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静寂(シュティル)なギフトは雫となる ―潜秘を持つ者―  作者: 霜夜 薇


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9.嫌な予感

✢¦✢


意図的に照明が消された部屋。

二点の小さな照明のような細い光が目を通して差し、地図が映し出されている。

地図を映し出している本人は短い手で地図を色んな方向へ動かす。

「数時間以内。一般の人的被害はほぼない。魔法師の方は結構面倒だな」

地図を部分的に拡大し、目の幅が狭まった。

「こんな能力あっても無意味だな…。どうせ誰も信じない」


灰猫は過去の記憶の一部を振り返っていた。

川に広がる橙色の数々の灯火。

遠目から見れば、細い何かで編まれた球体の形をした灯籠。

そして凍えるほどの冬の中、目の表面には温かみのある色が広がった。

鞠のような形をした物から燈される光。

それはとても幻想的な景色で、全身まで仄かに温かく感じていた。

きっと――比べられる場所なども思い浮かばない程に……。

ただ、もう一度見たいと思った。


もう戻れない過去に…。

灰猫は無力感の目を閉じ、地図が消えた。

部屋の明かりがピカッと一回で付いた。

再び開けた瞳には黄色に青がかった目に、元通りだった。


部屋には、綺麗なキングサイズに近いベッド。数段ある大きめの本棚に整頓された勉強机。

シンプルでありながらも、柔軟性が施されたキャスターの付いている黒の椅子があった。

少なめの小物に、部屋に調和を持たせたサイズの窓。

部屋はシンプルでありながらも広い。

その部屋に灰猫のベッドも置かれていた。

猫三匹は余裕で寝れる程の大きさをしていた。

灰猫は小さい両腕を上げ、後ろで組んだ。


「ふあぁぁ――行くか」

立ち上がった灰猫は部屋を後にした。


✢¦✢


学校の校門を出て横断歩道を渡っていた三人。

コンクリートで修復された道路を歩く三人の影が暗く映っていた。

帰り道の道中。

三人の間に会話はなく、肌寒い夜道を歩いていた。

人通りも今の時間多くなく、紗綴の鞄に付けられているキーホルダーが揺れ動く。

チャリチャリっという音に、足音。

そして車が横を通り過ぎる音だけだった。


柊霞は正面を見て歩いていながらも、朱鈴の――

『意外と一緒にいる時間は短いかもだよ』という言葉が脳内を巡っていた。

表情は無表情ながらずっとはんすうしていた。

まるで何かを経験してきたような。内に深い意味を持つような意味深な言葉だった。

背からは、言葉とは相反するほどに弱々しい。悲しげな感情を抱えているように見えた。


「紗綴、…紗綴」

「…」

碧羽は後数歩で電柱にぶつかるであろう紗綴に呼びかける。

しかし紗綴は何かを思い悩んでいる。

または何かを考えている様子。

碧羽は少し強めに「紗綴」と呼ぶ。

「……あ、何」

三度目で気づいた紗綴は、顔色の優れない顔を上げた。

碧羽、柊霞の順に足を止めた。

碧羽は紗綴の鞄を後ろに引いて止まらせた。正面には電信柱が迫っていて、後一歩で突っ込む寸前だった。


「前見て」

「ん……あ、危なかった。ありがとう碧羽。あれもう別れ道だ。柊、またね」

「じゃあな、柊霞」

「あぁ、じゃ」

柊霞は左、紗綴と碧羽は右の道へと別れた。

辺りは当たり前のように真っ暗の道。

その所々に電灯が設置され、白い光を頼りに柊霞は足を進めていた。


出会って数日の頃から全く会話がない

――というわけではなかった。

ただ、ふと空気が硬直するような静けさが流れることがあった。

互いに話しかける頻度も多いとは言えない。


それは性格の違いゆえだと柊霞は理解していた。


興味を持ったものには、蝶が花へ舞い降りるような勢いで飛び込み、好奇心と探究心のまま突き進む朱鈴。

対して柊霞は、寡黙で言葉を厳選する。

無駄を排しながら、常に冷静で分別ある判断を下す人物だった。


今も決して多くなった訳では無かった。

それでも魔法を教えてもらうようになり柊霞には変化が加わった。

そのお陰か多少の会話をするまでに――。

寄り道もせず、家への道を真っ直ぐに歩く。


柊霞は「――あっ」と思い出す。


鞄からスマホを取り出すと、数件のメッセージが入っていた。

人通りの少ない道の端に立ち止まり、画面を開く。

――そういえば、連絡してなかった。

母と父、二人のメッセージが並んでいた。

母親からは『何かあった?帰ってきてる?』

そして父親からも『遅くなるなら連絡はしておけ。気を付けろよ』

と、心配を含んだメッセージが入っていた。


片手で返信し、柊霞は全ての通知に目を通した。

また…か。

どうせ、にぃ…いや、アイツが教えたんだろうな。

操作している親指の先。

そこには一度として教えた事のない異性の名前が複数、並んでいた。

柊霞は慣れた手付きで、全てブロックする。鞄にスマホを戻した柊霞は、家への帰り道を歩く。


なんだか今日は感情が揺さぶられる回数が多かった。

それに、初めてかもしれない。

こんなに感情が凪いだのは…。


少女をが視界に入っただけで、喉仏が上下に動いた。

息を飲み込んだことさえも無意識だった。

目の前の少女に今思えば、自分は釘付けだった。

魔法学の教師の制服を着ている少女はとても似合っていた。

――本当に。


夜のまだ冷たい風に前髪が揺れる。

柊霞は今日のことを思い出し、肌が薄い桃色にほんのりと染まる。


ハムスターみたいにサンドイッチ食べる姿に癒やされた。

そして何故か――安心ができた。

紗綴や碧羽が「お腹がすいた」と言葉に出すことはあった。

それでも少女は一切なく、食に対して無関心そうに見えた。

何かを食べてる所は見たことは無かった。

少女は消えたと思ったら、別の場所で遭遇したり。


本当に不思議で――陰ながらに〝優しい少女〟だった。


灰猫が魔獣の姿で襲いかかってきた時もだった。

練習していた事が無になりかけた。

言われたままに銃を持ち構えた。

でも、――それだけだった。

魔獣を前にし、一瞬で恐怖が襲いかかった。全身が怯んだ。


自分がこの一発をミスすれば――この土地周辺はどうなるんだ。

近くに人がいたら、その人は…?

この一発を外せばどうなる…。


〝勝てない、負ける〟そんなんじゃなかった。


ただ自分には〝無理〟そんな考えが脳内を彷徨った。

瞬のことだった。

背中の中央の一部分から、全身に暖かさが伝わった。

それがすごく、本当にすごく…――あ、安心する。そう思えた。


数秒前とは打って変わって怖くなかった。

ただ、やらなければならない。

その時、理由も明確にはなく――〝いける〟と思えた瞬間だった。


気づいた時には魔獣の眉間を、静寂に撃ち抜いていた。

本当に、気づいた時には……。

そんなことがありえるんだ…と、思えた瞬間でもあった。


✢¦✢


ゆっくりと画像を見ていっていた朱鈴。

多くの多種類の花が検索から導かれた画像を一枚ずつ見つめる。

「――あっ、これは」

朱鈴の指が止まり、画像を人差し指で押す。

そこには、漏斗状の大きなトランペット型の花の画像に、朱鈴はこの花は多様な色があったはずと思い出す。

花冠先は五つに裂けていた。

うん、めっちゃいいかも。形がちょっと独特に出来そうだし。

何より――色に決まりがない。


「めっちゃいいじゃん」

暗い部屋の中、朱鷺は一言も発言せず、仮眠中だった。


閃きの微笑みを薄気味悪く浮かべる朱鈴はタブレットを後ろ側に押す。

手元の机を綺麗にし、朱鈴は両手を広げた。

透明な靄の魔力が注がれて、物が生成され始める。

続々とガラス製の漏斗型の裂かれた花弁。

そして五つの先端は釣り上げられた形を鮮明に作り上げる。


「ちょび髭みたいだな」

朱鈴は何気なくポツリと呟いた。


指先から魔力を駆使し、魔法によってガラス製の実体を結ぶ。

下部から上部の順に淡い魔力で、下層部は淡いピンクで染められる。

上層部には緑が薄く彩られ、頂点部位には手で握るための楕円形の葉をしている。

シンプルに鉄が施され、緑の入った葉には鉄製の持ち手が生成された。


立体的な外装が美しく出来上がる。

魔力は薄い膜を作り上げ、全体を半球のように囲み上げた。

内部には、少し大きめの立体的な菱形が、透明なガラスが吊るされる。

菱形の中には、淡い様々な色の靄が漂う。

濃い色から薄い色、淡い色から涼しげな色。煙が縦横無尽に交差するように、菱形の内部を彷徨う。


双香そうこう毒を大量に含んでいるからな」

ふふっ――腕上げたな。自画自賛だけど…。

「――後で何個か追加しておくか」

半球の膜が薄く存在を消していく。

朱鈴は作り慣れた魔力操作とコントロール。

細部の細かい装飾デザインも作り上げる。


植物花のブルグマンシア・インシグニスを題材にしたランプ。

机の中央の少し右寄りに寄せ、両腕を組み、上に顎を乗せる。

朱鈴の瞳がランプに映り込み、美しく出来上がる。

眺めるように、優しい目で朱鈴は覗き見る。


「我ながら中々なでき栄え…ふふっ――美しいな」


✢¦✢


ランプを一つ、作り上げて満足していた朱鈴は寝起きの朱鷺と話していた。

それから十分後に掛かってきた電話。リビードーからの通話に朱鈴は対応していた。

「で、お熱は下がられましたか。兄さん」

「ぁ゙まだに決まってんだろう。頭痛い…」

朱鈴は足を椅子に上げて安座で座る。

柄悪――と思い、スピーカーにして朱鈴は通話をしていた。


「柄の悪い、キツそうなお声で――原因は何なの」

「ぁぁなんがぁ゙疲労だって」

「お歳も…ね」

「ざけんな」

「今のうち休める分まで、休んでおきな」

「相変わらず温度の変わらない声で、ぁ゙あ 、きずい」

ガラガラとした声で話すリビードーは頭が痛いとしか言わなかった。

しかし相当、疲労困憊なんだろうと朱鈴は考えていた。

上位魔法師はたったの四人。

――一人一日、二十四時間体制の交代といった任務内容だ。

そんな生活を続けていると、いつ体調を崩してもおかしくない。


「兄さん以外の、上位の体調はどうなの」

「一人は『趣味がー』って嘆いている」

「趣味…」

何の趣味なのか気になる朱鈴だったが、無駄に口は挟まない。

「一人はちょこちょこ『腰が、腰が』って、独り言のように言ってる」

腰は大変だね。

おじいちゃんかな。

「あと一人は不明。公務員だし、体調悪くても隠しているんじゃないがぁ゙」

自分だったらそんな所で働きたくないと実感する。

四人がどれだけ強くて優秀であっても、人手不足が目に見えてる。

ただ上位魔法師は高年収であることは確定している。

体制、働き方、命掛けの仕事ということもだった。

――まぁならざる得ないのかもだけど。


「そっか。あ、今日魔物が飛んできたよ。ポーンとグランド側に飛ばしてそのままドカーンって」

「……要するに、ゴッホ、ゴッホ、被害や破損は……グルジイィ」

「ゼロ。それじゃお大事に、兄さん」

朱鈴は一方的に通話を終了させた。


『朱鈴、お主は組織作ろうとか思わないのか?』

「え、突然どしたの」

『朱鈴に入った魔法の依頼を組織だと割り振れるんだぞ。お主だけが働くってわけでもなくなる』

「うーん、気が向かない」

朱鈴は自分でも分かってはいた。

決して教えるのは下手ではないと。

それでも朱鈴は積極的に教える側には向かない。

自分のために魔法も植物の知識も生み出したり、探求しているようなものだった。


朱鷺が言うのでいくと…うーん。

〈観脈彩視法魔法〉とかは相当、役立つだろうな。

朱鈴が独自で作り上げた〈観脈彩視法魔法〉。

そのアイデア自体は元々持っていたし、初期に作り上げた。


魔法というのは〝術〟を作り上げる事が難しい。

完成まで行かず諦めるなんてザラにある。

既に記載されていたり、本になっていたり。

使われている〝術〟を使うこと自体はコントロールや魔力次第だ。


ただ朱鈴が今までに作り上げてきた術は相当な数あった。


『作った魔法を誰かに受け継がせる予定はないのか。そもそもその気はないのか』

「ないね。私だけのだもん」

教えるにしても、その人物の一定以上の忍耐力と理解力。そして一番は魔法知識が必須だ。

後は可能であれば、即効の理解吸収力もあったほうが良い。

『にしては、黒髪のやつに教えているじゃないか』

「――あ、ホントだ。ま、あの子は賢そうだし苦じゃないからね」

『はぁ…お主な、……誘拐されるぞ。これを教えろとか言われて』

「え、怖。でも私の〈観脈彩視法魔法〉よりも上位魔法師の一人が使うある魔法が凄いらしいよ」

『何だ、それは』

「〈測脈霊析法魔法〉っていうらしいよ。詳しいことは不明だけど」


朱鈴は胡座で痺れた足を下ろし、椅子に深く座る。

あ、そう言えば…

「灰猫との契約の件どうなったんだっけ…」

朱鈴は今になって灰猫と柊霞の契約の件を思い出す。

説明を軽くでもしないとだよな。

と思いつつも、未だに出来ていなかった。


通常契約後は獣魔と呼ばれていた生命体から「従魔」になる。

猫は優れた聴覚。そして視覚を持っている。

嗅覚も優れてはいるが、最もとは言えない。

それでも瞬発力はあり身体能力も高い。

猫は従魔としては十分な素質を持っており、人間との相性も良い。

そのため一番従魔に最適な種族だ。


――獣魔との契約自体は良いだろうな。

性格とかは置いておいてのことだけど…。

特に猫はコンパクトだし、一番は〝癒やされる!〟


朱鈴は、少しの妄想での癒やされに、鼻息をフッっと吐いた。

『お主、浮気するつもりか。他の従魔に浮気なんぞ言語両断」

ドスの利いた声が朱鈴の耳に響く。

「…あっ」

これは、まずいな。

そもそも鼻息だけで分かるの、恐るべし!


『一ミリでも灰猫に触れてみろ。両手をツルで縛るからな』

「ツルって、朱鷺が両足を引っ掛けてたやつだよね」

『真面目に聞いておるのか』

「分かった分かった」

適当に交わす朱鈴はスルーしてタブレットに興味を移した。表示されている画面には魔法師について詳しく書かれていた。


最近では上級が少なすぎるのではないか。――そんなどうでもいい話が世間に広まっていた。

現在の上位魔法師は中位魔法師との間に二つほど、新しい位を入れたほうが良いのでは…。

それほどの実力者達と、情報に無関心で自分の求めるものだけを追求するだけの朱鈴でさえ、そんな事を聞いたことがあった。


中位でも上位に上がれる程の実力持ちも数名はいる。

それでも現上位魔法師と比べた場合、――どうも見合わない。

実力が釣り合っていない感じも確かにあるのだろうし、否めない。

「なんか、嫌な予感するんだよね」

『どんな予感だ』

朱鈴は顎を支えるようにして拳を顎下に当てる。


「なんか半強制的に、何かをさせられそうな……いや、まさかね」

『……』

画面の光だけを前にして突然と、会話が止まる。

「え、なんか言ってよ」

『浮気者』

「えぇ」

それから朱鷺は朱鈴が他の動物に触れる度。

異常に警戒し、特に猫には耳からギャーギャーと騒いでいた。



そんな平穏も崩される数時間後。

それは恐怖の人の声となった。

朝五時台にも関わらず、多くの家の明かりが付いていた。

解放されている場所へ向かう道は混み合っていた。


そんな事があっている中――紫と黒の混ざったローブ姿のフードによって姿を隠された人物が人通りの少ない場所に立っていた。

その人物は、三色の地図を魔法で映しだしていた。

「…ここら辺、だよね」

『あぁこの…あ、あの電波塔の頂上がいいんじゃないか』

「ちょいまち……うん、中心になってるね」


そして地図だけでなく、宿されている魔力レーダー。

二つを照らし合わせるように重ねて見ていた。

『我の出番はなさそうだな』

「それはごめんって」

春といっても、朝方は冷たい風が吹く。

その風はローブ全体を揺らしていた。

『複数箇所は、久々じゃないか』


ローブに姿を覆わせる人物はフードを手で抑えるように摘んだ。

それから地面を強く蹴って、足を離した。

浮遊するその人物は「――うん、頑張ろ」と言い、空中を移動して行った。


✢¦✢

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