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夢の中へ

 とりあえず寝ることにした。もうセルティが憑依する前から体力の限界だったのに、憑依によって魔力も体力もガリッガリに削られたんだから、妄想野郎(クレス)女の敵(ウルザ)に私が構わないといけないなんて事は無いはず。


「換装、白」


 なけなしの魔力で馬上槍(ランス)をアイテムボックスに沈めヤギ甲冑に投げつけた大剣を拾うと、そのまま四角い広場の隅に向かいザクンザクンと大剣を突き立て、大剣と壁で小さな空間を作った。


「ちょっと寝る。おやすみ」

『またそれで寝るのね。疲れとれるのソレ』


 正座から前に倒れ腕で頭を抱えるようにして意識を手放す。猫耳だけはピンと立て、何かあったら大剣が音を鳴らすか魔力の流れを感じるはずなんだけど、早速強い魔力の気配に猫耳がピクンピクンと弾んだ。


「リーフが休む間は、僕が近くで見張るから安心して」

「一番安心できないから離れてください」


 出来れば交易都市リューンくらい離れて欲しい。魔力の塊のような気配が大剣のすぐ向こうにある、それも未だに微塵も抵抗できると思えない程強い強大な気配に安心なんて出来る訳がない。


「ハッ、だそうだクレス。お前はダンジョンの検分でもしてた方がリーフのためってこった。見張りは俺に任せとけっつーの。こちとら傭兵団仕込みの見張りに護衛のプロだからよ」

「寄るな女の敵」

「ちょ、辛辣だな、オイ」


 大剣から内側に入ろうとするか大剣を抜こうものなら拾った馬上槍(ランス)で突撃してやる。セルティが強くしてくれたから分かるようになったけれど、そもそもクレスもウルザも私が敵わない程度には強い。どれくらい強いのかは分からないけど以前のような騙し討ちで何とかなるような事は無さそうだから、自分の身は自分で守らなきゃ。

 そう思いながら意識が夢の中に落ちるのを感じた。ふっと、体が軽くなるような感覚が走ってダンジョンの中だというのに一人の時では考えられないような感覚で休むことが出来た。


『それで、リーフ様はどちらを選ばれるのでしょうかセルティ様』

『さぁ分からないわ。どちらかを選ぶかもしれないし、どちらも選ばないかもしれないし』

『まっ私達は、リーフ様がどっちを選んでもついてくんですけどね』


 微睡の中、暗い空間のなかで女性達が喋っている光景だけが浮かび上がる。あれは誰だろう。深い緋色の髪に外套……セルティ?あの白い髪の女の人、背中に蝙蝠の羽がある。黒い女の人も。


『選択の時は遠くないわ。もう限界が近づいているもの』


 セルティが微笑みながら白と黒の女の子二人に応えると、ふと何かに気付いたようにこちら(・・・)に視線を向けると、微笑みかけるようにして歩いてきた。


『リーフ、貴女が何を選んでも私は貴女の味方よ。だから、今はまだ何も気にする必要はないの。おやすみ私の可愛いリーフ』


そっと触れられるような柔らかな手つきで撫でられたような気がすると、そのまま夢の場面が変わり、いつもの夢のように沢山の羊に懐かれモフる夢や、竜に追われる悪夢といった脈絡のない夢が続いた。



「お、ようやっと起きたか。つーか、そんなカッコでよく寝れんな。休まんのかソレ」


 目を覚ますと大剣の向こう側、少し離れたところで壁にもたれて座るウルザと目があった。何か言ってやろうかと思ったけど近いと文句言える距離でもなく、のっそりと体を起こして手ぐしで髪をとくと吹き飛んだ鉄扉の近くで立っているクレスが見えた。クレスの近くを飛んでいたソフィはウルザの声に気付き起きた私と目が合うと慌てて鞄に飛び込んでいった。


「夢じゃなかった。二人とも本当にいる」

『現実よ。白馬に乗った王子様ではないことも含めてね』


 小声での呟きへの反応から、王子様でないと分かった上で旅の仲間に引き入れようとしたセルティとのやりとりも夢でなさそうだと思い立ち上がりパンパンとスカートに付いた砂利や埃を払う。地面に突き刺した大剣を軽く引き抜きアイテムボックスの黒い沼に沈めクレス、ウルザそれぞれを(にら)んだ。


「本当についてくるの?」


 ぽつりと、そう問いかけるとクレスは柔らかな表情になり、ウルザは口角をあげ八重歯を見せた。


「勿論。目的を達成した後も含めてね」

「そう言ってんだろ。何度聞いたって変わりゃしねぇよ」


 (かた)や漬物石で殴打して気絶させた賢者、片や殴り合いの末に呪い倒した傭兵団の頭。


「私はクレスさんの大切にしていた猫でもないし、ウルザさんの求めに応えられるような女でもない。故郷を滅ぼされた仕返しのために旅をしてるだけで、返せるものなんて何も無いの。それでも、本当について来てくれるの?」


 メリットなんて何もないと思う。私にとっては故郷を滅ぼしたアイツへの復讐だけど、二人にとって無事で帰れるか分からない程の身の危険を冒してまで私について来る理由なんて無いと思う。


「クロがね。ふふ、リーフのことじゃ無いから睨まないでもらえるかな。僕が喚び出した猫のクロが背中を押してくれた気がしたんだ。星の終わりまで引きこもってばっかりじゃ駄目だってね」


 クレスの話では昔々悪い奴を倒した後、持てる知識と能力を尽くして時を加速させる部屋とか言う理解出来ない部屋に篭っていたらしい。本人の話が本当なら星にも寿命があって、それが尽きるまで本でも読んで過ごそうと思ってたとか。それってすごく寂しいことだと思う。


「外の世界を見ようって再び思わせてくれた切っ掛けが僕にとってリーフだったから、だから一緒にいたい、そう思ったんだ。何かを求めてついて行く訳じゃないんだ。だから、僕を連れて行ってくれないかな」


 それまで儚げな様子で語っていたのに口元を両手で囲うように手を当てながらニコニコの笑顔で「役に立つと思うよー戦力的な意味でー」と付け足してくるクレスを見ると真面目一辺倒の賢者様という訳ではないことが窺えた。


「ったく、さっきまで呼び捨てだったのに今更さん付けってこた無ぇだろ気持ち悪ぃ。何も求めちゃ居ねぇんだよ。惚れた女の気を引きについてくだけだ。それ以上の理由なんて無ぇだろ」


 立ち上がるとイライラしているかのように髪をかきながら、サラッととんでもない事を答えるウルザのせいで耳が熱くなるのを感じる。でも、散々殴って呪って蹴飛ばして惚れるって、頭おかしいのかな、この人。


「コラ、てめぇ今コイツ頭オカシイんじゃねぇかとか思ってんだろ。顔に出てんぞ。ま、女の敵からは、いくらか格上げされる程度にゃ役に立って見せてやらぁ」


 歩きながら私の考えを見抜いたウルザは私の髪を猫耳ごとガシガシと撫ぜると先へ歩いていく。


「ホラ、行くんだろ?リーフが敵倒さなきゃ強くなら無ぇっつーから待ってたんだ。サクッと進もうぜ」


 髪を整え直していると、いつの間にか背後に回ったクレスが、さっきも見せていた櫛で髪を梳きだした。頭を押さえ後ろを睨みつけると無駄に俊敏に再度背後に回り、反対を向いてももう一度向き直しても髪が梳き終わるまでクレスを睨むことは出来ず体ごと後ろを振り向くと、クレスの声だけがウルザの方から聞こえた。


「僕だけ髪に触ってないってズルイだろ」

「お前は抱き留めてただろ」


 石を拾って髪を乱したウルザと整えたクレスに投げつけるも、こちらも見ずにひょいひょいと躱されてしまう。


『ふふふ、おもちゃにされてるわねリーフ』


 セルティが茶化すのを聞き流して石を投げつけるが一向に当たる気配がない。仕方なしに諦めて歩き出すと早く来いとばかりに手招きをされた。


「……ありがとう」


 聞かれないように小さく呟いてから二人に追いつき奥の鉄扉に手を当てる。後ろからクレスとウルザの手が伸びてくると、これまでより楽に扉が開いた。


 鞄の中からソフィだけが微笑みを深めるクレスとニヤニヤと笑うウルザの様子に気づいていた。

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