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6.リビードーと実践ありき


✢¦✢


「じゃあ、今日はもう終了。後五分も…何か質問はあるか」

後五分で休み時間に入る。

ということもあり教室はすぐにざわつく。

すると、クラスメートの一人が立ち上がる。

「先生、聞いてもいいですか」

「ん?魔法学についてか?悪いが今は頭が働いとらん」

え…今さっきまで授業やっていたよな。

頭が働いていない中で教えていたのか?相変わらずブレない先生だな。

碧羽は軽く欠伸し、静かに正面のリビードーを見る。


「上位魔法師の中で一番強い人って誰なんですか」

教室内にいる三十人近くの空間に静けさが漂う。

ざわつきが一瞬で消え、誰もがリビードーを見る。

そして静かに聞き始める。


「一番強い…か、考えたことないな。つうか、そんなん聞いてどうすんだ」

リビードーが聞き返す。

すると質問した本人以外からも声が上がる。


その声の意見は、興味本位や目標。

一番強い人に教えて欲しい。そして弟子にして欲しい。などなどの意見が色々上がった。

まぁそうだよな、誰だって強い人に教えて欲しい。

魔法を極めて上位魔法師へ。

そんな夢を持っているんだろう。

俺の場合は基礎さえできれば。そんな感じで、魔法自体に執着はないしなぁ。


そう思いながら碧羽は斜め前の紗綴を見る。


「じゃあ先生がこの人には勝てないって思う人はいるんですか」

「んー、上位魔法師じゃないが。一人な」

すると教室中がまた、静かに固まる。

呼吸音も静寂に近いほどにして。


固まり過ぎじゃないか…。

まぁ先生の実力は本物だって知られている。

だからこそ憧れの的でもある。

なのに、リビードー先生以上に強い人がいる。そんなのを聞くと固まるのも仕方ないのか。


するとまた、どこからか立ち上がる生徒が一人。その生徒はどこか緊張しつつも確かめるような声で言う。

「それって、〝魔法の幽才〟って呼ばれている人物ですか――」


リビードーは喉が小さく動揺するように動く。

一瞬だけ目が丸くなる。

しかし、いつものやる気なさげな目に変わる。

すると大きな鐘が響き、授業の終了を告げるチャイムが鳴る。


魔法の幽才?…初めて聞いた名だ。それとも異名ってやつか。

それに天才ではなく〝幽才〟なんだな。イメージ的に強い人は「天才」とか。そんな言葉で一括りにいわれていそうなんだけどな。


「あぁ、そうだよ」

リビードーはそれだけを告げ、挨拶もなしに教室を出ていった。


「ねぇまだ二時間目だよ。早く帰りたい」

碧羽の左斜め前に座っている紗綴。

椅子を横に向け、右腕を後ろの席の柊霞の机に乗せる。


「で、柊霞は上達してるの?鈴との関係性の変化は?」

「あ、それ気になる」

碧羽は柊霞の右隣の席で、椅子だけ寄せる。


「上達はしてる。関係性……別に、話さないって訳じゃない」

「要するに目を一切合わせないで会話はする。それでも友達と言えるか分からないってことね」

柊霞は、無言で紗綴に対して何も言い返さない。


核心を当てられてしまった感じか。柊霞は表面的には分かりにくい部類には入るけど実際は分かりやすいんだよな。

愛想笑いで誤魔化すのが、下手……いや、できないからな。


「そういえばさ、鈴ちゃんは魔法どれくらい使えるの」

「鈴は…確かに。どれぐらいなんだろう。柊は見てるから分かるでしょう」

柊霞の視線は机に置かれている教科書に目が向けられる。それから少しだまりコケる。

「――見たことない、知らない魔法を使ってる。――隠してる能力って感じはする」


隠してる?魔法の力ってことか…。

それに見たことのない魔法を使うって、どんな。


「実力が隠されてる。それか、――制限してる」


制限か…でも不思議だった。

柊霞の特性を見抜いていたのは確かにすごかった。

手に魔力を集める。身体に触れないで手を動かし、たった一回、たった数秒。それだけで何かを見ていた。

それから少し考えただけで、あの答え。

でもあんな魔法の授業で習ったこと、ないような…。


「まぁねぇ。私も大きな声では言えないけど。〝飛び級〟する人はやっぱ格が違うのかな」

「・・・え?」

紗綴はサラッと言う。

その言葉を直ぐには理解できず、碧羽は隣の柊霞の様子を見る。

碧羽は勿論のこと、柊霞も目が見開かれた状態だった。


「〝魔法の幽才〟って人がどうよりも、飛び級生が身近にいるからね」

「鈴ちゃんって、ほ・ん・と・に・す、す、すごいんだね」

碧羽は驚きのあまり、口があんぐりした状態でカタコトに話す。

と、飛び級?

――普通に常人の域を越してるって事になったりするのか。

つぅか、それなら。

変わった魔法を使ったり、見たことのない魔法を使ったり。

普通に、魔法師で言うなら中級以上行ってるのか。


紗綴がサラッと口にした一言。

それなのに関心と凄さが伝わる碧羽は、隣の柊霞に視線を動かす。


やっぱりそうなるよな。

――共感してしまうほどに、柊霞の驚いた表情。

それは初めて見る表情をしていた。


二人の様子を見た紗綴は、笑いが堪えられていなかった。

特に柊霞の固まった表情。その姿の柊霞を見た瞬間だった。紗綴はお腹を抱えて笑っていた。


始まりのチャイムがなったと同時。

柊霞の固まりがゆっくりと溶けたのだった。


✢¦✢


葉や草、植物などの緑。そして土の上に所々散らばっている枝木。

自然に植えられ、成長している多くの木。

そして所々に咲く花々――鮮やかなパステルカラーや、黄色の花が目立つ。

自然に包まれた森のような開けた場所。

図鑑を広げ、色付き印刷されている植物図鑑を読んでいる。

そして大きめの石に座り、鼻歌を歌う。


『なんだ。そんなに良いことがあったのか』

「ふっふーん。ここにいることが良いことなの」

『そうか。にしても…ここは』

「そう!君がド、ド、ド、ド間抜けに両足を引っ掛けた場所」


春の森には、風によって揺れる枝葉の音が満ちていた。

そこへ意図的に朱鈴の耳にだけ直接届く声。

澄んだ低めの中性的な響きある声色。


くちばしで突くぞ』

「わぁ怖い怖い」

朱鈴は表情を変えず、棒読みで言う。

図鑑に書かれている文字を目で読み進める。


ここ三日は練習を見てたからな。

それに教えるのが日課になりつつあったからなぁ。


柊霞、碧羽、紗綴の三人は学校帰りに制服姿で来ていた。

この平地から学校までの距離はそこまで遠くはない。

そのため「直接来た方が楽」とでも考えたのだろう。


ただなぁ〜、夕方の練習だけに来るっていうのは面倒くさいぃ。


そう思った朱鈴は、朝から所有している平地。

そこにある森の中で過ごしていた。


『朱鈴、この暮らしをずっと続けていくのか』

「うーん、そうだね。あ、退屈?それとも腕が鈍るってやつ」

話しかける朱鷺ときは黙り込み、聞こえなくなる声。


朱鈴は目を瞑り、淡く笑った。

「ま、この平穏は続かない気がするの。だから鈍ることはないと思うよ」

『鈍るとは思ってない。時々退屈ではあるが…自然は好きだ』


「ふっ――そう」


朱鈴は図鑑のページを捲り、文字を読み進める。

図鑑は全体で二百ページあり、百五十ページまで捲られている。

パーカーではなくデニムジャケット。

座っている隣の石の上には淡い色のキャップが置かれている。

春の風は暖かく吹く。

自然の色に染まる朱鈴の長い髪は、下流の流れのように揺れる。


「あ、朱鷺。いざって時は紗綴達を守ってね」

『ご主人様が命令した場合はだけどな』

「えぇ命令しなくても守ってよ」


この所、魔獣化がどうのこうの…そんな話がとても目立つ。

魔獣化は自然に起こり得るし、別に不思議な事ではない。

それでも最近――特にある一件。動物園での魔獣化の件だ。

三十頭近くの魔獣化がされた。多分あれは、意図的にされたもの。


個人が意図的に…その可能性も無くはない。

でも可能性的に高いのは、団体または組織がある。

それが一番だろう。


そのせいで私の平穏は崩される。私はただ植物や毒を見たい。基礎から深くまで知り尽くしたい。

そして、そして、謎を解きたい!


朱鈴は拳を握り、両腕をグッと構える。


たったそれだけなのに…いや。

それは天上の願いなのか?


数秒前までどんな脅しをされようが図鑑を読んでいた朱鈴。

空を見上げ、両手で頭を抱えて唸る。

「ぅぅぅうぅぅぅう。私の願いがぁあぁぁあ…」

『独特な唸りだな』

「うぅぅぅ、願いよ叶えておくれよぉぉぉぉ…うぎゃー」

『いつもの変わらないテンションはどこへやら。毒のことだと一気に…。主人がこんなって…あぁいやだ、はぁ』


朱鈴が叫ぶ中で耳から話しかける男性の声。

その人物・朱鷺からは呆れた吐息が吐かれた。


✢¦✢


初回から一週間経った頃。

最初の四日間は紗綴と碧羽も一緒だった。

それでも喫茶店がある。そのため、最近では柊霞と朱鈴の二人で練習することが増えていた。

碧羽も臨時店員をし、女性客が四割近くまで増え始めていた。

それと朱鈴も、柊霞が悪い人じゃないと思い始めていた。


「じゃあ休憩しよっか」

「そうだな」

魔法で十箇所に設置していた的。

その的の中心部分だけが粉々になっている。

日に日に、柊霞の命中率は上がっていた。

目の良さを生かし、銃に浄化の魔力を朱鈴が込める。それ以外に魔力は必要無かった。


魔力的にも一度休憩したほうが良いね。

これ以上は…人じゃなくて、的が持たない。

あっ、確認もしなきゃだな。


「ちょっとだけ手を出してください」

柊霞は言われたままに手を出す。

朱鈴は手に触れ、柊霞の魔力の種類を見る。


魔力は…浄化の方だ。珍しい。

通常の魔力もあるようだけど、浄化も持ち合わせているようだ。

ただ問題は…どう説明するか、だよなぁ。

通常、魔力は一種類だけと思われがちだ。

それなのにいきなり――「二種類あるんですよー」

そんなこと言われたら余計に混乱をさせてしまうだろうな。


どうすれば――。


柊霞の片手を朱鈴は両手で無意識に、少し強く握る。目線は手のひらの線を見つめるようにして。

柊霞は手の力を抜き、朱鈴に任せる。


浄化の魔力を持ってる人自体ほぼいない。

だからこそ…難しい。

学校では魔力の細かなところは教わらないだろう。

魔法の授業を担当してるのは下位辺り…。時々は中位の魔法師がしなくもない。

でも…実際が、リアルが分からない。


「これ、良い?言っても。ちょっと混乱させるかもだけど…」

俯いたままの朱鈴は深いフードを被っている。


「混乱は、まぁ」

「じゃあ学校で魔力は一種類と教わった?魔力判定は?」

「一種類…いや、曖昧で、ハッキリとは言われなかった。あと魔力判定はない」


一種類だと教わってないのか。

通常は断言するかのように教わるだろうに。

教えた人物は優秀な魔法師かな。


「学校はどこに通ってる?」

「二人と同じところ。ゾンネ・ルーナ学院」

「にぃ、リビードーか。リビードーが教えてるの?それとも他?」


魔法師のリビードー・ランプロス。

その人物を知っている事自体は何も不思議ではない。上位魔法師は少ない。たったの〝四人〟という人数。

そのため名前が知れ渡っていること自体は驚くことではない。

普通のことだ。


ただリビードーは『どうにかなるでしょう』という精神と性格を持ち合わせている。

疲れる事は絶対に好まないし、戦闘となるともっとだ。自分以外の誰かも一緒に…と、道連れに呼びつけたがる。

ただ、決して弱いわけではない。面倒くさがったり、楽をしたがる。


二人または三人。

人が多ければ多い程に疲れを分散できる。

楽ができる。

――そんな考えを日常的に持ち合わせている。

リビードーと知り合って長い人からは〝難のある人物〟と認定されている。


「リビードー先生は、講義って感じ。実技はその他の先生」


あぁ…やっぱりか。怠けてるような気もするけど。

リビードーの場合――

〝強い敵〟〝強い獣〟と当たった時に無駄な消費をしたくない。

「疲れるのが嫌だ」そんな理由からだろう。


「リビードーか。まぁ性格を除けば優秀…」

ぶつぶつと小声で呟く朱鈴の様子に、柊霞は小さく眉を潜める。


リビードーは魔法師兼、魔法担当の教師。

他の上位魔法師も似たようなもので、一人は道場を開く老人。

一人は自分の趣味に、豪邸で暮らす変人。

もう一人は公務系の職と両立させる優秀な人物。

そんな事を聞いた事がある。


それでも……いや、私に言えたことじゃないな。


「えっとね、普通の魔力と浄化の魔力。その二種類が存在して、君の場合は両方持ってるの」

「二種類…」

「そう。魔獣化した者達を殺さないで元に戻せるってこと」

朱鈴は片目だけでチラ見するように顔を上げる。柊霞は小さく喉を鳴らし、朱鈴のフードの目の辺りを見る。


すると、突然だった。――突如吹き荒らされる周辺。

説明最中だったにも関わらず、災難というものは突然やってくる。

竜巻かと思い始めた時だった。


朱鈴の耳には、風鈴の〝リン〟という音が鳴り響いていた。


「まぁ練習よりも実践だね。――ごめん。休憩はこれが終わってから」

「え」

「あと一発は残ってたはず。構えて」

一瞬として思考停止する暇も与えない朱鈴。

柊霞は言われるままに銃に手を置いて構える。


朱鈴の顔の前には〈位置感知魔法〉の地図が現れる。

「ここが中心だから…、75ー77度の辺りだね。少し右上を見てて、――来るから」


柊霞は言われた通りに銃ごと動かす。

すると、朱鈴が言って五秒も経たない間だった。

――魔獣の姿が顕になった。

暴れるように動き回る魔獣は地ではなく〝空〟を飛んでいた。

俯きがちの朱鈴の目の視界には、肩が見える。


それは、小さく堪えるように揺れる肩だった。

朱鈴は屈み、柊霞の背中にそっと手を当てる。

「目の前の魔獣の弱点はどこか分かる」

「首、または眉間」


「そう。どっちでもいいけど、眉間を狙ったほうが確実。――やれる?」

揺れていた柊霞の肩は小さく震えが止まる。

深く息を吸い、そして柊霞の目に決意を灯す。


「……やる」

柊霞は一言告げ、瞬にスコープを覗き込む。

動き回る魔獣に銃口を合わせる。

迷いを断ち切るように――トリガーが絞られた。

無音の銃弾は秒の猶予もなく一直線に走る。逸れることも、風に流れることもない。


気づけば銃弾は魔獣の眉間を撃ち抜いていた。


「異名は〝森閑の砲声者〟――うん。ネーミングセンス抜群だな、私」

朱鈴は鼻で小さく笑みを洩らし、口角を吊り上げた。


✢¦✢


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