無かったことにして進む
さて、今日も元気に馬車に揺られています。私の故郷を、私の仲間を、根こそぎ破壊し尽くした災厄の悪夢、あいつは王都がどうのと言っていた。だから王都を目指しているのだけれど、王都までには、いくつもの馬車を乗り継がなければならないということだけは分かりました。
『リーフ、次の街にしばらく滞在しない?』
「ふふ、次の街だけは降りた直後に乗り継するから」
『勿体ないじゃない。どう考えても強くなれる街よ?』
「王都に行って強い仲間探すからいいの」
強さなんて身を守れるだけで十分。考えてもみたら、あんな凶悪な敵がいると知ったら討伐に向けた組織だって出来るはずだし、懸賞金なんかが付いているとしたらハンター家業の方々に同行させて貰えばいいの。
『なら尚更次の街よ。傭兵の都なんて呼ばれている所なら、きっといい仲間が見つかるわ』
今向かっているのは傭兵の都メルガスト。
金を積まれたら昨日の味方が今日の敵になる傭兵。戦いを生業にしており戦争があるときけば東奔西走する戦争屋さん。戦争がない時は地下迷宮など魔力が狂わせた土地で発生するダンジョンとかいう危険極まりないの場所で採掘や湧き出る魔物の討伐にでて生活をする戦いが日常の人種、それが傭兵。そんな傭兵たちが自身の価値を高めるべく徒党を組んだことで村となり、街となり、更に傭兵を中心に商人を始めとした金の動きを見越した人が集まり都と呼ばれる規模にまで成長したのがメルガスト。
「クスッそんな街に住んでる人、絶対に嫌」
乗合馬車の為、狭い程じゃないにしろ人は乗っているが、私の周りの席は空けられている。他人から見れば独り言を人と話す勢いで話している精神を病んだように見えるという自覚はあるが、心で強く思う念話は疲れるし、きっともう会わない人たちに気を遣って疲れるくらいなら私は自然体でいることにした。見て見ぬふりが出来る優しさをもつ同乗者たちがガサゴソと荷物をまとめだしたところを見ると、もうじき到着するのだろう。
「そこの乗合馬車。そこで止まれ!!」
前方から馬に乗って走ってくる男たちが居た。厳つい顔で上半身裸のマッチョは、手に大槍を持ち馬車の前に立ちはだかる。
馬車の御者が馬を止める。男が馬から降り近くによってきて何やら話していた。「なになに強盗でしょうか…」「この荷物をわたすわけには」と周りの乗客たちにも焦りの色が見える。男は御者を突き飛ばすとこちらに来た。
「怖がるな怖がるな、なぁに俺たちぁ盗賊なんかじゃねぇ。ただのしがない傭兵さ」
男がしゃべりだす間、後ろにいたちょび髭とハゲはニヤニヤして乗客を眺めていた。
「ただ、お前らは聞くに傭兵の都を通ると言うじゃねぇか、なぁ聞いたよなお前ら」
「ヘイ確かに、あの御者はそう言ってやした」「そう聞きましたぜ」
「お前らは知らないようだが、先週から都を目指すには一人ひとり通過料を貰うことになったんだよ。なぁに一人金貨2枚たいした金額じゃない」
馬にのったまま馬車の周りを回りながら語りだすマッチョ
「金貨が無ければ、相応の品で――――ヘブッ」
くたばれ。正面に来たマッチョに馬車の席から飛び出し膝蹴りで顎を打ち抜くと、体勢を崩した男の首に腕をかけ、そのまま地面までお供頂いた。
「ガフッ…て…てめぇ何しグエっ」
まだ喋れるようなので喉仏を踏み抜いておく、踏み抜かれた首に手をやってもだえる男の隙だらけとなった鳩尾も踏み抜いておく、用心に越したことは無いので胸と喉を抑え隙だらけの股間をボールを遠くに飛ばす勢いで蹴り抜いておいた。
「よし!」
泡も拭いてるし、これで大丈夫だよね。きっと。
「な……てめぇドット様になにしやウォ」
馬の上から話すもんだから、馬の両前足を足払いしてやった。僕関係ありませんよみたいな綺麗な瞳で見つめて来た馬にも腹が立ったので手の届かないところから話すチョビ髭男の代わりに蹴ってしまった。反省はしている。馬は跳び起きるとチョビ髭を置き去りに逃げて行った。落ちて座りこむ様な姿勢となったチョビ髭には髭に向けて前蹴り。鼻が平らになって仰向けになったので、マッチョと同じように股間を蹴りぬいておいた。
「よし!」
『拳術だけで一般人を超られるようになったわね』
殺す気はなかったんだから、きっと死んでない。ちょび髭、泡すら噴かずに痙攣しているけれど、大丈夫だよね。きっと。
「お……おい、やめろ来るな、そ、そら動け、引き返せ」
ハゲは馬に鞭打っていたが馬は震えて後ずさるのみで動かない。そりゃそうだよね。動物は眼をみて気持ちを込めれば伝わるって言うし、眼で動いたら呪うって気持ちと呪いの魔力みせておけば動かずにいてくれる。私と心で通じ合ってるお馬さんにハゲの言葉が届くはずないんだから。
ハゲに対して呪いを放つ。ハゲは顔を真っ青にして落馬した。妄想野郎には効かなかったけど、ちゃんと効果あるようで安心した。ハゲも二人と同じようにしてやった。呪いのせいか、気絶してからの吹き出す泡が黒ずんでて苦しそうだけど、大丈夫だよね。きっと。
「よし!さぁ行きましょう」
「あ…あのありがとうございました」
「早く行きましょう。乗り継ぎに間に合わないと大変ですもん」
こんなこと無かったことにして通過してしまうに限る。御者のオジサンには笑顔の圧力で早く出発頂けるよう頼んだ。お礼がどうとか、そんなことどうでもいい。早く出発して早く乗り継いで、早く出て行きたいのがメルガスト。こんな輩が野盗でないと自称する。それが傭兵の都メルガスト。