王城崩壊
クレスは聖域展開をセルティに向けた後、去り際に気になる発言があったことを思い出した。
『いずれリーフは天敵と邂逅するわ。リーフのことだから、きっとそう遠くない未来にね』
天敵とは何かと話すと今代の勇者のことを言っているようだった。いずれ来る時に備え念のために力を蓄えておきたい。そんな話をした後、僕らがリーフと一緒にいる時セルティは眠っているようなことをリーフも言っていた。
当時世を暗黒に陥れ、魔物の楽園を築くと宣わった魔王を当時、勇者と一緒に討伐した。地を割り海を裂き天を穿つような戦いは、時が経つほどに激しくなった。魔王もさることながら、勇者は最後まで魔王に引けを取らず遂には魔王を打ち取った。
王都には今代の勇者たちがいるのは知っている。勇者たちと衝突することも視野にいれていることもセルティと話した。ただ、セルティは一度も勇者とは呼ばなかった。
『世を救うべく使命を帯びた神の使徒。貴方達の言葉では、こういうのではない?』
「――救世主」
文字通り空を駆け、光る剣が流星のように尾を引きリーフに向かって突撃してくる。杖先を向け荷電粒子弾を繋がっているかのような連射で打ち出していくが、救世主は一瞥をすると目にも止まらない速さで魔法弾を弾き速さを殺すことなくリーフへ向かう。リーフの傍に発生させた氷柱を高速で打ち出しても効果がない。
セルティが話す救世主の能力はいつの時代も同じでシンプルだった。
『戦うべき悪に対し、悪よりも強い戦闘力。正義が必ず勝つように神が送り込んだ人類の希望よ』
水面下で力を蓄え、戦術を駆使し、大局を見て戦略を活かし時と共に強大になる魔王とは違う。その魔王よりも強い力、高い魔力、多種多様な耐性と生命力で圧倒的な暴力を以って魔王を駆逐する。それが救世主の力。
王都を混乱に陥れ、城壁を吹き飛ばし、王城の上空か王都を包むほどの呪いの力を放出。敵の力をどこまで含めるか不明だが、僕の出した落雷や氷原もリーフの力と見做していたら救世主の力はどれほどのものになるのか。
「退けっリーフ!!」
浴びる程打ち出されている荷電粒子弾を苦も無く弾く様子から無意識に心配が声になった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
王都中を呪いにかけたせいで身体の中の力が全て抜け落ちたような感覚が襲うなか南門が光った。信じられないことに流れ星が地上から天に昇る様に凄まじい勢いで私の方に向かってくる。力を使い果たして体が縮まなかっただけでも奇跡的だというのに。
でも、迎え撃つしかない。ここまで来て私に勝てるかもなんて希望を持ったせいで逃げて行く王都の人たちが足を止めたら東西から迫る魔物の群れに食い散らかされることになる。
「いいわ、いいじゃない、やってやろうじゃない。誰も希望を持たないように!」
両の手に力を込めるが、私に向けられ流れていた恐怖が薄らいでいくのが分かる。輝く星が私に向かって飛ぶ様を王都中が希望をもって見てる。
何も見ず
何も知らず
何も分からず
何も考えもせず
何も把握しきれず
何もかも持つように
何もかも感情に流され
何もかも上手くいくよう
「自分が希望そのものだって顔して、邪魔なんてさせない!」
ノワールの力で高まる呪力で全身を満たし二本の大剣を背負うように構える。クレスがお城の屋根を吹き飛ばした魔法を雨のように撃ちつけても構わずに突っ込んでくる。
光る剣を持ち空を翔るのがレイドだと分かると、ぶわりと汗が滲み出た。駄目、さっきまでの全能感のあるような時なら止められても、今の私の力じゃ吹き飛ばされて終わりなら御の字。こんなの止められるワケ――
「絶槍――蜂窩」
極限の集中で周囲が静かになるなか、城の方から声が聞こえると同時、城壁が爆発し炎を巻き上げながら崩れていく。連なる爆発音に遅れて着いて来た土煙を吹き飛ばし、ひと際おおきな爆発が上がると紅い炎の塊が流れ星のように迫りくるレイドに向け打ち上がり下から突き上げるようにしてレイドを止めた。
レイドが光る剣を両手で握り振り下ろすと衝突の勢いで炎が晴れ槍を突き出したウルザの姿が明らかになる。槍を止められたにも関わらずウルザの口角が上がるのが見えた。ウルザの笑みが深まるにつれレイドの瞳は驚愕で大きく見開かれていく。
爆発のあった城の方から炎が一斉に空に舞い上がり城を包むような火柱が全て槍を受け止めたレイドに襲い掛かるとドガンと全身を揺さぶるほどの爆発が起こり目で追えない速度でレイドを吹き飛ばした。
「クハハハハハ、どうだオイ、フレアん嬢ちゃん追った成果ってヤツだ」
「うむ、りゅうの力にはおよばぬが、わらわの名をだしたことはよし」
ウルザが私の立つ氷盤に降り立つと地上からの矢を焼き尽くして戻ったフレアも機嫌良さそうに舞い降りた。
空の雷雲が稲光を激しくさせると吹き飛び地上に落ちていくレイドに目掛け人を呑み込むほど強烈な雷を落とした。ピシャン、ゴロゴロゴロと光が走ったことを忘れたころに地に響く雷鳴が鳴り響くと、ふわりと音も立てずにクレスも氷盤に飛び乗って来た。
「ウルザは東門の方を守ってるはずじゃなかったかな?」
「考えたんだけどよ。テメェはリーフの支援した後に西門に行くんだろ?なら俺だけ先にいくっつーのもオカシイだろ。またイイとこ取りしようってんじゃねぇだろうなクソ賢者」
「いや、誰が東西同時に到着するなんて言ったのかな」
クレスのぼやきと同時にドシンドシンと東門の方から重低音が響く。上空から見ていても大軍勢が来るにはまだ距離があるように見えるのに既に東門の方からは土煙が上がりだしている。
「東からは地中を泳ぐように来る奴らが先行するんだ。だから先に配備したのに」
「ま、逃げ出してるし結果オーライだろ。リーフ、そのペンダントちょっと貸せ」
落雷に打たれたレイドが地上に落ちていくのを眺め放心し言われるがままにペンダントを渡した。レイドはペンダントを握る手に魔力を籠める。クレスが何かを察したようにレイドの姿、銀髪に染まるクレスの姿を雲に投影させた。
「クハハハハ、逃げろ逃げろ!見たか?テメェらの希望の星はリーフ様の忠臣、四天王のウルザ様が吹き飛ばしてやったぞコラ!聞こえたか?東門からたぁくさんの魔物達がテメェらを喰い散らかしに乗り込んだぞ!ほれ、急いで逃げろ」
ちょっと待ってこの馬鹿、何それ四天王とかリーフ様とか、ただでさえ悪者なのに悪さに拍車がかかるじゃない!
ペンダントを取り戻そうと手を伸ばすと先にクレスがペンダントをウルザから奪った。西の方に雷が立て続けに落ち見張りように少し高くなっている城壁を吹き飛ばす。
「クフフ、見えたかな四天王が一人である僕の力。西からも肉を裂き臓腑を引き出し心臓から血を啜る魔物の軍勢が大挙する。東西の要塞都市は誰一人生き残っちゃいない。あとは君たち、王都の民だけなんだ。ほら、逃げないヤツから喰い尽くされるよ」
馬鹿馬鹿馬鹿、この馬鹿まで乗っかっちゃったら収集がつかないじゃない!慌ててペンダントをクレスから取り戻すと同時、雲に映っていた幻影が消え稲光が激しさを増していく。光と共に城壁の外で落雷がいくつも起きるようになってきた。
「さぁ、仕上げだ。嘘に塗れ陽に成代る虚ろな灯、虚飾、虚心、虚栄の光に威厳の炎を灯して見せろ。落陽の残滓を我が物とし、陽に成代れ――虚ろな落陽」
空を覆う雲の中に城を十分にの見込める程大きな炎の塊が出現し雲を周囲に押しのけた。炎の塊は周囲を真昼のように照らしながらゆっくりと降下してくる。氷の塊に乗る私達をゆっくりと北側に移動させると炎の塊は無人となった王城を飲み込み影も見えない程の光量で焼き尽くした。
体に流れて来る恐怖を呪力に変え不転の呪いと血外斥力の呪いに変換していく。恐怖を感じる人たちからくる力が強くなったことで王都中の人たちが南の方へ逃げていくのを感じた。