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作者: 佐藤 寒い

湿ったこの部屋に何があるんだろう。窓には水滴がはりついて

集まっては落ちて後が残る。見慣れた風景

なんでもない。そう・・・なんでもないのだ。見慣れた風景・・・・。

そのはずなのに・・・・。

胸が切ない。「返せなかったな・・・。」

____________________________


ったくなんなんだよ。こんな日に限って・・・・。

そう傘を忘れたのだ。灰色のズボンに学ランさらには坊主頭。

高3年になって野球部の引退試合も終えた

いよいよ大学受験だ。そのために図書館で勉強してたのだ


吹きすさぶ風が寒い。秋の気配が漂っていた。


「まぁこんぐらいなら何とかなんだろう。」

帰る決意をし、いざ向かおうとした

「高谷先輩!」

マネージャーの佐々木がいた

「うん?佐々木か」

「高谷先輩は今帰るんですか?」

「おう!今から帰るんだけどよ・・・傘忘れちまってよ・・。」

そういうと佐々木は自分の髪をいじりながら何かをつぶやいた

聞こえなかったオレが近づいて聞こうとすると

「ッキャ・・あ、ごめんなさい」

「・・・ってかさっきなんつったんだ?」

佐々木は首を振りながら

「いえ!なんでもないです!」

「そ、そうか?」

へんなやつ・・それが佐々木とはじめて話した第一印象だった


「あ~走って帰るしかないか!」

そうニコリとしながら言うと

「え!?この雨の中帰るんですか?」

「おう!男ならそんぐらいしなきゃな!」

素で言ったしそのつもりだった。

「いやいや、風邪ひきます!・・・・ので・・・よかったら・・・・」

「なんだ?」

「いえ・・あの・・・いしょ・い・・・いっしょ・・・」

なんていってるかわからん

「なんだ?きこえん。はっきりいえや」

「一緒に帰りませんか!」

時が止まった

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「だ、だめですか?」

え・・・一緒に帰るのか・・?オレと?

わけがわからなかった。何でオレとこいつが?

まっすぐ見つめてくる

「あ~・・佐々木・・・・いいのか?オレなんかと帰って?」

佐々木は顔を真っ赤にさせている。

「あ・・あ・・・・・・・・・はぃ・・・・・。」

女と帰るのは初めての経験だ・・・どうすればいい?!

「とりあえず傘ぐらい持つよ。」

「あ、はい!」なぜか元気な返事

傘を恐る恐る受け取りそれを差した。

なんて変哲もないビニール傘

「んじゃ・・・帰るか?」

てこてこ歩きで近づいてくる

「お願いします!」佐々木は頭を下げた

へんなやつ。でもかわいいとこあんだな

そう思った。


雨は相変わらず降り続いている

佐々木がぬれないように佐々木よりに傘をずらす

おかげで自分は肩がぬれてしまっている

それに気づいた佐々木が

「あ・・・高谷先輩・・・ぬれてます・・・。」

「いいんだよ!きにすんな!」

そういって話をさえぎった

すると佐々木が意を決したように

俺を見上げてきた

「高谷先輩!」

「うん?」

「好きです!!!付き合ってください!!」

また時が止まった

「・・・・・?」オレは首を傾けた

「・・・・・・・・・・やっぱりだめですか・・・?」

今にも泣きそうな佐々木が立っていた

オレはわけがわからなかった

だからボーと突っ立っていた

それしか出来なかった。俺はうぶだったのだ。

「すいません・・・・・。」そういって佐々木は目をうつむき

傘から出て走り出した

「佐々木!!待てよ!」

返事もなく走り去る。

足早!もう見えなくなっていた。追いかけたが姿がもうどこにもない

やべぇなぁ・・・

この傘・・・ってか・・・オレ今こくられた・・・のか?

自分には恋とかそんなの関係ないと思っていた

がまさか・・・・。

車のクラクションが鳴る

道路の真ん中につったっていたら

当たり前か

すぐにどき仕方ないからそのまま帰った。


翌日学校で返そうとして

廊下ですれちがった同じマネージャーの佐藤に佐々木のクラスを聞いた。

「佐々木さん?あのこもういないわよ。」

「へ?」

「お父さんが転勤になって引っ越すって」

「まじ?」

「まじ」それがマジなら返せない・・・・


やべぇ・・・・・

返し損ねた・・・・。

あれから佐々木のことばかり考えている

今どうしてんだろう。オレの部屋に傘が一本窓側においてある

窓には水滴がくっついている

水滴同士が集まって固まって大きくなって落ちる

それをずっと眺めている

「返せなかったな・・・・・この傘」


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