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タイトルとかとか、いただいて書きました。

私の王子様は、今日も笑わない 〜え、無表情でいつもそんなこと考えてたんですか!?〜

 



 ――――私、禁術に手を染めたいと思います!




 発端は、婚約者である第三王子殿下――レイナルド様の態度でした。


 我が家は貴族界で中の下くらいに位置している弱小伯爵家。

 十三歳のときに王家側から婚約を打診されたのです。

 打診とはいうものの、ほぼ勅令の打診など断るなど出来るはずもなく、我が家全員が『なぜフローラ?』と頭にハテナマークを浮かべなが了承しました。


 王子様との初顔合わせの席で、どことなく国王陛下に似た王子殿下――レイナルド様に挨拶したのですが、無表情というか完全無視でした。

 しかも、一言も発さず。


「本日はとてもいい日差しですわね?」

「……」

「レイナルド様は普段は何をされているのですか?」

「…………」

「わっ、私は物語を読んだりしていますわ」

「………………」


 私だけが延々と喋っている、という空気の気まずいこと気まずいこと。

 こちらを見つめる色だけは甘そうなオレンジの瞳と、幻想的なオリーブグレージュな猫っ毛の王子様は、私が帰るまで一ミリも表情を動かしませんでした。


 そしてこの日から、私の地獄は始まったのです。




 ◆◆◆◆◆




「レイナルド様」

「……」

「今度の茶会で、レイナルド様の瞳の色の宝石を着ける予定なんですよ」

「……」


 お父様がこれを言われたら萌える!と仰られるので、レイナルド様に伝えてみましたが、無反応でした。




「デビュタントボールでのキャバリエをお願いしてもよろしいでしょうか?」

「……」


 こくんと頷くのみでした。

 このときからお父様の言う『萌える』は信用しないことにしました。




「ダンスカードをレイナルド様で埋めてもよろしいでしょうか?」

「…………」


 お母様がこれでお父様をオトしたと言われたのですが、レイナルド様はまたもや無表情で頷くのみ。




「私、夜会の熱気にあてられたようです。庭園で少し涼みませんか?」

「……」


 お顔を横に振られてしまいました。

 お母様が、これで鼻の下を伸ばしたお父様にブチュとイッパツカマしたら即結婚になったわよ! とサムズアップしていたのですが、レイナルド様は庭園のお散歩さえも断固拒否でした。




 ◇◇◇◇◇




 私もレイナルド様もともに二十歳。

 もう結婚してもいい年齢なのに、未だに幼いあの日に結んだ婚約関係から一ミリも進展していません。

 妃教育のみが完璧になっていくのみです。


「王族専用の図書室に行ってまいります」


 レイナルド様の婚約者とのことで、私にも王族しか見ることの出来ない書類や書物を閲覧する権利が与えられました。

 そこを利用して、どんどんと知識を詰め込んでいたのですが、無用の長物になりかけていました。


 ところがです! 

 つい先日、魔術関係の書物の中に、『禁書』を発見したのです。

 この世界には魔導具が存在しています。

 現代はそれらが発達しすぎて、直接魔術を使う者が激減しました。

 それとともに魔術書も廃れていったので、それらを後世に残すためにこの図書室に置いていると伺っていました。


 興味本位から禁書を手に取り、ぱらりとページを捲っていると、『恋愛』という項目に『あの人の心の声が全て聞こえちゃう! ドキドキ読心魔法!』と書いてある項目を発見したのです。


 相手の心を操ったりと、人道を外れる魔法もありましたが、私が読むのは『恋愛』の項目のみ!

 それはもう一心不乱に読みました。


 わかったこと、それは――――対象者の両手で自分の両耳を塞いでもらい、対象者の手に自分の手を重ね、『この者の声を全て私に届けよ。これは清き乙女の願い』と心の中で唱え、手のひらから魔力を注ぐ。ということ。

 簡単に言うと、対象者を魔導具に見立てているようなものなのでしょう。

 チャンスは次の夜会!




「レイナルド様、お手を拝借いたしますわ」

「……」


 迎えに来てくださったレイナルド様の両手をガシッと握り、私の両耳に。


「ちょっと耳を押さえていてくださいね」

「……?」


 珍しくレイナルド様がきょとんとしています。

 可愛いです。

 でも、それに見とれているわけにはいきません。

 私には壮大な計画があるのですから!


『この者の声を全て私に届けよ。これは清き乙女の願いっ!』


 心の中で全力詠唱しました。


『……フローラは、一体何を?』

「っ!?」


 頭の中に低く柔らかな声が響きました。

 もしやこれがレイナルド様のお声!?

 もしやもしや、禁術に大成功でしょうか!?


『あぁ、そんなに目を見開いたら、チョコレートの瞳が零れ落ちてしまう』

「ふひょっ!?」

『急に可愛らしく鳴いた……チョコレート色の髪に手を挿し込んで、押え付け、唇を奪いたい』


 ――――まじか! マジでございますか?

 

 どうぞどうぞとばかりに目を閉じて、顔を少し上向きにしましたが、なぁんにも起こりませんでした。


 ――――ちぇっ。


 耳から手を離され、クッと手を引かれたので、馬車に向かうと言いたいのでしょう。


『……ふぅ。危なかった』


 何が危なかったのでしょうか?




 馬車の中では何も聞こえずで、やっぱり失敗なのかと思いましたが、馬車から降りる際にレイナルド様にエスコートされた瞬間にまた聞こえてきました。


『あぁ、やっぱり柔らかい手だ。舐めたい』


 ――――な、舐め?


『これから、地獄の時間が始まるな……』


 地獄の時間とは、もしかして私との夜会の時間なのでしょうか?

 地獄と例えるほどに嫌な時間だった?


「ごきげんよう、殿下」

「……」


 夜会で挨拶されてもレイナルド様は頷くだけです。

 最近はまことしやかに舌がなく話せない王子との噂まで出てきています。


 舌はあるのです! 食事の時にチラチラ見えますから!

 時々ゴホッと咳をしたり、「んっ」と小さな声を漏らされるので、声帯も特に異常はないのです。

 そもそも私がいないと、陛下と王妃殿下の前では話されるそうなので………………話せるのですっ!


 私の前では話したくないのでしょうか?

 モヤモヤしたり、しょんぼりしたりしていましたら、ダンスの時間になりました。


「……」


 レイナルド様は王族の義務を果たすべく、いつも通り私の手を引きダンスに向かいます。


『フローラ、行くよ』

「はい!」

「っ?」


 あ、つい返事をしてしまいました。

 レイナルド様、心のなかではわりと話しかけてくださっていたようで、少しだけホッとしました。

 実はさっきまで聞こえていたのは妄想だったのかしら? なんて可能性もあったので。


「ダンスに参りましょう!」

「……」


 いつもの無表情でこくりと頷かれたので、私の不審さはバレてはいないようです。

 

 レイナルド様にホールドされる瞬間、また声が聞こえて来ました。


『くそ、我慢しろ……』


 あら? やっぱり、私といることが地獄なのでしょうか?

 なんだか鼻の奥がヅンと痛くなってきました。

 

『ん? フローラの目が潤んでいるな……。可愛い。舐めたい』


 やっぱり舐めたいって言ってる!

 待って待って、どういう事ですの?


『あ、痛い。踏まれた』


 あぁぁぁっ、折角のダンスタイムに集中出来ずに、レイナルド様の足を踏んでしまいました。嫌われて――――。


『――――なんという褒美だ』


 …………ほ、褒美、ですの?


『今日もフローラは、私の瞳の色のドレス。私のものだと全身で言ってくれている。早く食べて、乱してと』


 え、いえ、その……そこまでは。

 いえ、庭園でイッパツブチューもなきにしも、ではありましたが。

 ある程度の清いお付き合いといいますか……。

 婚前交渉は流石に駄目でしょうし。


『さっき私の足を踏んだせいだろう。なんだか顔色が悪いな』


 あっ、いえ、いい方向に取られましたわ。その線でお願いいたします!


『これは、休憩室に連れ込み、ドレスを剥ぎ――――』


 流石にそれは駄目です! 駄目駄目です!

 ちょっとぉ!?

 レイナルド様ぁ!?

 え、無表情でいつもそんなこと考えていたんですか!?


『あぁ、プリッとした唇が私を誘ってくる。この唇が私の名を紡ぐたびに、塞いて乱し、もっと鳴かせたくなる』


 塞ぎたいんですの!?

 塞ぎたくないんですの!?

 どっちぃぃぃ!?


「れ、れいなるどさま?」

『――――っ、くっ。危なかった!』


 なーにーがぁぁぁぁ!?


『三曲目も踊りたかったが、もう無理だ。我慢ならん。耐えられない。冷えた飲み物が欲しい。飲んで落ち着こう』


 気づいたら二曲も踊っていました。

 レイナルド様に突っ込みを入れるのが忙しくて全然気づいていませんでした。


「そうですわね。私も冷たいものが飲みたいです」

「っ――――は?」

「…………あっ!」


 つい、返事をしてしまいました。

 左手が強く握り込まれて、少し痛いです。


『まさか、声に出ていた?』


 セーフ! バレていませんわ! 全力で誤魔化しましょう!


「今日は少し暑いですわね?」

「……」


 こくりと頷くレイナルド様に更に話しかけます。


「もうそろそろ夏ですものね。皆さまが今宵は暑いわねと話していたので、つい口に出てしまいましたわ」

『なんだ。偶然か』


 そうそう、偶然ですわ。


『恥ずかしがるフローラは格別に可愛いな。王城庭園の木に髪を絡めて泣いていたのを助けた時のイジけた顔の次くらいに可愛い』


 ……物凄く具体的に説明されました。

 なんだか、レイナルド様の視線が鋭いような?


『あのとき、一目惚れした』

「はぅぁ」


 思い出しました!

 幼い頃に、王子殿下と同じ年頃の子供が王城庭園に集められてお茶会をした日がありました。

 その時に散策していたら生け垣に髪が絡まって――――あの時助けてくれた男の子!


「……」

「レイナルド様、飲み物を取りに行きましょう?」

『ん? やはり勘違いか? あの時、何かしらの魔術を使ったのかと思ったが』


 バレ……まだバレてないはずです!

 大丈夫!


『なんとなく覚えが――――』

「レイナルド様っ! レモネードがありますわ!」

『思考を遮ってくるこの感じ――――』

「レモネード、久しぶりですわ!」

『まぁ、気のせいか』


 セーフです。ギリギリのギリギリでギリギリセーフです。

 もう少し、もう少しだけ、このドキドキとしたやり取りを楽しみたいです。


 私の王子様は、今日も笑いませんが、心の中ではちょっとイケない方向に饒舌でした。




 ―― fin ――




 閲覧ありがとうございます!


 素敵なタイトルをいただき、テンション爆上げで書きました!ヽ(=´▽`=)ノ

 ブクマや評価等いただけますと、作者のモチベになりますですm(_ _)m



(タイトルを下さった石田うる様、【https://mypage.syosetu.com/1708364/】素晴らしい機会をありがとうございました!)


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