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三者三様

 レイドの放つ敵意が全身を刺すような緊張で包む。緊張感だけでなくエレオノーラが放った溶岩は周りの建物を巻き込み物理的に熱量で全身を包み、気配を隠すように動き回るカイトが一瞬でも気を抜けば心臓を突き刺そうとしているのも分かる。聖女ローザが目を瞑り祈るようにして周囲を浄化していくので、ウルザと戦った時の様に弱体化する呪いを周囲に撒いても撒いた端から消え失せていく。


「呪怨の女帝、貴様が奪った平和を、人々の幸せを……死をもって償え」


 レイドの怒気がビリビリと、本当に肌に痛みを感じるほど強く当てられる。東の方では大型の魔物達が暴れているのか土煙が上がっている。それでも、まだ王都内が荒れていないのはウルザが頑張って食い止めているからだと思う。西の方は稲光や雲もないのに舞う雪をを見るにクレスが食い止めているんだと思う。どっちも王都を守るために精一杯戦ってるんだから助けに来るなんで出来るわけがないし、そもそも私がコイツらと戦っていることだって知らないんだと思う。


「呪いも王城を壊したのも、その人々の幸せのためだったんだって言っても、聞く耳持たないじゃない」


 血で重さを増し垂れた髪を大剣を持ちながら小指にかけ耳に掛け直す。足元の瓦礫を蹴飛ばすようにして足場を作り大剣を持ち直し呼吸を整える。吹き飛んで建物のなかを転がったのか石造りの酒場のような建物の中はエレオノーラのせいで火のついた備品と瓦礫、土煙で溢れかえっていた。


「シルク、ノワール、ちょっと無傷じゃ済まなそうだけど期待してるから。始祖、元祖、気合入れてね」


 ハッと短い呼気と共に大剣を背中向け振るとガキンと金属音が響いた。淡く蒼い揺らめきが視界にかぶさると自分の髪がふわりと舞う様子がゆっくりと見える。


「良く気付いたな、気づかなけりゃあんな化け物と()らずに死ねただろ」

「死なないわ、あんた達の言い掛かりで死んであげるわけないじゃない」


 背後から向かってくる明確な敵意が痛みを和らげたことでカイトが近くに来ているのは気づいていた。体を捻り切り止めた大剣に重ねるようにもう一本を重ねようとすると身を翻してカイトは土煙の中に消えた。


「屋敷では剣聖って聞いてたのに、暗殺者と変わらないじゃない」

「ははっ抜かしてろ、あいつがいれば俺の仕事なんてコレで十分なんだよ」


 カイトの言葉を聞き終わるかどうかといった時に光の塊が向かってきているのが目の端に映った。始祖も元祖も手放し内界の黒い沼に沈め身軽になって飛び込むように地面を転がる。


「逃げるなリィィィフ!さっきまでの威勢はどうした!!」

「呼び捨てにしたり、呪怨の女帝って呼んだり、何?情緒不安定なの?」


 地面に転がり、振り向きざま内界の黒沼から破滅の園(ガーデンオブルイン)第三の試練から貰って来た突撃槍(ランス)を抜き取ると地面にヘッドバットをするように全身をつかいぶん投げる。金属音が響くとほぼ同時にドシンと近くの壁が吹き飛んだ音と土煙が広がる、地面に近づいたついでに大剣を再び抜き放ち切り上げると、既に目前に迫っていたレイドの輝く剣と衝突し衝撃波が近くの土煙を吹き飛ばし視界をクリアにした。


「四対一で私みたいなか弱い女子いじめて楽しい!?」

「戯言を!何万といる住人を攻めたんだ、全員で囲んだって文句なんて言えないだろ」


 首まで剣を押そうとする力押しに耐えながらレイドの頭上に内界の黒い沼を現し鎧の破片や壊れた武器などいつか売ろうと集めた鉄器をあらんかぎりブチ撒ける。剣を引き下がろうとしたレイドに振りかぶり大剣を投げつけると足元が定まらなかったのか超重量の大剣に吹き飛ばされ壁をぶち抜き土煙の向こう側へ吹き飛んで行った。


『油断しちゃダメよリーフ、左!』


 ハッとすると同時、大剣を左側の地面に刺し、肩で押すように剣の陰に隠れると周囲を炎が染め上げた。ジュウっと音をたて熱された大剣が肩をやく。炎が晴れると熱された大剣、元祖を黒い沼へ落とし始祖を両手で握り構え炎の噴出し他方に構える。


「遅かったじゃないセルティ」

『えぇ、でも大丈夫だったじゃない。間に合って良かったわ』

「全ッッッ然!大丈夫じゃない!セルティがよく寝てる間に死にかけてるんだってば」

『あら、ただ眠っていたんじゃないわ』


 レイドの一撃は強く重く鋭い、エレオノーラの魔法は一時の休息も許してくれないし、全方位に気を気張っていないと襲ってくるか分からないカイトは精神をガンガン削って行った。得意の呪いは出した端からローザに浄化される八方塞がりぶり。状況は一切良くならないけど、それでもセルティの声が追い込まれた心に少しだけゆとりを作ってくれた。


「それで、セルティ。さっそくで悪いんだけど、憑依したら何とかなったりしない?」

『あはは、無理よ無理無理。まともに戦って勝てるワケないのよ彼。言ったじゃない天敵だって』

「じゃあ、どうすればいいのよ!」

『慌てちゃダメよリーフ、そんなんじゃ王子様は捕まえられないわ。それに、言ったじゃない、ただ眠っていたわけじゃないって』


 再び体が重くなったかのような敵意が体を包む、血が流れるだけじゃ冷えない体を緊張感が指先から冷やしていく。血と共に流れる冷や汗が頬を伝い剣を握る腕に落ちる。


『久しぶりねリーフ、私の言ったとおりに動けるかしら?』



◇ ◆ ◇ ◆ sideウルザ=ストーム ◆ ◇ ◆ ◇



「アハハハハハハ、弱い、弱いわぁ。有象無象は蹴散らせても妾の鞭の前では無力、身の程を思い知りなさい、人間」


紫色の肌で豊満な肉体を見せつけるように妖艶な黒い衣装、黒光りするすらレオタードのような装い、その深い谷間の見える胸元で手元に戻した鞭を握り直すと濃紫の唇を手の平で覆いながら高笑いを上げる女。ゆるくウェーブした濃紫の髪をかき上げるとワインの様に暗い瞳に笑みをたたえ膝を付くウルザを見下す。


「ウルザ、なにを、なにをしておるんじゃ、あんなオンナいつものようにズビビビーとノしてやらぬか!」

「チッ……」


 フレアが城壁に群がる魔物達に炎を噴きかけ近づいた魔物を尾で打つ。周囲はウルザが倒した魔物の残骸とフレアが焼き尽くした焦げ跡で覆われている。それでも次から次へと魔物が現れる。

 ウルザも立ち上がると再び目にも止まらない速さで周囲を駆けドンっドンっと爆発音をさせる度に巨大な魔物の死骸を増やしていく。


「ほれほれ、どうした!妾が恐ろしくで雑魚の相手しか出来ぬか!アハハハハハハ腑抜けめ、早ぅ諦めて妾の鞭に血を吸わせてたもれ」


ウルザが親指を前に出せば女の姿を覆い隠せるほどの距離、そこから振るわれた鞭は見た目の長さを遥かに超えてフレアを狙う。フレアに鞭が触れる前に鞭が爆発に弾かれるが、爆発を起こして弾いたウルザの背中に鞭の先が打ちつけ血しぶきが上がる。


「またではないかウルザ!わらわのことなどよい!ヌシであれば、まけようハズがなかろうに、はようキャツをうて!」

「ハッ、馬鹿は休み休み言えっつーの。倒せんならとうに倒してらぁ、俺にも倒せ無ぇ事情ってもんがあんだよ」

「な、なぜじゃ!ヤリにねむるエンリュウのタマシイもヌシになじんでおる、ヒャクマのオウとなったヌシがかてぬようになどみえぬ!わらわはしんじぬぞ」


 ペシンぺシンと地面を撃ちつけながら紫の女が歩き出す。女の行く道を掃除でもしようかというように勢いを増して大蛇のような魔物や目も耳もない牙だけ口を広げた巨大なミミズが地面から這い出しウルザ達に襲い掛かる。


「アハハハハ、絶望しなさい。絶望の塔(タワーオブディスピア)を統べる妾、絶望のバイオレットの力に跪き後悔と共に死ぬがいいわ」


 横薙ぎに繰り出された鞭は味方のはずの魔物達を弾き飛ばし波打つようにウルザ達に襲い掛かる。


「クソッ、爆炎槍(ばくえんそう)!チッ」

「ウルザ!このロシュツキョウのチジョめが!チリとなれ」


 フレアが体を逸らせ大きく息を吸いこむと赤い髪が発光し足元の草がチリチリと焦げる。拳を握ったまま体を丸めるように顔を突き出し口を開けるとゴウゴウと暴風が荒れるような音を上げながら(まばゆ)いばかりの炎が一直線にバイオレットと名乗った女に向けて吹き荒れた。


「ひゃうっ」

「フレア!」


 炎が止むと同時、炎の中を進んで来た鞭に打たれフレアが地面を転がった、バイオレットは防御もすることなく涼しい顔で歩きつづけるが、フレアは二度三度と地面を打ちながら横たわり口の端から血を流してながら起き上がろうとしても力が入らないのか顔を上げバイオレットを睨むことしか出来ていない。バイオレットが再び鞭を構えたので反射的に鞭を叩きつけようとうするバイオレットに向かいウルザが駆けだした。


「クソがっガキいじめて悦に浸ってんじゃねぇぞ!」

「妾の配下を殺したのだもの、死ぬ覚悟が出来ていて当然では無くて?」


 バイオレットが走り来るウルザを回り込むように鞭を繰り出すとウルザも瞬時に地面を爆発させ鞭に槍を叩きつける。二度、三度、右に左に鞭を繰り出す度、大きく左右に動きながらも着実にバイオレットに近づいていく。


「このっこのっ、小癪な!妾の鞭に打たれて早う死に晒せ!」

「ハッ焦りが手元に出て来てんぜ!」


 ドンドンドンと爆発の数が増えウルザが距離を詰めるとバイオレットが雨の様にて数を増やすが一向に鞭はフレアに届かない、そしていよいよウルザの射程にバイオレットを捉えると足元の爆発から火が上がり槍の方へ周囲の炎が集まりだす。


「この、このぉぉぉ!」

「絶槍――蜂……」


 槍の穂先がバイオレットの顎に届く直前、ウルザの槍が止まる。流れる冷や汗が見える距離で一瞬が止まったかのような静寂が訪れると、キッと睨むように表情を変えたバイオレットが力押しでウルザを蹴飛ばした。ウルザも受けるがままに地面を転がると球のように弾みながらフレアの近く場で地面を滑っていった。ウルザの奥義ともいえる絶槍だが不発に終わり行き場を失くした炎がバイオレットを包むが、炎に構う様子もなくバイオレット憤怒の形相で髪を逆立てている。


「な、う、ウルザ!おヌシなぜ、なぜトドメをささなかった!!」


 地面に転がるフレアの前で、顔も体も血だらけにしながらウルザが立ち上がる。再度槍を構え血の混じった唾を地面に吐き捨てると眉を寄せ難しい顔をしながらフレアを振り返った。


「しゃーねぇーだろ。女は殴ら無ぇ、リーフに誓った男の約束だ」


 目を見開いて絶句するフレアを他所に、バイオレットを包む炎がオレンジから紫に色を変えて行った。



◆ ◇ ◆ ◇ sideクレス=ウィズム ◆ ◇ ◆ ◇



 目もくらむような光を放ち落雷が降り注いだかと思えば、人の頭ほどもある氷塊が横殴りの嵐のように飛び交う。

 髪を銀色に染め、赤い瞳を輝かし、嗜虐的な表情で魔物の群れを睨みながらクレスが手を振るう度に地面を抉り、木々を薙ぎ倒し氷の雨や落雷が魔物の群れに降り注ぐが、魔物の群れは数を減らすことは無かった。


「グハハハハ、無駄だ無駄だ!魔導士風情が光も吸い込む深淵の大洞(ケイブオブアビス)の主である我輩に挑もうなど片腹痛いわ」


魔物の群れ、その先頭に仁王立ちする筋肉を見せつけるような出で立ちの大きな猿が、銀色の体毛と膨れ上がる筋肉を揺らし、白目も黒目もなく紅く染まる瞳を細め高笑いをあげている。の周囲に空間を塗りつぶしたような黒い円が展開されると魔物に向けた魔法のことごとくが黒い空間から向こうに到達しない。黒い円は魔法を消すのではなく、吸い込むように魔法を消し去って行った。


「ク、ク、クレスさまぁ、あのあの銀パツのおさるさん、まほうが、まほうがききません!」

「あぁ、クフフ楽しい、楽しいねソフィ」

「ク、クレスさま!?」


 クレスが杖を掲げ頭上に空気が渦を巻いているのが目で見える程の暴風を集め周囲の木々すら吸い込まんとする風の塊を撃ちだすと相応に大きな黒い円を空中に出すとともに足元を爆発させ銀の猿が突っ込んで来た。


「グハハハハ、あの世で誇るが良い!我輩の軍勢を一時とは言え止めたのだ!存分に自慢するが良い!」


 クレスが杖を振る度に射出される電気の塊を最小限の大きさの黒い円で消し去り肉薄するとクレスの胴回りより太い腕を振り回し殴りかかってくる。杖で拳を打ち受け流すにも圧倒的な膂力差を見越し自らの体を外側へ滑り込ませることで回避を続けるが二度、三度と目にも止まらぬ拳撃が続くとローブを掠め、髪先を掠め、ついには肩口を掠め傷口から血が流れ出す。


「ふふ、くふふ」

「グハハハ避けて生きながらえても恐怖が続くだけよ!」


 鞄を掠めそうな打撃を見て杖を構え拳を正面から受け止めると、普段クレスが撃ちだす氷の塊のような勢いで吹き飛ばされる。地面に足と杖をつきズザザザザと地面を抉り勢いを消したことで周囲には土煙が舞い上がる。

 クレスの魔法を恐れ前に出ようとしない魔物の群れが遠巻きに成り行きを見守っているがクレスが劣勢となると俄かに活気づき魔物立ちが雄叫びをあげる。


「クフフ、クハハハハハ!楽しい!楽しいな!」

「クレスさま、血、血が……」


 口元から流れる血を手の甲で拭い、自分が血を流しているのを確認するとクレスは更に笑みを深めた。


「ソフィ、僕の理性のある内に王都の、いやガングリオンに先に行っていてくれないかい?」

「は、はい!」


 体中から溢れる魔力の奔流でふわふわと舞う銀髪のなか赤い瞳でいつものように柔らかな笑みを浮かべソフィに語り掛けると、その違和感から冷や汗を流しながらソフィは一目散に南の方へ向かい飛んで行った。

 ソフィが飛んでいくのを見送ると再び杖を掲げ先ほどより更に大きく人の体程の氷の塊と地竜の巣を砕いた時のような電気の塊を休みなく銀猿に撃ち続ける。


「グハハハハハ、無駄だと言うておろう!深淵の大祠(ケイブオブアビス)で魔法は通じぬ、ましてその主たる我輩に魔法など、笑いをとるのが上手いな魔導士」


 黒い円が魔法を次々と吸い込んでいく、どれだけ撃ってもどこから撃っても、どこへ撃っても魔法の軌道のその先で魔法を吸い込んでいく。


「くふ、クフフフどれだけ魔法を撃ってもいいだなんて……駄目だ、楽し過ぎる」


 クレスがぼそぼそと呟きながら杖を振ると上空から王城を焼いた炎が吹き荒れるが大きな黒円が炎を呑み込む。光で視界がくらむような、滝のような落雷も黒円が呑み込む。雨あられと叩きつける氷の塊も、周囲一帯の地形を変化させるような暴風も、どれもこれも黒円が呑み込み消し去って行った。


「あぁ、これなら……もっと堕ちても大丈夫そうだ」



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