スケバンと灰
ちっ。
舌打ちが鳴り響くと、「紅蓮特攻」と書かれたその名の通り紅い特攻服を身に着けたケバケバしい化粧で厚く塗られた顔を青白く引きつらせる。
その紅蓮特攻は名に反して膝をつき頭をこれでもかと地面に擦り付けている。
女の前にはスケバンと呼ばれるのが似合っている丈の長いスカートに袖を捲りあげたセーラー服、そして後ろで結んだ長髪は綺麗なポニーテールとなっている。
女は眉間にしわを寄せ、額を擦る紅蓮特攻を見下ろす。
「…ちっ、おい、顔あげろや」
「すっすんません!!!!まさか、"黒の女王"の仲間だったなんて……すんませんでした!!!」
また舌打ちをする。
ビクつく紅蓮特攻はその特服を泥で汚してしまっていた。それがスケバンの女、高野憑紅覇には苛ついてしまう要因になる。
「おい、顔あげろって言ってんだろ」
低い声音が重低音で響く。
紅蓮特攻は顔を恐る恐る上げると紅覇が鋭い眼光をこちらに向けていた。
腕が伸び、首元に手が回る。
ぐわっ。
次の瞬間には紅蓮特攻は子猫のように持ち上げられ立たされていた。
女性とは言え、紅蓮特攻の体重は42キロ。片腕、それも持ちにくい筈の人間を持ち上げて立たせることができるのは一体どれくらいいるだろうか。
「魂が汚れちまうぞ、兎に角アタシはそのきしょい二つ名は認めてねぇからな。今度ダチをヤロウってんなら容赦しねぇ。じゃあな。」
「え、そ、それだけ!?」
紅蓮特攻はこの状況になる1時間前に聖マリア女学院に通う生徒にちょっかいをかけていた。あまりにしつこく、黒の女王が動いた次第だ。
「殴ってたなら殴るが、別にまだ未遂だ。それ以上はねぇよ。アタシはやることがあるんだ。帰らせて貰うよ」
紅覇は後ろに止めていたスクーターのメットを拾い、装着した。
装着する際に髪ゴムを外し、髪を整える意味も込めて頭を振る。
綺麗に手入れされた黒髪が夕方の光を反射しながら揺らめいた。
紅蓮特攻はその薄い胸に紅覇への想いが溢れ出た。
紅蓮特攻、横田真弓は元々、聖マリア女学院の生徒にちょっかいをかけていたのは秘めた思いから少し女の子を好きなきらいがあり、よって暴走族の頭でありながらその車体の後ろに可愛い清楚な女性を乗せることにこだわっていた。
この目の前で輝く黒髪をなびかせる美女はまさしく真弓の好みのタイプであったのだ。
「あ、姉さんと呼ばせてください!私はあなたに惚れました!どうか!このとおりです!」
額を地面にまた自らこすりつけた。
そんな紅蓮特攻もとい――真弓をみて顔を引きつらせる紅覇はため息をつく。
「そんなもん勝手にしな!だが、そうやって呼ぶならこれからはつまらんことはすんじゃねぞ!じゃあな!」
その声はおおきく、張り上げるだけ張り上げた声だった。
ブルルルルルル………
スクーターのエンジン音を鳴らして、去っていく紅覇を見て、真弓は顔を薄くピンク色にした。
「姉さん………」
「はぁ………何だったんだありゃ?」
紅覇はスクーターで飛ばしながら先ほどの事を思い出す。同じ学生が他校のスケバンにカモられてると聞いて迎えば確かにスケバンはいた。紅蓮特攻だけじゃなかったのだ。
蜘蛛のように手と足が沢山生えた様な人間が聖マリア女学院の生徒を捕まえようとしていたのを見た。
あまり見ないタイプの幽霊に度肝を抜かれたが、そこは根性で耐えた。とりあえず紅蓮特攻を這いつくばらせ詫びを入れさせることに成功した時にはその蜘蛛人間は土下座する紅蓮特攻の声に反応して少しずつ後退していく。
大きな声に反応するようで紅覇も大声をわざとらしく出すことでその蜘蛛人間は段々と後ろに下がっていき、その姿を隠していった。
その姿を思い出しながらシガーレットのお菓子を咥えてため息をまたついた。
あれはまるで家の隅に現れる飛び蜘蛛の様で、いつでも飛びついて来そうな、そんな雰囲気を感じていたがためにやたらと緊張したのだ。
やんちゃなことなら対応出来るが、幽霊はまだ苦手なのだ。
「はぁ……幽霊とかそういうのと関わる仕事だけはしたくねぇな。ま、そんな仕事とは縁がねぇだろうけどな……」
――と、思っていた時期が有りました。
「高野憑さん。新人さんの研修頼みますね。ほら、あいさつして!」
「よろしくお願いします!姉さん!」
そこにはニコニコと笑う、学生時代そのままの横田真弓が立っていた。紅覇はたばこの火をつけ直す。
はぁ………
そのニコニコと笑う真弓の後ろでまるでへばりついたようにくっついている蜘蛛人間を見た紅覇はたばこが灰になるまで深く深く吸った。




