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心当たりが有り過ぎて

 傭兵の都メルガストに到着したのは陽が傾く少し前だった。ここまで運んでくれた御者に王都方面の乗合馬車の出発点を聞いて来てみたんだけど、もうすぐ日暮れというこの時間に馬車の待機場にいる馬車は一台も見当たらなかった。


『無いわね。どの程度走るか知らないけれど、常識的に考えればわざわざ夜を前に出ないんじゃないのかしら』

「薄々感づいてたことを言葉にしないで」


 カクっと項垂れて踵を返す。振り向けば髭にマッチョがやたら多い街。筋肉質でガッシリしているまではいい。個人の好みもあるし私だってヒョロヒョロの人よりは、逞しい人の方が頼れそうだし好印象だ。


「だがしかし、上半身さらけ出す半裸ファッション、お前は駄目だ」

『結婚したら衣料費が安く済んで経済的なんじゃないかしら』

「マッチョは結婚すると体系維持の食費が嵩むんだって肉屋のオバちゃんが言ってたもん」

『沢山働かせればいいのよ』


 セルティとマッチョ談義を交わしつつ、街行く半裸を視界から躱しつつ宿を探した。どこの店からも聞こえる話声、笑い声がデカい。酒場の前なんか最悪だった。「おいお前あの子に声かけてこいよ」「ガキじゃねぇか」「胸の無ぇ女は女じゃねぇ」等、通りすがりの私へムカつく発言を耳が拾うのも一度や二度ではない。勿論、蔑視の視線に今夜の夢見で地獄を見る呪い(オマケ)を乗せて「こちらこそ願いさげだ」と睨み返しておいたけど、ムカつく事には変わりない。


「ぐへへ、ようよう嬢ちゃんよう、どこ行くんだぁい俺らぁとよう、ちょこっと遊ばないかい」

「なぁにホンの五分も時間かかんねぇんだがよ、へっへっへ」

「バァロゥ俺は十五分位は、かかるってへえっへっへ」


 ちょこっと遊ばないかいと声をかけてきた男の腕をつかみ、男たちが話す通り5分、15分と振り回し、掴んだ男で男どもを殴りつけてやると、お兄さんたちと呼んで差支え無い程度には大人しくなった。

 お兄さんたちに快く宿の場所を聞くと静かでご飯の美味しいところを何軒か教えてくれた。とても良い人たちで、何と「一泊分の宿代と食事代を支払う」と申し出てくれ、お金まで置いて行ったのに何度も頭を下げて去ってくれた。臭い息や醜悪な見た目だったけれど、止めどなく流れる血液で装飾している不思議な人たちだったけど見た目で判断しちゃ駄目だね。


 宿の人に聞くと王都方面行きは食の都ハウスブルク行きらしい。宿のご主人は強面だったけど、敬語で懇切丁寧に教えて下さったのに感謝。半裸が多い位あたたかいのに震えてたので体調は心配かな。


『リーフやっぱりしばらく滞在しない?素敵よ、この街。色んな欲望に邪念が渦を巻いてて、心地いいもの』

「あはははははははは…あははははははは」

『あら、やっとリーフにも良さが伝わったのかしら』

「滞在するわけないでしょうが!!」

『だってほら、この街に来るまでにこんなに成長したのよ?』


リーフ=セルティネイキア

生命力(HP) 25 魔力(MP)25 体力 25

攻撃力(AT) 25 防御力 25 速度 25  

スキル:聴力強化 両手剣Lv3 拳術Lv7(2LvUP) 筋力強化(小)

    呪詛身体強化Lv4 

魔 法:アイテムボックス 治癒Lv3 呪術Lv5(LvUP) 怨念Lv4

特 殊:大罪の化身


『スキルレベルは5を超えれば使えるレベルと思ってもいいわ、拳術に至っては既にそこそこの使い手よ』

「数値で見ても分からないんだけど、私どのくらい戦えるの?」

『そうね。全力全開ならオークと素手で戦える程度かしら』

「それって強いの?」

『さぁ?私、豚に興味ないもの』


 とりあえず故郷を出てから大分強くなったと思う。拳術や両手剣などはセルティが分かりやすくしてくれたステータスとかいうのが上がると、どこにどう動けばいいか自然に分かるし、相手の隙も見えてくる。呪術や治癒などの魔法も、どの程度の距離ならかけられるか、怨念も籠めるとどうなるかが感覚的に分かる。今呪いなら最大二十歩先まで、怨念は手に触れた物なら何であれ籠めることが出来る。特に怨念は私の意志に呼応して物を強化したり、他人が触ると離れていても呪いが伝染したりと呪術と併用も出来て便利だった。


「オークって見た事ないけど、豚の魔物かぁ……あの一つ目狼とかよりは強いのと同じくらいなら私強くなってるんだぁ」

『そうね。頑張ったもの。原虫から真菌くらいに格上げしてあげられるわ』


 何なのか分からないけど、強くなったなら良いや。今日は疲れたし早く寝てしまおう。夕食も早めに済ませ、日暮れが来る前には眠ってしまった。



◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



「ほぅテメェらは、その女一人にやられたってことか?ドット」

「へ……へぇボス。面目ねぇ話ですが悪魔のような女でして部下たちもあのザマです」


 メルガストの街に入る前、リーフの乗った馬車を襲ったドットは病院に居た。部下たちは今なおベッドでうなされている。ドットは肉体的なケガだけだったため治療術士の治療で意識を取り戻した。誰にやられたかなどをボスと呼んだ男に伝える。黒髪、蒼眼、小柄など外見的な特徴だ。


 赤髪の男がドットを問い詰める。


「テメェが馬車を襲ってるんじゃねぇかって話も聞く、そんなことしてりゃ本来なら俺が教育してやるところなんだが、もし仮に教育が必要だとしても、テメェを教育したのが俺じゃねぇとすりゃ傭兵団の名折れだ」

「も、申し訳ねぇ。もうしやせん。本当です、ボス。これでしっかり懲りましたんで」

「ハッ、いい薬だったな。金が欲しけりゃ戦って稼げ。だが、戦うにしても女に負けたとあっちゃ箔が落ちる。テメェは、しばらく遠方に出て貰うとして、俺はソイツに会ってくる」


 赤髪の男の後ろに顔や肩などに青痣を作った二人の男が控えていた。


「ボス、ドットの旦那が話してる奴ぁ俺たちが案内した(スケ)に特徴がソックリですぜ」

「ぐぅ、あのアマに違ぇねぇ。宿は東の端にありやす」

「応、行ってくる。素手でテメェを振り回す女か……ハッ楽しみだ」


 赤髪の男はツンツンと跳ねる髪を両手で後ろに流すと気合を入れて病室を出て行った。

 残されたドット達も安どの表情を浮かべている。


「ボスが行ったなら俺たちの仇は討ってくれんだろ」

「あの(スケ)、ボスがシバキ倒した後ぁ俺たちも仕返ししねぇとな」

「仕返しなぁ……ボスってよ、強ぇ女好きだよな……」

「あぁ剣士でも騎士でも強ぇアマと聞きゃ喧嘩ふっかけに行くな」

「ま、今までボスの眼鏡に叶った(スケ)いねぇがな」

「……だがよ、あの悪魔……馬ごと蹴り倒す化け物なんだよなぁ……」

「「あぁ……」」



◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 ドォォォン!!という大きな音で跳び起きた。一階から何か大きなものが壊れたような音が響き建物が揺れたのだ。その直後。


「黒髪、蒼眼の女ぁ!出て来い!!ここに居るんだろ!?」


 凛と響く声が響き渡る。


『あら、リーフにお客様ね』

「心当たりがない……」

『そう?傭兵の都で傭兵らしき男倒して回ったじゃない。きっとその挨拶よ』


 あぁそうか、そういった挨拶か……呪って回ったところから思い返すと心当たりだらけだ。そう気がつくと寝起きの瞳を擦り背伸びをする。おもむろに窓を開け身を乗り出して夜の街を優雅に眺める。


「ふふ、最低の街なのに良い風ね」

『そう?私は良い街だと思うわ』

「居るのは分かってる!三秒で出てこい!!」


 階下から怒鳴り声が響く。幸い一階の入り口と、二階にある私の部屋の窓は反対向きだ。窓枠に手をかけ、外に身を乗り出す。枠を蹴って屋根を掴みよじ登る。


「市街地って、どの建物も同じような高さだから美観が保たれるって知ってる?」

『高低差があると見栄えが悪くて頭が悪く見えるものね』

「最低だけど、最低限の美意識だけはある街で良かった」


 にっこりとした表情のまま屋根を駆け抜ける黒髪の少女が月明りに照らされていた。屋根から屋根を軽やかに飛び移り夜の街へ屋根を伝って駆けだそうとすると後方でガシャーンと音が聞こえた。私のいた部屋の窓が枠ごと吹き飛んでいるのが見える。壁が剥がれ壊れた元窓枠付近に立つ赤い髪の男が小さく見えた。遠くだが男と目が合う。


「女ぁ!!逃げてんじゃ無ぇぞ!!」


 月明りに照らされ一足で反対側の建物まで飛ぶ男の影を目視することが出来た。

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