4、呪われた宝
ここまでのおさらい。
五年前に村の近くで赤ちゃんを拾い、村で育てた。赤ちゃんの名前はロゼッタといい、何故か大人のように喋る事が出来て、自分は東国の王族に仕える治癒術師(三十二歳)だと言った。
その子は五歳になり、今はこの国の首都にある学校に通っている。十八歳までに義務教育課程を修了するとその証明書が貰え、国外に出る事が出来るようになる。その子は東国へ行けるよう猛勉強中だ。
村から付き添いの私、アヴリルは彼女の見守りがてら一緒に国の首都へついてきた。正直ついてくる必要はなかったのだがせっかく村を出る機会、逃すものかと無理矢理来た。
ロゼッタを学校へ送り届けた後、村に来ていた商人の知人に紹介された仕事先へ足を運ぶ。私の到着前に色々あったようで、仕事先がなくなってしまった。
困っている所に出会ったのがアスラとドゥーザンという男性二人。どうも私に聞きたい事があったようで、その内容がロゼッタに関する事だった。
「そして今に至ります」
「はい、説明ありがとねぇ」
私たちはまだ汁麺屋にいる。目の前には食後のデザートを味わっている中年男性と、その隣で二杯目の飲み物に砂糖をばさばさ入れてる青年がいる。
先程知ったのだが、この二人はロゼッタが赤ちゃんになる直前まで行動を共にしていた東国の王子と、その護衛の魔法騎士だそうだ。
「お前、名前が書かれたメモを見ただけでこっちを信じるとは相当警戒心緩いぞ。俺たちが良からぬ事を企んでいたらどうする」
「その時はその時で考える」
「菓子を頬張りながら喋るな汚い」
アスラは呆れたような顔をしている。
「さっきのメモ、燃えて消えましたけど魔法とかいうのですか」
「そうそう、相手がメモの内容を理解したら消えるんだ。魔法にもいろいろあってね、ロゼに魔法見せてもらってない?」
「見世物じゃありませんって言って、ほとんど見せてくれなかったですね」
「なはは、言いそう」
食事を終え、会計を済まして店を出る。奢ってもらった。
あと数時間もすれば日が沈む。
「ところで協力って何をすれば良いんですか」
「うん、今オジサンたちがお世話になってる人から頼まれてる事があってね。どうも男二人じゃ解決出来そうもなくて、助けて欲しいんだ」
「具体的には何をすれば…」
「行けば分かる」
目的の場所は大きくて頑丈そうな建物。入り口に立っている人にドゥーザンが一言声をかけ中へ。受付で入場手続きをし、廊下を進むと、鍵の付いた重厚な金属の扉がたくさんある部屋に出た。
目の前を歩くアスラはさらに進み、奥にある階段から下へ向かう。地下の薄暗い廊下を進んだ先に一つだけ大きな扉があった。
「来ましたわね」
その扉のそばに見知らぬ男女がいた。彼らは庶民のものではなさそうな装いをしている。女性と目が合った。
「私はアンゼリカ。今回の依頼主ですわ」
「どうも、私はアヴリルです」
「いきなりで悪いのですが、ここに入り、中にいる者と話しをしてきて欲しいのです」
「中に誰が…」
その時、大きな音を立てて扉が開かれた。中は植物で埋め尽くされていた。緑でいっぱいの部屋の中央が微かに動いた。
『また来たのかね。話す事など何もないと言ったはずじゃが』
その声は耳から聞こえたのか、頭に響いたのか、よくわからない不思議な声だった。
『女のコを連れて来てくれたら、話してやらんことも…』
アンゼリカに背中を押され、部屋の中に一歩踏み込む。
部屋にあった植物が人の形をして、こちらへ勢いよく近付いて来た。人の顔に当たる部分には大きな赤色の一つ目が開き、こちらを覗き込む。
「――ッ!!」
ここで一番背が高いドゥーザンよりも大きな生き物。私は腰を抜かしてその場にへたり込む。
『おお、驚かせてスマンのう。大丈夫か?』
大丈夫ではないため、涙目で首を横に振る。心臓に悪い。
「さぁ女のコを連れて来ましたわ、これで満足でしょう。例の件、助力してくれますわね」
『嫌じゃ』
「どうして!?」
『男どもは殺気立ってるし、ワシまだ女のコとお話出来てないんだもん』
後方を見るとドゥーザンとアンゼリカの連れの男性は腰に下げていた武器に手を掛けている。アスラは前に出した右手を握りしめている。
「手から煙出てるよ」
「発動直前の魔法を握り潰しただけだ、気にしなくていい」
アンゼリカは苛立った様子で目を閉じ、少し考え、明日出直してくるという事で植物と話をつけた。
その場を後にした私たちはアンゼリカの住む屋敷に招かれた。とてもきらきらしている建物で目が痛い。彼女、お嬢様と呼ばれていた。
屋敷に入った辺りからドゥーザンの後ろに隠れて挙動不審になってしまった。田舎者の私には居心地が悪過ぎる。都会怖い。
私たちはローテーブルとソファがある拾い部屋に通された。
「アヴリルさん、申し訳ありませんが明日もう一度付き合ってください」
「あれとお喋りするんですか…?」
「見た目はアレですけれど、害はありませんわ」
ううううん。
「なぁアンゼリカ、こいつ住む場所と仕事がないんだ。面倒見てやってくれ」
「え?」
「あら、そうだったんですか。お安い御用ですわ」
「ええ?」
アンゼリカさんが近くにいた使用人らしき人に指示を出す。アスラとアンゼリカさん、この二人の関係が気になる。
「今回の件、国にとっても重大な案件ですの。貴女の協力なしでは達成出来ませんわ。必要なものがあれば遠慮なく仰ってください」
「…ね、寝床と仕事があれば十分です」
ソファに座らず壁際に立っていたドゥーザンは「よかったねー」と、ニコニコ笑っている。
日はすっかり落ちてしまって、外は真っ暗。アスラとドゥーザンは自分たちの家へ帰ってしまい、私はアンゼリカさんの屋敷の客室にいる。
「部屋が広過ぎて居心地が悪いです。庶民には、田舎者には早過ぎた!」
うおおおんと嘆いていると廊下へ続く扉から控え目なノックの音。
扉を開けるとそこには緑色の目に橙色のウェーブのかかった長い髪の女性、アンゼリカさんが立っていた。先程まで着ていた動きやすそうなものとは別のドレスを身に纏っていた。
「アンゼリカさんッ!」
「大丈夫ですか」
「え」
独り言が廊下まで聞こえていたらしい。恥ずかしさのあまり目を逸らす。
少し話したいとの事だったので、中庭の庭園にあるベンチに二人で腰掛けた。外は心地よいひんやりとした空気で、夜空は星がたくさん散らばっていてキレイだ。
「今日ご覧になった植物の『目』は過去と現在、そして未来の可能性の全てを見る事が出来る呪われた宝と言われております」
「呪われた宝…」
「えぇ、それは他にもあり、各国に一つずつ、全部で五つ存在するそうですわ」
「五つ…」
「それらは使う者に強大な力と、呪いを授けるらしく、この国の『目』は五感を失う代わりに全てを見通せる能力を得られるそうです」
「…どうしてそれを私に?」
アンゼリカが言うにはこうだ。
東国にあった呪われた宝が五年前に消えてしまったが、アスラたちは知らないと言っているそうだ。管理は王族がするものと取り決めがされているとの事なので知らないはずはなく、何かを隠している可能性がある。
今後、行動を共にするのなら警戒をしておきなさいと忠告された。
東国にあったのは『不滅の心臓』と呼ばれるモノで、使用者を若返らせる事が出来るが、若返らせた年数の半分までしか生きられないという呪いがかかるそうだ。
呪われた宝の所在を私は知っているような気がする。そうだとすると、あの子は十六歳までしか…。
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