった。


「ここの山は数時間いるだけで体内の魔力が結構吸われるんだ。消耗しすぎると私たちは意識を失ってしまう。スグハも例外じゃないと思うけどね」


「私の中にも、魔力とかがあるってことですか?」


「あぁ、誰もが持つものだ。君はこの中で一番年齢が低いと思うから早く出たい」


ナギサが淡々と答える。

正直、自分の体に魔力を感じるかどうかと聞かれたら、感じないと答えるだろう。

魔力が存在すると言われてもあまり実感が湧かないし、そもそも魔力がありそうな感覚もない。


「あまり、自分に魔力があるとは感じません」


「それは思いがけない時に感じるものだからね〜。私だって最初は何も分からなかったさ」


そういうものなのか、スグハにはよく分からない。


「まぁ、とにかくここからどう出るかって話……」


そうドレイクが言おうとした瞬間。

ドレイクの目が見開き、寝たままのナギサは刀を握りしめていた。

おぞましい感覚がスグハのすぐ隣で感じる。理解するのに時間は掛からなかった。

白色のワンピースに、麦わら帽子の、あの女の子がいたのだから。

ニヤリと笑う白い口元。


「みぃつけたぁ……」


それと同時に少女の体が変異した。小柄な体は布のように薄くなってスグハを包み込み、足だった部分から血のような紅の液体が溢れ出している。

靴が湿っていく不快な感覚と共に、口から何かが入ってくる感覚がする。

口の中の感覚で分かる。それは大きな管のように感じた。


「スグハ……っ!」


ナギサが寝たままの体を持ち上げようとするが、紅の液体に触れてしまう。

生暖かい感覚に、腐ったような激臭に鼻を捻じ曲げられる。

瞬間、ナギサから唸り声が漏れた。

体の奥から込み上げてくる熱。

血まみれの手に、さらなる赤が侵入していき、血管の中を何かが這いずり回っているような激痛に悶絶した。


「クソっ!なぜあの娘がここに…!」


ドレイクが杖をフィアーに向けて暴言を吐く。

ありえない。なぜ、六千年前に死んだ娘がここにいるのか。オーランス王国の鎮魂城で眠らされているはずだ。


「凍泡氷柱!」


ドレイクがそう叫ぶと、杖が藍色に光って泡を出していく。そして、泡がぐちゃぐちゃにかき混ぜられるように分裂していき、形を変えた。

やがて氷柱のように尖った形状のものになって、無数の氷柱が風船のような形になったフィアーを囲んでいく。


「撃て!」


ドレイク命令に従うかのように、泡の氷柱が突き進む。膨らんだフィアーに向かって、突き破らんと突進していき、

待て、この中にスグハがいる。つまり、このまま突き破るとスグハも攻撃を受けてしまうのだ。

歯を食いしばって膨らみ続けるフィアーを睨む。タチが、悪すぎる。

ドレイクの中で迷いが生まれ、泡の氷柱は空中で砕け落ちた。

じゃあ、どうする。このままではスグハもナギサも…。

ドレイクが逡巡している中、スグハは……。


「あははは。スグハっていうんだぁ。かわいいね。かわいいね。すごいよ君。こんなに魔力があるなんて」


口の中を大きな管のようなものが塞いでいる。恐らくその管がスグハの中にある魔力を吸っているのだ。スグハが感じるのは魔力が吸われている感覚ではなく、息ができない苦しみだけだが。

先の見えない暗闇で感じる苦しみは、何倍も辛い。孤独の中で狂わされていくスグハに、生きた心地はしないだろう。


「んーっ!んぐっ…」


何かに縛られた手足を、必死にばたつかせて抵抗する。しかし、それも虚しくただただ苦しみが増えるだけだった。肺の中から空気が消えていき、窒息寸前まで追い詰められる。積もる苦しみと不安が、スグハのことを蝕み、力を奪った。


「あなたは、私から逃げられないのよ?ね、おねぇちゃん」


喉を塞いでいた管がさらに奥へ、奥へと突き進む。

本当に、死んでしまう。

苦しみと死に対する恐怖のみが頭を支配して、さならなる苦痛へと。


「もっと、吸わせて…?」


あ……………。


その瞬間、喉を塞ぐ管が一気に吸引力を持ち、内臓がひっくり返るような感覚に襲われる。体から薄くなっていく『ナニカ』を感じ、スグハは頭を横に振る。

これが、魔力か。


ただでさえ暗い視界が、更に闇に包まれていき、

スグハの意識は奈落に落ちていった。





「ナギサ!大丈夫か!」


いつもの口調とは違い、ドレイクが焦っていることがよく分かる。

ナギサは紅の液体に体を蝕まれ、触れたところから黒く染まっていっていた。耐え難い激痛に、疲れ切った体が耐えられる訳がない。戦闘不能になったナギサを見るのは、杖を強く握るドレイクだった。

囚われたスグハと、蝕まれるナギサとは違いドレイクだけが、まだピンピンしている。全てがドレイクにかかっているのだ。

その責任の重さゆえ、ドレイクは救う方法を混乱する頭で考えまくる。


血の池に飲まれていく草原。草は枯れていき、元の美しい景色とは差がありすぎる景色へと変わり果てた。


ドレイクの額に汗が滴る。対処法が思いつかない。フィアーの中でスグハが何をされているか分からない。フィアーを突き破ろうにもスグハの位置がはっきりと見えていないため、無闇に攻撃すると彼女にも喰らわせてしまうとしてしまう可能性が高い。


「くっ……ごめんね…」


血の池に飲まれるナギサを、なんとか杖を使って引きずり出す。足は完全に黒く染まり、顔もギザギザとした模様が付いていた。

血の池に触れるとこうなると、ドレイクにさらなる緊張がかかる。


「ドレイクっ……!」


「ごめんねナギサちゃん…。あの子は救えない」


胸の奥が、無力感で強く跳ねた。また、私は救えないのかと。

目を見開き、蠢く風船のようなフィアーを見る。

あそこに、スグハがいるのだ。


黒く染まった手を伸ばし、必死に、必死に叫んだ。


「……っ!スグハ―!!!!!」


スグハを苦しめていた管は砕け散り、顔に漆黒の模様が出現する。


ナギサの声は、届かなかった。



第二章1終










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