初めての呪い
街道に沿いひた歩いた。スライムの酸で溶かされていたらしく靴も既に大分ぼろぼろになっていた。血の池を踏みしめ、スライムに溶かされ、普段なら馬車で移動する道を何万歩と踏みつけられているのだ。当然ほつれがでてくる。
日も暮れあたりには何だか分からない生物の鳴き声が聞こえてくるし、頭の中では目下、存在自体何だ分からない女性の声が響いている。
『リーフ。私ただ歩いているだけじゃつまらないわ。何かこう胸に来る呪詛でも吐いてくれないかしら』
「歩いてるのは……私なの。もう疲れたけど、ぜぇぜぇ……歩かないとまた何か襲ってくるかもしれないじゃない」
『狼が4匹左右にいるくらいで何にもないわ』
「えっ…また狼!?今度はいつから?」
『さぁ?明るいうちにはもうついて来てたかしら』
早く言ってください。
『あ、2』
とりあえず鉄の棒でしかない剣を振る。昼間より遥かにはやく振れた剣に私自身が驚いた。どう持つか迷っていたものが今はもうこうとしか言えない程にしっくりと握られている。
振り向きざま体の回転を加え横なぎに振るわれた剣は鋭く速く単眼狼の頭蓋骨を的確に砕いていた。
『2』
「なッ……うらぁぁぁぁ」
二匹目ッ
『1』
遠心力に任せ背中まで回し一本背負いのように剣を投げるように振り低い姿勢から足を噛みにきた単眼狼の頸椎を圧し折る
『2』
「ラストォォ!!」
地面に跳ねた勢いを利用して腰から全身で回すように剣を振る、見事に頭蓋骨に当たったのだが剣先が中ほどから折れた、酸に溶けた剣の耐久限界だったようだ
グルルルル……
「死ねぇーッ」
叫びで勢いをつけ剣を投げ飛ばす――ザッと地面を蹴り横に飛びのいて避けるとコッチへ飛びかかってくる
「アイテムボックス!」
水の入った瓶を手に思いっきり振り下ろす。素手だと思っていたのだろう首元めがけて飛んできた狼を再び地面に打ち落とす。ガシャンと音を立て割れた瓶の尖った破片で地面に打ち付けた狼の眼を突き刺す。
キャウンキャインと平衡感覚を失ったのか痛みで暴れているのか知らないが、助走をつけ走り幅跳びの要領で飛ぶと一度膝を抱えた後で全身を伸ばし首元に両足の踵を思いっきりめり込ませてやった。
「はぁ…はぁ…もういない?」
『はぁ、躊躇いのない殺意……本当に素敵』
「セルティ?もういないか聞いてるの」
『いないわ、眺めていた数匹も今の死にざまを見て引き上げて行ったもの』
立ったまま膝に手を置き項垂れてつつ呼吸を整える
「今ので、また何かと交換できる力たまった?」
『んーそうね身体能力を上げられるし、スキルなら軽めの一つくらいかしら』
「魔法…せめて火が出るか岩で突き刺せるような……何でもいい。戦える魔法を教えて!このままじゃ次の街の前に死ぬ!!」
『そうね。いいわ…貴女に似合う魔法にしといてあげる。どう?』
リーフ=セルティネイキア
生命力(HP) 13 魔力(MP)13 体力 14
攻撃力(AT) 14 防御力 13 速度 14
スキル:聴力強化 両手剣Lv3 筋力強化(小)
魔 法:アイテムボックス 治癒Lv1 呪術Lv1(←New)
特 殊:大罪の化身
「これ……狼とか倒せるの?」
『さぁ、獣にかけた事ないから知らないわ』
「効果は?」
『レベルからして体が重くなるか夢見が悪くなるとかかしら?』
「火とか毒とかは?」
『そんなものより磨けば呪術の方が余程高みに辿り着くの』
「高みに着く前に死ぬわぁぁあ!!呪われろセルティ!!」
アイテムボックスと唱える時に体を駆け巡る感覚が魔力なのだとしたら、あらんかぎりの魔力をつぎ込んでセルティを呪った。
『あははは貴女やっぱり面白いわ、覚えたての呪術を自分にかけるなんて』
魔力もなくなり、体力も底を尽き、夜闇は増していく。なんだか突然全身を襲った疲労感と倦怠感に負け木に体を預けると意識を保ち切れず眠りに落ちた。夢の中では空には災厄の悪夢が高笑いをあげている中、頭の割れた単眼狼が元気に私を追いかけ回し、私は血だまりをパシャパシャ撥ね付けながら逃げていた。走っても走っても追いつくでもなく離れるでもない頭蓋骨まで割れた単眼狼。
「呪われろセルティ!!」
『クスクス寝ながらにして呪術を重ね掛けるなんて、貴女悪夢に好かれているのよきっと』
どうやら私は、あの日から一向に悪夢から距離を置けていないらしい。そんな実感だけが頭に残ったまま目を覚ますと狼の死骸にくっつくスライムが見えた。どうすることもできない現状を悟ると寝起きと同時、悪夢の中同様に走って走って先を目指した。
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