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王都襲撃 裏

 セルティに確認したことは二つ。


 一つは、子ども達を転ばないようにさせたようなものを呪いとして使うことができるのか。これまでのように体が重くなるとか眠ると悪夢を見るとか、曖昧なものじゃなくて、こうしたいってものを形で出来るか。


『出来るわ。簡単よ』


 セルティの答えはシンプルだった。転んで怪我をすることを防ぐのの何処が呪いなんだろうって思ったけどセルティが言うには


『恨む相手、憎む敵の不利益、呪う相手が不幸になるかどうか。内容なんて些事よ、あとは明確に呪うっていう意志と呪力、そうね魔力やリーフの生命力を呪いの力に変えるのよ』


 街行く人や子どもたちが逃げて行けば行くほどギルバートが見込んでいる王都の人たちを魔物に喰わせて力をつける計画を挫くことができる。街行く人やギルドで試しても転びそうになかったから子どもたちと遊ぶ中で試した。


――不転(ふてん)の呪い


 黒い霧纏わりつかれた王都全ての人間にかけられる初めの呪い。この呪いで阿鼻叫喚の中、周りが見えず走り出していても、足がもつれようと服の裾を踏みつけようと石を見落して足を取られようと予期せぬ段差に体制を崩されようと決して転ぶことは無い。


 でも、沢山の人たちが逃げ惑うのだから人の塊が出来る。押し合い()し合い命惜しさに我先に逃げて行く。それは生き物として当たり前のことだと思う。けど、小さな子に大人の男が振り回した腕が当たれば大ケガを負うし、走る集団に蹴っ飛ばされれば大人の男であっても無事では済まない。子を思う母は子の手を引いて幼子を抱いて走り出す。家族を想えば出来るだけ一緒に逃げるんだと思う。


――血外斥力(けつがいせきりょく)の呪い


 不転の呪いに次いで掛けられる呪い。この呪いは血を分けた者、血を分かち合い子を成した者同士以外は両手や両手に持つものが届く範囲に入ることが出来ない。そうでない者同士が近づくと玉のような膜があるように近づくことが出来ない。この範囲同士がぶつかると氷の上を滑るよりも滑らかにお互いを避け合ってしまう。

 王都の通りに人が溢れても溢れだした人とぶつかり合うことがなくなる。親子や家族は手を取り合って、我先に逃げる者は誰も傷つけることなく滑るような斥力に促されて進んでいく事ができる。


 あとはこれを王都全てに行き渡るような呪力だけ。


 セルティに確認した二つ目は、呪力変換について。セルティは瘴気や恨みなんかの負の感情を私の力にしてくれてる。それがあるからここまで強くなってこれた。確認したのは私の根底から強化してくれる瘴気や負の感情を、そのまま呪力に出来ないか。


『出来るわ。けれど、折角リーフが強くなれるのに勿体ないからしたくは無いわね』


 結果はご覧のとおり、王都中を私の呪いで包み込むことが出来た。クレスの常軌を逸した魔法で抱いた恐怖は私に集められて呪力になって恐怖を向けた人々に呪いとなって還っていく。


 クレスもウルザも出来うる限り最大の手助けをしてくれてるんだから、エンプレスのリーダーとして私も二人には負けていられない。エンプレスが女帝って意味だとか、いらない知識が増えたせいで要らないことを言った気もする。ひとまず目標だった王都中を呪いで包んでも、ちんちくりんの子どもサイズに縮まずに済んだ。


 歓喜の感情と共に集められた恐怖、不安、敵意、それらが全て呪力になり撒き散らされるとようやく笑いが止まった。拡声器となっているペンダントを握りしめ魔力を抜く。


「どうか、誰も死なないで、誰も怪我しませんように」



◇ ◆ ◇ ◆ ◇ sideレイド=アレイスター ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



「レイド待て!」

「すまない、先に行く」


 カイトの制止を振り切って全身を聖なる力で満たし速度を上げる。ドンッドンっと一歩駆けるごとに石畳を砕き景色が溶ける程の速力で爆発のあった城門に向かう。

カイトの言いたいことも分かる。不測の事態だ、何があるか分からないのだから全員で安全に向かうべきだと言いたいのだろう。けれど、悠長に向かっている間に一人が命を落とせばどうだ、亡くなった家族はどう思う。それが二人なら、三人なら。少しでも不幸になる人を減らせるなら先に向かう意味があるかもしれない。

 屋根を飛び越え壁を走り南門に向かうと抜剣と共に聖剣を一振りする。すると辺りを覆ていた土煙は晴れ門として機能しないほど大穴を空けた南門だった場所が姿を現した。


「くそっ、これじゃ外敵から市民を守れない」


 周囲を見渡すが多くの人が行きかうはずの城門近くであるにも関わらず幸い一人も歩いていなかったのか怪我人は見当たらない。近くに魔物の気配も悪意も感じないことから聖剣を納め砕けた城門に近づき目を凝らす。余程高熱を浴びたのか、一部は未だに鈍い赤みを帯び熱を放っている。城壁の外側に目をやると吹き飛んだ岩がゴロゴロと転がっていた。そう、ごろごろと転がっていたんだ。内側には一つも転がっていない城門の破片が外側には。


「……内側から?」


 ハッとして振り向くとカイトが走ってくるのが見えた。息を切らせ走って来たカイトを見て肩から力が抜けそうになったその時、空が暗い雲で覆われ稲光が走り、見たことのある女の子が空に映し出された。

 見知った女の子、王都に来ると期待し待っていた待ち人、リーフが映し出されると同時、王都中に地響きが起こっているかのような、狂ったように笑う彼女の声が響き渡り王都の東西から信じられない規模の魔力の波動を感じた。


「リーフ……?なぜ、なぜ君が……」


 求め続けた猫のような耳を立て、人の体を隠せるほど大きな剣を両の手に持ち、剣を振るう度に遠く東西の城門の方角、遥か反対となる北にいくつもの落雷が生じた。

 髪が逆立つような怒りの衝動と、目の前の出来事を信じたくない葛藤が体の中でぶつかっているのを感じる。


 勇者と、そう教会から告げられたころから自覚し鍛え抜いた。聖なる力で身体を満たし、この世に蔓延る(はびこる)悪を聖なる力で断罪する。救済を求める者は多く、教会の指示に従い効率よく人を助けてきた。

現れる悪を上回るだけの力を神から授かり正義を執行する。だから俺に負けは無い。正義が必ず勝つように授かった世の中を救う力。


「何を、何をしているんだ」


一人が死ねば、不幸になるのは一人じゃない。取り巻くすべてに影響を与え一人を失くした世界は昏く落ち込む。二人が亡くなれば、多くの人が嘆き肩を落とす、三人が命を落とせば子は泣き老人は心を病み寿命を縮める。


 破壊される王都を前に、かつてない程の力が身を焦がす。立ち上がる力の奔流で足元の小石が浮き上がり風のない中でも髪は逆立つように揺らめいた。


「何をしているんだ!リィィィィィィフ!!!」


 抜刀と同時に聖なる力が溢れ光を放つ聖剣と共に飛び上がる。足先に聖なる力を集め空気を踏み抜き空を翔け空気を爆発させるようにしながら浮かび上がる元凶に向かい飛び立った。


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