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合意

 災厄の悪夢ギルバートよりも先に王都を襲う。


 何度考えても私が行きつく最善の答えはそれだった。きっとクレスなら王様に会うことくらいは出来る、きっとウルザなら沢山の人を口車に乗せて動かせる。

 けど、それじゃあ足りない。悔しさでギルバートの顔を歪ませ、あいつが思い描く形をぐちゃぐちゃにしてやるには全然足りない。


「そう言ってくれると思ってた。念のため、ギルドマスターに王への謁見を申し込んであるんだけど、僕もそれが最善だと思う」

「うぉい!いいのかよクレス!イヤ、ちょっと待てリーフてめぇどうせ言葉が足ら無ぇんだから、もうちょっと話すことあんだろ」

「だから王都を私達で襲って、恐怖のどん底に叩き込むのよ」

「いや、より悪い方に行ってるわ」

「災害のような陽動、それで王都から人を散らす。少しの時間と準備があれば出来なくは無いんだ。僕なら(・・・)ね」


 ウルザもクレスが反論しないどころか提案までする様子を見て荒唐無稽な話でないことを察したみたいで椅子に深く座り直すと腕を組んで静かになった。

 そう、この作戦の肝はクレス。クレスの魔法なら、この世の終わりのような演出が出来ると思う。

 破滅の園(ガーデンオブルイン)で階層ごと何もかもを吹き飛ばした爆発、世界が白くなったかと思うほどの雷光、見渡す限り一面に広がる氷の世界、この力があれば王都の人をビックリさせられると思う。それこそ逃げなきゃ死んじゃうって思わせる程。

それにクレスはきっと私の目的を知った時から、これを見越していた節があった。賢者って呼ばれるクレスが行きつく答えと同じなら、きっと最善なんだって自信が持てる気がする。


「それでね準備なんだけど、どうしても二つ必要で、一つは私の声を遠くまで聞こえるように出来ないかなって」

「そういった魔法が無い訳じゃないんだけど、今から身に付けたとしてもリーフの求めるものにならないかも知れない」

「あ?ただ遠くまで届きゃ良いって話か?」

「出来れば沢山、同時に大音量で」

「そんなら魔道具使やぁ良いんじゃ無ぇか?そんな無茶苦茶遠くは無理でも、込めた魔力が届く範囲に声を届けるっつーもんがあったはずだ。魔道具屋関係にゃ行ったこと無ぇのか?」

「まどーぐやって何?」

「よし分かった、そりゃあ俺が何とか探してやる」


 クレスの説明だとお湯を沸かしたり、水を凍らせたり、生活を便利にしているものから、属性のある魔石を使って武器に使うウルザの槍も魔道具の一種って話だった。天井の照明は魔石を使うって知ってるけど、あれ魔道具っていうんだねって反応に二人は驚いていた。

 だって、私の故郷にそんなもの無かったんだもん。料理だって火おこしからだったし、炭化させた古布に火打ち金から火を移す種火から焚き火にするの、私はクラスでも早い方で得意だって話すと可哀想な子扱いになる始末。


「多分、ギルバートが万が一を恐れて流通させなかったんだろうね。下手に魔道具を使って抵抗されても困っただろうからね」

「まぁ、リーフの世間ズレは今に始まったこっちゃ無ぇ。んで、もう一個の準備は何だ?」


 何だか聞き捨てならないことを言われた気がするんだけど、そう私が考える作戦を上手くやるには、もう一つ、どうしても上手くならないといけないことがある。けど、これが中々言い出しづらいことでもあって……


「そうね、その、これは二人にしかお願い出来ない事なんだけど……」

「ふふふ、何かなリーフ」

「おう、何だ」


 小さな手で自分の黒髪をつまみ指に巻き付ける。言いにくいけど、言わないと問題な訳で、知らない他人にやって取り返しがつかないことになってもアレだし。


「その……」

「んだ、勿体ぶらずに言えっつの協力してやっから。やらなきゃなんねぇんだろ?」

「そうだね。僕らは仲間なんだから」


 うぅ、そこまで言ってくれるならって思うけど私なら絶対拒否するんだよね。でも、うん、やっぱりこの二人にしか頼めない。仲間だし、協力してくれるって言うなら大丈夫だよね。ひとつ頷いて二人の目をみる。


「ありがとう。その、どうしても呪いの練習台になってって頼みたくて」


 ウルザがそっと席を立ってクレスの耳元でゴニョニョと話し出す。話し終えるとクレスの背中をポンポンと叩き私に振り返り握りこぶしから親指を立てウインクして部屋から出て行こうとしてるんだけど、ちょっと待て。


「どこ行くのよウルザ、呪わせてよ!」

「馬鹿かテメェ、俺がいいって言うわけ無ぇだろうが」

「前に呪ったことがあるから呪いやすいかと思ったんだもん」

「だもん、じゃ無ぇ!クレス、任せた。俺はもういっちょ体慣らしてくらぁ」


 前のとは違って今度は練習だから大丈夫な気がすることを伝える前にウルザは部屋を出て行ってしまった。

仕方なく座り直しクレスに目を向ける。セルティと話すたびに考え事が増えてるクレスは、ウルザに(ささや)かれた後に組んでいた腕を解きポンと手を打った。


「うん、ウルザの言う事も一理あるけど、それはさて置きリーフには確かに訓練は必要そうだね。呪いについてだけじゃなくて魔法、それと口上(こうじょう)のね」

「魔法は、たしかに練習がいると思うけど、口上って?」

「リーフが考える王都襲撃、それには演出が必要なはずなんだ。だからリーフは僕の協力が絶対に要るって思ったんだよね。ギルバートに先じて方向性(・・・)を持たせた混乱を生むには、演出、そしてリーフへの注目が必須になる。」


 クレスには私の考えが伝わってる、ううん、見透かされているみたい。思えば初めてまともに話した時にも、何もかもを見透かして、いきなり会話がクライマックスにとんだことがあったっけ。

 クレスは、すっと立ち上がると子供用マーメードチェアが机にしっかり抑え込まれ身動きが取れなかった私の椅子を引き、手を取って降ろしてくれた。


「魔法は僕が教えるから安心して、演出や口上にしても室内じゃ出来ないから街の外に出ようか」


 破滅の園(ガーデンオブルイン)でも言われていた魔法の練習。闇の魔力も身体を丈夫にするくらいしか使えていないしアイテムボックスの黒い沼はクレスの説明では魔法とは少し違うらしいから、これで私もようやく魔法が覚えられるのかもと思うと少しだけウキウキとした気持ちが沸き上がってくる。決して嫉妬を向けられて楽しくなっているわけではない。


「うん。そういえばウルザは何を言ってたの?」


 自然と手を引かれて部屋を出て外に向かいながら何気なく聞いてみる。ウルザのことだからロクなことを考えてなさそうなのにクレスが言い返しもせず聞いていたのが不思議だった。


「あぁ、大したことじゃないんだ。お子様リーフの今日の下着は黒って角度的に見えた情報を――」


 引かれた手先の青い爪を伸ばして切りつけておいた。死ねウルザ、くたばれクレス。

 調子に乗っている時は、とりあえず引っ掻いておけと、意志を残した黒猫が尻尾を揺らした気配がした。





書き溜め分が尽きたので今後木曜日更新を目指します。更新追いつかない際は申し訳ありません……


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