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1、喋る赤子を拾いました

 見渡す限りの木と木と木。ここは村を取り囲む森の中の一風景。自然がいっぱいと言えば聞こえは良いが、生まれてこの方二十四年、四季の変化はあるものの正直見飽きた。劇的な変化や面白い事はないものかと村を出て近くの森を散歩する。


「…………」


 特に何もない。いつもの事だ。


 毎度の如くため息を吐きつつ、村長である父親から頼まれたおつかいを済ませるべく辺りを見渡す。


「…………ぁぅ…」


 その時、いつもと違う音が聞こえた。風の音でもなく、何かこう…


 音の出処を探して、草むらをかき分ける。いつもと違う出来事に内心わくわくしていた。していたのだが、聞こえた音の正体を見て限りなく動揺した。

 草むらの中に布で包まれた赤ちゃんがいた。肌の色は白く、目は吸い込まれそうな黒、生まれて間もないのか髪は薄い、金色だろうか。雑草の上に横たわる赤ちゃんと目が合う。


「ぁ…どうも、すみません、ここどこですか」


 ちょっと動けないので助けてください。その赤ちゃんは私に向かって割とはっきりした口調でそう言ったのだ。


「…………」


 私はアヴリル。今年で二十四歳になる。赤ちゃんってこんな小さい時から喋るのだと初めて知った。


 その赤ちゃんを抱き上げる。確か首辺り気を付けなきゃいけなかったよねと慎重に支えて抱える。ナニコレ小さい!怖い!


「ええと、あなたのお母さんかお父さんは近くにいるのかな」

「え、いないと思いますけど」


 何でだよ!育児放棄かよ!!


 赤ちゃんはというと、いる方がおかしいみたいな顔をしている、気がする。周りに誰もいない事を確認する。


「とりあえず、近くの村まで連れて行くね」

「はい、お世話になります」


 よく出来た子だ。


 村に着くと顔見知りのご近所さんたちに叫ばれた。


「アヴリル、お前が馬鹿なのは知っていたが…」

「その歳で独身が辛いからって他所様の子を誘拐は良くないと思うぞ」

「違っ……森の中で周りに誰もいなかったから連れてきたんだよ」

「動物を拾ってくるのとはわけが違うのよ。一緒に謝りに行ってあげるから正直に言いなさい」

「いや、だから」


 村人ほぼ全員集まってきて、好き放題言われる。こちらの言い分を聞こうとしない。彼らは何も知らないのだからそう思われても仕方がないのかもしれないが。


「あのーすみません」


 例の赤ちゃんが口を開き、村人たちは目を丸くし静まり返る。


「その、漏らしました…小便」


 赤子の股から滴る液体。


「うおぉう」


 落としそうになった。


 さすが、子どもがいる村人の赤ちゃんを世話する手際の良さはいつまでも眺めていられた。すごい。

やってみたけどそうそう上手くいくもんじゃなかった。これが親というもの。すごい。


 その後、村長を始め村の重要人物が集会所に集まった。ここは村の中央にあり、机や椅子なんて物はなく、日よけ程度の屋根に地面の上に分厚い布を敷いて直に座るという休憩所を兼用している場所。その場所の真ん中に急ごしらえで作られた赤ちゃんの寝床。大きなカゴに敷き詰められたふかふかの布に沈んでいる赤ちゃん。そして赤ちゃんを囲むように座って険しい顔をしている村人たち。その輪から外れた所に正座させられている私。


「困りました」


 と、赤ちゃん。おそらくここにいる全員が困っている。


 赤ちゃんの名前はロゼッタ。この村がある中央の国、その隣にある東国の人で、王家に仕えていた治癒術師らしい。本人曰く、自分が赤ちゃんだと気付いたのは先程。覚えてる限りで彼女は三十二歳、立派な大人だ。私よりも年上である。


「正直、その話の真偽は確かめようがない」

「風の噂でひと月ほど前に東国の王城は正体不明の一団の襲撃に遭い一夜にして滅亡に追い込まれたと聞く」

「王族も逃げたのか殺されたのか分からないそうだ」

「ううう」

「でもこのまま彼女を放っておくわけにもいかないでしょ」


 輪の外から口を挟む。


「それはそうだが…」

「ロゼッタがひとり立ち出来るようになる年齢まで面倒見てあげようよお父さん」


 父である村長は唸りながら、周りと意見交換している。数分後、村長家が養子として迎え入れる事になった。国には適当な届け出を出しておくと書類を作り始めた。

 村長の養子、村長の娘である私と彼女は姉妹になるという事だ。


「年上の妹かぁ、よろしくね」

「えぇ、こちらこそよろしくお願いします」


 村から離れた事のない私はまだ見ぬ外の世界へ思いを馳せる。東国はどんな所だろう。いつか行ってみたいな、行けるかな。


 その後、私はロゼッタくらいの赤子はあんなにも喋らない事を知る。人生知らない事が多過ぎる。近所のおば様にはあんたは特に物事を知らなさ過ぎだと、もっと周りに興味を持てと言われたが気にしない。これから知ればいいのだから。


 ロゼッタを村に迎えて五年、彼女は驚くべきスピードで成長している、事もなく身体の大きさなどは普通の人と同じ成長速度であった。歩けるようになるまで村の人たちに温かく見守られ、すくすくと育っていった。


「二度目の赤子からの人生、小さい時の記憶はないけれど、私の出来る事が増える度にお祭り騒ぎ、我ながら複雑な気持ちです」


 そんな事を呟いていたけれど、子どもを持つ親ってそういうものなのよと誰かが言っていた。私も彼女も子を持つ親ではないからよく分からない。


 そんなある日


「そういえばロゼッタちゃん、もう五歳よねぇ、学校はどうしようか」

「アヴリルの時は隣の村に学び舎があったけれど、今はもう若い子いないってんでほとんどなくなってしまったよな」


 もともと賢いのだから、行かなくてもいいんじゃないのかと私が疑問を投げかける。


「いやいや、十八歳になるまでに最低限の教養を身に着けるための義務教育制度がこの国にはあるんだ。学習を修了しましたっていう証明を発行してもらわないと国を出られないんだぞ」

「へぇ、そうだったんだ、知らなかった」

「大人になるための第一歩、一人前の証だな」

「…学校嫌い、だけど仕方ないか」


 ロゼッタは嫌そうな顔をしてぶつぶつ言っている。

 学べるのなら年齢はいつからでも良いとの事なので、早速入学に向けて動き始める。時々村に来る商人に近くで義務教育修了証明を発行してもらえる学校はないかと聞いてみたが、一番近いのはこの国の中心、全てが集まる場所ともされる首都、そこしかないと言われてしまった。


「首都、都会、人が集まる場所…楽しみ」

「アヴリルよ、付いて行く気満々だけどあんたお金はあるのかい」

「え」


 学校に通う学生の生活費は基本的に全て国が出してくれるそうだ。保護者の面倒までは見てくれないため、大抵の家庭では子どもだけを都会に送るとの事。


「住み込みとかで働ける場所とかないかなぁ」

「やめとけやめとけ、田舎者に都会は厳しいと聞くぞ」


 やめろと言われると行きたくなるのが人の性。私は絶対にロゼッタと一緒に首都に行ってやると決心する。話を聞いていた商人が知人が首都にいるから聞いてあげるよと言ってくれたのでお言葉に甘える事にした。


「この国は遠くの者とどうやり取りするのですか」


 東国では魔法による情報伝達方法があるのだそう。鏡があれば遠くにいる人の姿がそこに映し出されて話しが出来るとか。


「一般的には手紙が主流だけど、西国の機械都市で作られた通信装置っていうのを使っているそうだよ」


 どういう技術なのかは知らないけど、遠くの人とお喋り出来る機械なんだそうだ。


 商人が彼の知人とのやり取りを終えて戻ってくる。彼曰く、最近出来た酒場が従業員を募集しているそうだ。店主は変わった人で国の出身を問わず雇っているとか。


「そこにする!!」

「単純だなぁ」

「絶対に雇用してくれるわけではないのでしょう」

「えぇ」


 ロゼッタすら少々無謀ではないかと言ってるが、ダメな時はその時考えれば良いと思う。


 私はアヴリル、今年で二十九歳。拾った謎の少女ロゼッタ五歳(実年齢三十二歳と五年)と共に今いるこの辺境の村から国の中央都市たる首都へ向かう事となった。

読んでいただきありがとうございます!

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