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不可思議

…………




10分ほど歩いただろうか。


全く見覚えのない道を歩き続け、時間も方角も分からなくなってくる。


しかしトクさんは迷わず進んでいくので、信じてついて行くしかない。


同じような家屋が並ぶ道を何度か曲がると、前方が行き止まりになった。


いや、正確には、長い長い石段があったのだ。


いつかテレビで見た日本一段数が多い階段など余裕で超えるような、ゴールの見えない真っ直ぐな石段。


左右には背の高い木や雑草が青々と生い茂っているが、石段には一つの雑草や落ち葉も無い。


こんな長い石段を、誰が手入れしているというのだろう。



「ここだ。」



トクさんは振り向いて言った。



「……これを登ると?」


「誠意を見せろ、ということだ。此処の主は気難しい。」



トクさんは雛子の肩に飛び乗る。


誠意などと言っておきながら、自分は楽をするつもりのようだ。



仕方がない。



雛子は階段に足をかけた。


その瞬間、強風が吹いて、それまで大人しかった木々がざわざわと揺れ始める。


門番が、突然の侵入者を警戒しているかのようだ。


一段一段、慎重に足をかけ、登っていく。


上がっていくにつれて、木々の中からたくさんの何かに見られているような、そんな不気味な視線が強く感じられてきた。


常人ならばもう諦めて引き返したくなる頃だろう。


暫く登ると、雛子は突然立ち止まった。



「……やめておくか?」



座り込んでリュックを下ろしてしまった雛子に、トクさんが声をかける。


しかし、暫くリュックを漁っていた雛子は、リュックから母の作ってくれたおにぎりを取り出し、とびきりの笑顔で言った。



「腹が減っては戦はできぬ、というでしょう?」



肝がすわりすぎてもう寝転がっているのではないかと思われるJ Kを前に、猫はこっそりため息をついた。






…………




そこまで振り向かずに石段を登ってきた雛子は、石段にハンカチを敷いて腰を下ろそうと体の向きを反転させ、眼下に広がる光景に息を呑んだ。


そこには底が見えないほど遠くまで続く石段があったのだ。


無論、雛子がそんなに登ってきた訳がない。



「トクさん、これは一体……?」



肩の上のトクさんは何やら考え込んでいる様子で何も答えてくれない。



とりあえずおにぎりを食べ終えると、


(これでは戻ろうというわけにもいきませんねえ……)


もう先へ進むしかないようだ。


えいっ、と気合を入れて、雛子はリュックを背負い立ち上がった。


そして石段を登ろうと上を見上げて______



彼女はまたもや驚かされることになる。



確かに長いことには変わりないが、なんと石段の先に終わりが見えたのだ。


おにぎりを食べる前とは明らかに違う光景に、雛子は困惑した。


登り始めた地上は途方もなく遠くなり、逆にゴールまでが一気に近づいてくる。


そんな石段、見たことも聞いたこともない。



(神様が憐んでくださったのでしょうか。)



兎にも角にも、上まで登ればきっとトクさんの言う「協力者」に会えるのだ。


ざわめいていた木々は先程と打って変わって、怖いほど静まり返っている。


肩に小さな猫を乗せた少女は、また一歩足を進めた。




………….



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