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求ム平穏、去レ悪夢

 街の周りは瓦礫と大きな魔物の足跡によって荒れていた。


 街道沿いに歩いてもう約半日ほどになる。

護身用にと怨念の篭っていた剣をそのまま持って来たのだけれど、重い、汚い、邪魔と三重苦を私に与えていた。


『ねぇ、どのくらい歩くのかしら。リーフこんなところ歩いて楽しいの?』

「知らない。私そもそも麦づくり以外で街から出た事なんてないもん」

『そう。けれど、あの規模の街なら馬車なんかが主要なんじゃないかしら?』

「乗合馬車が通ってた。けど、そんなものないもん」


 そこから更に二時間ほど歩いた。ずるずると血塗られた剣が地面に線を引きずりながら歩く。


 私たち四ツ耳族の街は他の種族達と距離を置いていた。人とも異なり、エルフなどの特徴からも離れ獣人でもなくドワーフなどのような鍛冶錬金などの特技も無い、弱いものとして蔑まれることすらある種族であったため、皆で力を合わせ支え合い生きて来たのだ。


「なにあれ…?」


 少し先の方に蠢くゲル状の何かが道に川を作っていた。普通の小川と違うと分かるのはそれが立体的になっていることと半透明ながらも濁った色をしていたからだった。


『スライムの群生ね。風に乗った血の匂いにあてられたんじゃないかしら。リーフの街でも目指してるとこでしょうね』

「うわぁ気持ち悪い、あれって危ない?」

『大したことないけれど、あの量だとリーフ程度の体重なら二十秒位じゃないかしら』

「そんなすぐ倒せるなら大丈夫ね」

『貴女が溶かされるまでの秒数よ』


 滅茶苦茶危険じゃないですか。


『スライムって目視が弱い分、匂いとかに敏感なの。貴女もう狙われてるわよ』

「え゛、な、なんで!?」

『その剣。とっても彼ら好みよ』


 剣の柄も持って投げ捨てようとすると『持ってた方がいいわ。森の中からも他のに狙われてるし』と声がかかり使ったことも無い剣を両手で持ち直す。


「い、いつからそんな周りにいたの?」

『私が歩いていて楽しいか尋ねたあたりからかしら』

「結構前!早く教えてよ……」

『弱すぎて気にならなかったもの。そうね、あの群れに遭遇するよりは森の中の方がマシかもしれないわね』

「スライムの群れ危なすぎるけど…森の中のヤツは私より弱いの?」

『アハハハ、そこまで弱かったら森で生きていけないじゃない。あら?リーフ貴女まずいんじゃないかしら』

「そう言ってるんです…」


 私は街道を逸れ森の中へ足を踏み入れていく、大回りをしてスライム群の横を通って行こうとするが川のようなスライムからバケツの水が固まったような塊がいくつか私に向かってきた、その上に森のやや奥の方から


ウゥゥゥゥゥウウ―――


 と何やら四ツ足系の牙とか爪とかがある系の動物が唸るような声が聞こえている。

私は走った。、スカートの裾が多少破れようと何とか剣だけは離さず駆けられるだけ走った。振り返ると川のようなスライム群は遥か後方にいる。


『結構ついてきたわね』


 しかし全然大丈夫じゃなかった。

 単眼の白い狼二匹が私を追いかけてくるし、川のようなスライム群からはバケツの水が固まったようなサイズのものが小走り程度のスピードでこっちに向かっているのだ。


「ぜぇ…はぁ…こ…これ勝てるの?」

『無理じゃないかしら』

「な、じゃあ…はぁ…はぁ…どうしたら」

『そうね、リーフはリズム感あるかしら?私の声に合わせて剣を振れるかって話なんだけれど』

「はぁはぁ…ふぅ。人並みだと思う」

『やってみましょうか。1と言ったら縦に2と言ったら横に。それだけよ』


 足元の石を蹴飛ばし距離を詰めようとする単眼の狼を牽制しながら『1』剣を思い切り縦に振る、狼の片方が少し退いた。『2』おもいきり横にふる。刃が水平じゃない様子で、びゅーんと情けない音が立っていた。


『酷いわね。けれど、まぁいいわ私が合わせればいいのだし』

「こんなところで死ねない…お願い」

『あらつれないわねリーフ。誰にお願いするのかしら?』

「お願いします。セルティさん」

『さんなんていらないわ。あ、来るわよ』


 狼が頭を下げた、爪が地面に食い込む。『1』地を蹴り飛びかかる狼、その額にジャストミートしてしまった剣をそのまま思いっきり振りぬく。『2』飛びかかって来た狼の体に隠れていた二匹目に私は全く気づいていなかった。その爪に付いた土の色が分かるほどに近くに迫っていた――そこに地面に叩きつけられてから力いっぱい横に引っ張り上げるように振られた剣。斜め下から斬り上げる形で単眼を剣閃がなぞる


 狼の爪がシャツの肩口を裂いた。


 あとで飛びかかって来た狼は瞳を裂かれただけでなく体重の乗っていた剣で打たれてピクピクと地面にのたうち回っている。一匹目の狼は頭蓋骨が見える形で地面に伏している…がよろよろと立ち上がろうとしているのが見えた


『リーフまだ生「死ねぇぇぇぇ!!」

「二度と立つな、私の前に二度と現れるな!!

「私の命を狙って生きながらえるなんて勘違いっ永遠にするなぁぁぁぁ!!」


 両手で剣を逆手に持ち倒れる狼にザクザクと執拗に剣を突き立てた。二匹目の狼も動いてはいないが念のため心臓があるだろう位置に七回くらい刺しておいた。きっともう大丈夫なんだと思う。


『もう…急にそんなことされちゃうと、トキメいちゃうから…ね?』

「はぁ…はぁ…もう大丈夫、でしょ?」

『ハァ、素敵よ、リーフ…そのまま背中の方で並んでるスライムも逝ってもらいましょ』

「な゛」


 プルプルとしたスライムが列を成すように街道沿いからやってきていた。バケツをひっくり返したような水の塊十匹ほどが並び三匹程が単眼狼の死体に群がっていた。


 ビュッっとスライムが何か液体を吐き出してきたものを避ける。

スカートの端に飛沫がついたようだが、その部分がジュワーっと音を立て穴があいてしまった。とても強い酸なのだろう。


「こ、これどうすればいいんでしょうセルティさん…」

『そうね、ほらプルプルの中に浮かぶ青りんごみたいなのがあるでしょ?あれ刺せば終わるわ』

「さっき何か服とけたんですけど」

『リーフが溶ける前に刺すことをお勧めするわ』


 ビュッ…酸の水玉は、そう早くなく飛んでくるが地面に落ちた跳ね返りですら革靴の色を変え、麻のスカート程度なら穴を開ける。


「ふ…ふざけるなぁぁぁぁ」


 私の中で我慢や自制心が吹き飛んだ。街は襲われ次の街を目指しただけで一つ目を輝かせた気持ち悪い狼に飛びかかられ、ゼリーの化け物は私を溶かして殺そうとする


 これが街の外?ふざけるな…私の平穏を奪っておいて、目に映るは地獄、街を出ても地獄…ふざけるな


 ビュッ…酸の水玉が飛ぶ


 私はそれを剣の刀身で叩き、足元に転がる狼の死骸をスライムにむけ蹴飛ばした。酸の水玉を飛ばしたスライムより後ろのスライムが何匹か群がり、手前のやつもゼリーの中身の青リンゴがゆらゆらしたのが見えた。


「死ね」


 ゼリーに飛びかかる。剣を逆さに持ち全体重をかけリンゴまで刺しぬく。


「街を目指していたくせに私に目移りするなら、お前はここで死ね」


 狼に群がるモノを後ろから同様に刺し殺す


「群れていればよかったのに、ここで死ね

 私に寄ったことが間違い、ここで死ね

 戻らなかったオマエは、ここで死ね」


 二匹目の狼を溶かしている最中の奴らも三匹とも背後からざくざくと刺しぬいてやった。仲間が液体に戻るのを見て群れの方に戻る2匹を走って追う。二匹の内片方は酸の水玉を投げてきたが剣身ではたいて追いつき刺し殺す。

 逃げる一匹に向けボロボロになって軽くなった剣を思いっきり投げつける。剣はスライムの青リンゴのような核を貫き地面に刺さった。


『アハハハいい!いいわぁリーフ。素敵よ。恐怖で竦むでもなく、結果見て!皆殺し……はぁこの殺意、この激情……私幸せだわ』

「はっはっ…はぁ……人聞きが…悪いです。私は、自衛しただけだし」

『自衛?フフフそういう事にしておこうかしら。さてさて魔物を倒したのだから結構魔力や瘴気が頂けたのよね。リーフには戦うためのスキルと回復系の魔法1つくらいなら今回ので落とし込めそうね…はいっと』


リーフ=セルティネイキア

生命力(HP) 13 魔力(MP)13 体力 13

攻撃力(AT) 13 防御力 13 速度 13  

スキル:聴力強化 両手剣Lv2 筋力強化(小)

魔 法:アイテムボックス 治癒Lv1

特 殊:大罪の化身


『これから魔法増えるから分けておいたわ』

「治癒って、治れって思ったら出来るの?」

『そうよ。声に出すときは治るっぽいイメージが想起できるようにすると治りが良くなるわね。まだ擦り傷程度でしょうけどね』

「あと名前おかしくないこれ」

『おかしくないわ、私と同化しているんだもの貴女もセルティネイキアよ。苗字ないんでしょ?ついてよかったじゃない』

「そーゆー問題じゃない気がする……それに私リーフィアなんだけど」

『そう?でも魂に刻ませて還らせたから変更できないわね。呼びやすくて好きよリーフ』


 最後のスライムを刺しボロボロに溶け最早鉄の棒でしかない剣を手に再び歩き出す。無いよりはマシだとおもうし鉄だけあって木の枝などよりは使える。スカートも端の方がボロボロになっている。大分みすぼらしい格好になってしまったがスライムの川を避けると再び街道に沿って私は歩き出した。

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