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1.視線が怖い異質人



端的に言います。

この物語は…魔法と少しの謎解きそして主人公の好きな植物毒と植物毒以外も含まれます。

ゆっくり成長していく主人公。

そして過去での葛藤が楽しめると思います。


✢¦✢


風格を感じさせる小さな家。

その一室に〝カタカタ、カタカタ‥カチ〟とキーボードを打っている音が鳴りわたる。

「今日の天気は全国的に晴れの予報となっております。気温の変化も少なく過ごしやすい一日となるでしょう」

部屋に設置されている小さめのテレビ。

そこから流れるニュースキャスターの声。


「では次のニュースです」


家の主人である・朱鈴しゅりんは、テレビの音に無関心。

ノートパソコンの画面に表示されている写真。

そのを見ながら、口角を上げ、目元を緩ませる。

ニタニタとした表情を浮かべる。


「ここ最近、魔獣化の発生件数が増加傾向にあります。昨日だけでも確認・報告れている範囲で六件との情報がありました」


床には大量の本や図鑑。

そして似たような分野の本が重ねて置かれている。

踏み場が少しある程度は整頓されている。

この部屋は光を遮る。

そのための設計されたようなこの空間をしている。


「市民の皆さんは十分注意が必要です」


鍵を閉め、光を断ち、音も抑える。

世界と自分を意図的に切り離そう。そんな意図が感じられる部屋。

朱鈴はパソコンの画面。そしてテレビの画面という一部分の僅かな光だけ。

全体的な明かりは付けておらず、足を椅子に上げ、前屈みの体勢。

そしてタブレッドの画面には

――『謎解き不思議相談サイト』

と書いてある掲示板が表示されている。


ボサボサな寝起きの髪を気にする様子もない朱鈴は、淡々とキーボードを打ち続ける。

それから二十秒程で入力を終える。

静かに送信ボタンをクリックを押し、視線が画面の上に移動する。

最後に小さく背伸びをしながら、身体を捻る。


「ん〜まぁ、眠気覚ましにはちょうどいっか。六時、か」


部屋を出て扉を閉める。

廊下に出ると壁にかけてあるカレンダーを確認する。


そう言えば今日は週末初めの土曜…か。

カレンダーを見ようと思わないからなぁ〜。

それよりも着替え着替え。


朱鈴はタタッと足音を小さくたてて準備を始める。

元居た自室の隣室には服がぎっしりとハンガーにかけられた空間が広がる。

迷うことなく、大きめのパーカーと短パンを手に取る。

近くにある大きい鏡も見ずに、パパッと着替える。


「どうせ誰も見ない。うん、大丈夫」

こうやって自分に言い聞かせると少し楽なんだよな。

よし、オッケー。


着替え終えると同時だった。家のチャイムが鳴り、ドアが開かれる。そしてトコトコと近づく足音。


「鈴さんよ、起きてるよねー。あ、おはよう」

部屋を出て声の主を視界に収める。

その声の主は・紗綴だ。


「うん、良い子。じゃ行くよ。朝ご飯は後で裏に持ってくるから」

「…うん。楽しみにしておく」


大きな欠伸をしながら帽子を深々と被る。

その朱鈴の姿に紗綴はため息を付く。


「また朝からしてたのね」

「…まぁねぇ。知識は使わなきゃね」


それから二人は家を出て十五分程かけて歩く。

朝早いこともあってか、人の通りはほぼない。


「にしても、完全防御ね。暑くないの?」


朱鈴の姿は、パーカーに短パン。

靴はハイカットのスニーカー。

着用しているパーカーのフードは特注で作ったのか?と、紗綴に驚きの目をさせる。それ程までに深々と被れる作りになっている。

最後の仕上げですよ。そう言わんばかりの大きいマスク。

そのマスクは涙袋辺りまで引き上げられている。


「うーん。なれちゃえば」

「ま、鈴にとってそれが最良なら良いんだけどね。――あ、そうだ。最近さ獣魔化が増えてるじゃん」

そう言えば、なんか言ってたな。

確か朝のニュースで…そんな事を…。

付けっぱなしにしてただけでニュースさんには申し訳ないけど、…あんまし聞いてなかったんだよね。


「そのせいでさ、学校ではほとんどの魔法の授業が省略されちゃってるんだよね。魔法を使える先生たちが出ないとだからさ」

「へぇ――ん?他の学校にも魔法の先生達は少数だけどいるんじゃないの?まぁ腕前は、中級だろうけど」

最近は魔法師にまでなる人の数が激減している。

ただ魔法師になる前段階の幼生。

要するに魔法使いになりたい。

そう思って勉強をするという学生は増えているらしい。


紗綴の通うゾンネ・ルーナ学院。

優秀な先生も多く、中高大全てが連携している学院。

簡単に言うと人気校なのだ。

ただ難点も勿論ある。

それは――倍率がどこをとっても高いのだ。

中学から、高校から、大学から、どこでも受験は受けることは可能だ。

その分相当な人数が毎年落とされているらしい。


まぁ、うん――お疲れ様です。


「この頃は魔獣化する動物の力がね一昔前の平均を越したんだってさ」

「へー」

「なんか二倍以上に達してるって聞いたな。そのせいで魔法を使える人達でも上位の人しか対抗が不可能って状態らしいよ」

「ふぅーん…」

そんな世間話をしながら歩く二人の目の前に、建物が顔を出す。

木目を生かした自然素材を基調に、ガラスや金属で今時の要素をそっと取り入れた佇まい。

外観からも分かるほどに自然の温もりが洗練されたかのような喫茶店。

正面の少し端には看板がシンプルに設置されている。

そこには『喫茶・森の猫鳥』と書かれた看板。


「じゃ、私は裏から入るから表の扉を開けておいて」

「え、イヤだ」

「安心して。朝早いから誰も来ないよ」


朱鈴は嫌だという目を紗綴に向ける。

しかし一ミリも同様を見せない紗綴には効かない。

朱鈴は半ば強制的に置いてきぼりにされる。


うぅ…本来なら駄々をこねたい。

ただ人がいない今なら――


そう考えた朱鈴はパーカーのポケットから鍵を取り出す。

そして正面扉の前に行き、一呼吸置いて鍵をさす。

小さく「カチッ」と音がし、それに安堵をする。


よし、終わった。

じゃさっさと裏から中に………だ、誰。誰かがいる。


安堵に息をつき、安心して入れると思った時だった。

背中に人の気配を感じた朱鈴は足が竦み、動けなくなる。


振り返らなくても分かる。誰かがいる。

それにこの人達絶対…こ、こ、こ、こっち見てる! 

どうしよう、どうすべきなの。

今は七時ぐらいなのに、なんで人が…。

まだ開店時間じゃないですよぉぉ!


「あの、ここのお店の方ですか?」

これヤバメかも。

通常の呼吸さえも難しくなってきている。

あぁ――水の中に潜ってるような…気分。


「あの、」


朱鈴はどんなに呼びかけられようとも動かない。いや動けない。

一歩も。

朱鈴の耳には無機質に耳の奥で呼びかけられた声が反響している。

そんな気だけが朱鈴はしていた。


むり、無理、ムリ。いやだ、私を――こっちを見ないで。

消えて、お願い!


すると、鍵を開けたドアが内側から開かれた。

朱鈴は喜びよりも先に身体が反射し、瞬時に中に入る。走って裏に行く。

目的の場所にたどり着き、ドアを開ける。

鍵を内側から締めて床に座り込む。


「はぁはぁ、はぁ」

胸が苦しい…。

呼吸、呼吸をしないと。

――あれ、呼吸ってどうやってするんだっけ。

酸素を取り入れて、二酸化炭素を…


朱鈴は呼吸を整えようと胸の中心辺りに拳を強く、強く当てる。

力加減も考えずに…ただ、ただ。

早く落ち着くように強く。強く心臓あたりの胸を叩く。


「〝こんなんじゃ、強くなれない…〟」

朱鈴はもう片方の手で着ているパーカーをギュッとシワがつこうとお構い無しに掴んだ。


それから十分後。

ようやく呼吸も心拍も整い始めた。

自分を落ち着かせる呪文のような言葉を内心唱える朱鈴。


大丈夫、大丈夫よ。大丈夫…。

それにしてもこの感覚は久しぶりだな。

この一週間はずっと家にいたのもあるのだろうけど。


朱鈴は長く息を吐き一定的な呼吸を再開する。

立ち上がり、真っ暗闇の中で椅子を探し当てて座る。

机に置いてあるノートパソコンを開く。

電源を入れるとすぐに出てくる

――『謎解き不思議相談サイト』と書かれたホームページ。

そこに投稿されている依頼を一件ずつクリックしていく。


何か、面白いの来てるかな。

そんな淡い期待と興奮を持ちながら朱鈴は机に肘を付く。

目でゆったりと文字を追いながら読んでいく。


…あ、その前に、これこれ。


机のパソコンの横に置かれていた茶葉とクッキー。

机の端にあるテッシュ箱から一枚取り出し敷く。それらを少量取り出した朱鈴の口角は薄く上がった。


✢¦✢


「あっ」

朱鈴と別れた紗綴。

裏に回って鍵を開けて中に入っていた。

そして調理場の食材を取り出していた時だった。

紗綴さつなはハッと何かを思い出す。


そういえば、今日朝から課題を一緒にしようと言ってたんだった。

まぁでも、まだ朝の七時だし来るわけないよね。

――にしても、鈴遅いな。

どうしたんだろう。ドアを開けて入ってくるだけなのに。


不思議に思った紗綴が正面のドアを内側から開けたときだった。

紗綴の横をすり抜け、サッと人が通り過ぎた。

え、――鈴?


「え、ど、どうしたの」


朱鈴はそのまま裏の部屋に走って行った。

紗綴は開けたままにしていた扉の外に視線を移す。


あ、やってしまった…原因はこれか。


そこには紗綴と課題の約束をしていた二人の姿。

その二人を見た途端に一瞬で悟る。

申し訳ない気持ちに襲われる。

それでも切り替えて二人に向けて言う。


「早くない?」

「朝ご飯も食べようかと思ってね、ダメだった?」


少し気まずそうなブラウンの髪色をした男・碧羽が尋ねる。


もう、なってしまった事だ。

今回は仕方ない。

ただ、これからはここに来ることさえ…拒否反応を。

――ダメだ、考えないようにしよう、一旦は。


紗綴は首を横に振り、二人を室内へ招き入れる。


「大丈夫。あ、中にどうぞ。朝食は作ってくるから好きな席で」

そう言って紗綴は調理場に戻る。

それから自分の分を除いた三人の朝食作り上げる。

まずは課題のためにやってきた二人の元へ出来上がった料理を持って行く。


「フレンチトーストでいいよね?もう、作っちゃた後だけど」

出来上がった料理を前にして聞く。

「うん、ありがとう」


お礼を言う碧羽あおば

顔立ち的には冷たい。

一般的にはそう言われるような顔立ちをしている。

ブラウン色の地毛はその顔立ちを緩和して緩めている。

そして、もう一人。

ここに着いてから一言も言葉を発していない、柊霞しゅうか

無口といえる顔立ち。

黒い地毛の髪は無口さを倍増させる雰囲気を漂わせている。

ただ実際の無口候補でもある。


「‥ん、うまい」

「よかった」

「さっきの子って、ここのお客さん?店員さん?」


鈴の事を聞かれ、少し困った表情で考え込む。


なんて言うべきなのだろう。

そもそも鈴は自分の事を人に知られる事が好きではない。

名前や過去、どんな些細なこと。

それでも勝手に知られる、知ろうと歩み寄られる事さえ拒む。


そして極端に嫌う。


「まぁ、店員側ではあるかな」

「そうなんだ」

「ただ、あの子について詳しくはちょっとね…」


それだけを伝え紗綴は調理場に一度戻る。

すぐに朱鈴のいる裏へ足を向ける。


鈴大丈夫かな――でもまずは、謝らないとだね。


誰も来ないと言ってしまった。

紗綴は申し訳ないという気持ちが渦のように心にあった。

まだ朝早いからと油断してたな。


紗綴は眉をハの字にした表情のまま下を向く。

しかし振り払うようにまっすぐ前を向き直す。

朱鈴のいるドアを正面に、料理を片手で持つ。

ドアをノックし、声を掛ける。


「鈴、ごめんね。関わらせようとした訳では無いの」

「…」

「本当にまさかが重なってしまったの。ごめん」


朱鈴は何も答えず紗綴は耳を澄ます。

そこから聞こえてくるのはキーボードの音。

カタカタと打っている音だけ聞こえる。


「鈴、……ごめんね。本当に」

「…大丈夫だから、大丈夫」


やっと聞こえた朱鈴の小さな声に、紗綴は安堵を示さない。

ねぇ鈴。その大丈夫は誰に言っているの。

――私?それとも――自分に言っているの?

「‥鈴」


すると鍵が解除される。

ドアが開き、紗綴の持っているお盆を受け取る。


「ありがとう」

開かれたドアから見える部屋の中。

近くに積まれている本の上に一時的にお盆を置く。


「うん。それと…鈴の事を聞かれたんだけど」

「…ん」

「嫌だよ…ね」

視線で逃げる子だ。

誰かに個人情報を漏らされることなんか以ての外。

それは分かっている。それでも…。


「本心は……嫌」

ありゃ、そうだ。――ん?本心は?


「でも、紗綴がその人達を信じてるなら、私も少しだけ我慢する」

「…鈴」

「それと、これ」


お盆を本の上に置いたときから持っていた朱鈴の手。

その手には、ある茶葉とクッキーが両手で持たれている。


「これって、お客さんからの」

確か朱鈴に止められたやつだ。一度確認するからと。

ここに来る常連のお客さん。

店員の私に時々、食べ物や飲み物をプレゼントとしてくれる。

ただその中には色んな意味の込められたものが多い。

――本当に稀。

いや偶然にもストーカーのようになっていく人も一割程度は現状いるということは否めない。


「これはダミアナの茶葉。市販のなら良いんだけど、明らかに自家製」

それは、飲んではダメってことで、あってるのかな。


「このクッキー、独特なっていうか…土っぽい匂いしてるの。後は薬草ぽい匂い――気づいた?」

「え?あ……そういえば……」

確かに一緒にクッキーももらった。

茶葉と一緒に三時のおやつにでもしてと言われて渡された。


「この二つは辞めといて。この二つの種類のハーブは一説によると――媚薬ハーブなの」

「び、媚薬!!」

紗綴は目を見開き、少しだけ大きな声を出す。


「でも、媚薬まで、うーん…劇的な効果は多分ない。あるとしたら、プラセボとかね」

「あ、よかった」

ん?プラセボって、何だ。

流れ的に安堵しちゃったけど。


「ハーブって言葉的には響きがいい。でも自家製は別で濃度管理が曖昧な所もあるから媚薬よりも…健康被害かな。ま、やめといて」


鈴からは常連であろうとも、色々貰うなと言われている。

ただお客さんを前に断れない。

それが現実だ。

鈴もそこの部分は分かっているのだろう。


対策として貰った場合は、朱鈴に先に確認してもらう。

それが二人の間での規則となっている。

朱鈴は紗綴に茶葉とクッキーを渡し、伝えることだけ伝え扉をそっと閉じる。

これを渡した常連さんが何の効果を期待していたのかはわからない。――けど媚薬、か。

自家製ってことはどういう意図があったんだろう。

ま、それよりも、鈴から許可…降りた!

紗綴は媚薬のことよりも、許可を貰えたこと。

その嬉しさに表情が自然に綻ぶ。


 ――これからが始まりなのかもしれない。

淡い期待を胸に、少しテンションが上がった紗綴は表に戻る。


✢¦✢ 


10話程まで一気に書き上げますので、更新は遅れます。

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