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殺意の旅路を征く決意

 目を覚ますと私はベッドで横になっていた。木製の天井の木目のウネりを見るに私の家では無い様子だが、白く柔らかな布団に包まれて微睡に身を預ける。


 夢だったんだ 


 きっとただの夢

 意味のない悪い夢

 あれは性質の悪い夢

 殺戮されるだけの悪夢


『夢じゃないわ?何を言っているのかしら』


 突如頭の中に女性の声が響いた。悪夢の終わり、私が心の臓を止めるその時に声をかけて来た妖艶な美女。耳に何か聞こえた訳じゃない、その声が頭に直接響いたのだ。


「な…なにこれ、私おかしくなったのかな」


『そう?変わらないと思うけれど?ちゃんと傷つけずに魂も還したもの』


「私の声に返事してるの?なにこれ気持ち悪い…」


『あら不快?貴女の中に入っちゃったから顕現出来ないのゴメンナサイね、けれどそれは貴女の魔力が少ないからでもあるのよ』


「わーわー…私まだ夢の続きにいるのかな…起きても夢の中系の悪夢って何回も起きるのが気持ち悪いのに」


『起きているじゃない。外をご覧なさいよ。全て現実よ?貴方が死んだから私が憑いて無事な家に入って眠っただけだもの』


 その声の主が何か定かにする前に、全て現実(・・・・)という言葉が引っかかる。あんな莫迦げた悪夢。ただ生贄を得るために私たちを皆殺しにしたアレが本当にあった?そんなハズはない。


 布団をどかすと私の服は赤黒く染まっていた、布団の内側も服から染み出した何か(・・)が付着したのか赤く染まっていた。


「ひっ、な、え、なにこれ…」


 跳ね起きるようにベッドから降りると勢い余って壁に当たった。その壁のすぐ横から外の光景が見えてしまった。向こう側が荒野となっている都市。この建物から見える範囲の全ての路面は赤く染まっていた。そこかしこに散らばる死体、うずたかく積まれた足などの部位、何かの拍子で崩れてしまったのか首を積み上げたであろう山からは首が転がり散っていた。


「い…いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――」


 こんなことある訳ない早く終わってよ悪夢

 ありえないこの赤が全て血なんて悪い夢

 気持ち悪い、なに、なんなのよこの夢

 殺される理由なんてない、これは夢

 男も殺戮も悪魔も間違いなく悪夢

 きっとストレスが見せた悪い夢 

 この声も見える世界も全部夢

 起きれば忘れるただの悪夢 


『気が済んだかしら?あまり叫ばれても不快なの。あと、着替えたらどう?』


「嫌…なに、なんで…待って、私も、私も死んだはずなのに」


『だから還したと告げたわ、貴女に決めたのに貴女が死んだら意味がないじゃない?いい加減呼びづらいのだけれど、名前くらい教えて頂けないかしら』


「な…そもそもアナタなんなの!?」


『失礼、そうよね貴女が私を喚んだわけじゃないものね。私はエイムアンヌ=セルティネイキア、長いし可愛くないからエイミーかセルティで呼んでくれる?』


「違う!名前なんてどうでもいいの、何なのって聞いてるの」


『あら失礼。そっちだったの?そうね私は分かり易く言えば悪魔っていうのかしら?実体がある訳じゃないから魔族とも呼ばれないものね。さぁ貴女の番よ?』


「私はリーフィア…苗字なんて無い、ただのリーフィア…悪魔って何なの?幽霊とかみたいに私に憑りついてるの?」


『クスッいいじゃない葉っぱちゃん、貴女にピッタリよ。芯の強さがあるところも含めて素敵な名前ね。いいわリーフって呼ぶことにする。憑りついているとも言えるけれど幽霊なんかと同じというのは嫌ね』


「さっき、私の魂を還したって言ったけど…皆の魂を還してよ!まだ生き返られるかもしれないってことでしょ!?」


『それは出来ないわリーフ。私は貴女に同化したから還せただけだもの』


「そ…そんな……」


 私は、壁に寄りかかったまま背中をするようにして床に座り込んでしまった。死んだ者は生き返らないというのは自然の摂理だけれど、私は生き返れたのだから他もという一瞬希望を見出してしまったからこそ、不可能だという事実を告げられるのは辛い。下手な希望や期待は、高さの分だけ落胆を生む。


『とりあえず着替えて、こんなところ出ない?』


 私に、その声は届いていなかった。


 なんで?

 なんで赤いの?

 なんで死んだの?

 なんで殺されたの?

 なんでこうなったの? 

 なんで悪魔に憑かれたの?


 あいつだ…

 あいつがみんなを殺した

 あの男さえ来なければこんなことにはならなかった

 あの男が自分の都合の為だけに一人残らず

 あの時、私も死んだんだ


 だだ込み上げてくる純粋な憎悪、ただただ殺してやりたい


 耳が聞こえることを後悔する程の怨嗟の声と共に

 息をしていたことすら後悔する程の絶望と共に

 目が見えることを後悔するほどの衝撃と共に

 心があることを後悔するほどの恨みと共に

 口が開くことを後悔する程の絶叫と共に


 私の街の皆の恨みを抱えさせて殺す

 生きていることを後悔させて殺す

 親の友の皆の敵を私の手で殺す

 平和な日々を送れずとも殺す

 この日を思い出させて殺す


『ふふ…アハハハハハ素敵…素敵よリーフ、その恨みを、その殺意を、その怨念を重ねていきましょう…貴女ならどこまでだって強くなれるわ。ふふ、アハハハハハハ』


 部屋を見回し引き出しを漁る。どうせもうこの街には誰もいないのだから、この恨みを晴らすためには止まって等いられないのだから。暗い空に赤く染まる大地、部屋にあるのは血の染みた布団。けれど皮肉なことにその家には白いシャツと輝くような白いスカートしかなかったけれど私はそれに着替えた。


「セルティ…でいいんだよね?私の気持ちが読めるんでしょ?」

『えぇ今最高に気持ちがいいの。最高級のワインでも例え100年寝かせたウィスキーでも私をここまで酔わせることなんて無いのに!最高!リーフ貴女最高よ!!』

「私は、あの男を殺したい。そのためにアナタが役立つなら手伝って欲しいの」

『フフフ勿論よ…でも困ったわね。貴女、弱すぎるのよ』

「え?…」


『貴女の種族、獣人やエルフなんかの血が薄く混じった混血よね。生贄として絶滅したのは四ツ耳族と聞いたわ』


 そう。私の種族は四ツ耳族と呼ばれていた。人とほぼ同じ耳があるにも関わらず猫のような耳が頭にも生えている。けれど頭の方の耳には耳の穴などはなく、魔力の感知など聴覚を研ぎ澄ませても捉えられない外敵の気配を察知し警戒するための器官であった。私の猫耳は毛色も髪と同じため普段寝かせていると少し髪が跳ねた程度にしか見えないが、そこそこ大きな耳がついている。


『弱いのよ。魔力もないし筋力もない、おまけに貴女体力もないじゃない。これじゃあ私の力を使いこなせないの』


「な、そんな、それならアナタいらないじゃない!」


『安心しなさいよ。徐々につけて行けばいいだけなのだから。リーフがこれから力を蓄えるたびに少しずつ私の力を渡していってあげる』


「どうすれば強くなれるの…化け物みたいな強さであっても殺せるほど」


『ええ、望めば神とも比肩させてみせるわ。リーフはただ怨念や瘴気、恨みや呪いを集めるだけでいいの。難しく考えることはないの。魔物は瘴気や恨みをくれるし、人は怨念や恨みを抱えてる、呪いなんてそれこそ掃いて捨てるほど転がっているもの。愚かな人が沢山いるからかしらね』


「それでそれを集めたらどう強くなるの?」


『そうね分かり易くしてあげるわ。私が貴女の能力を数値化して見せてあげる』


 脳裏に一種の表が現れた


リーフ=セルティネイキア

生命力(HP) 10 魔力(MP)10 体力 10

攻撃力(AT) 10 防御力 10 速度 10  

スキル:聴力強化

特殊:大罪の化身


『どう?昔呼ばれた世界に習ってみたのだけれど分かり易くない?』

「分かり易いけど。これって強いの?」

『言ったじゃない。弱すぎるのよ』

「この表記からしたら、あの男はどのくらい強いの?」

『さぁ?そんなこと知らないわ。でも1万人以上殺して、都市ともいえる規模を囲える程の儀式を行使して、悪魔の力を瞬時に我が物にしてたし、そこそこ強いんじゃないかしら』


 私は溜息をつくと部屋を出た。

 家屋の中を漁ると僅かな現金があったのでありがたく頂く。他にも無事な家屋にはガラスを破り侵入する。数件家屋の中の道具をいただいた。もう持ち主が返ってくることなど永劫ないのだ。ならば私が復讐のために活用する。


『素敵よリーフ。心が折れて精神を壊して狂ったって何も可笑しく無いのに。葉という名が表すように、ちゃんと幹があるわ貴女。折れない心と、衰えない殺意、渦巻く怨念…クスッ素敵』


「私は、この光景を忘れない…あいつを殺すまで、絶対に」


『リーフあっちの男に刺さってる剣、あれ素敵ね。近くに行ってくれる?』

「…ええ」


 吐き気を我慢して寄る。と同じ服を着ている多分同僚なのだろう、剣は2人を一緒に貫いた。近づくと剣から黒い靄のようなものが立ち上り私へ向かってきた。


「な、なにこれ」

『怨念よ。やったじゃない中々良質ね。これなら…そうね便利な魔法の一つでもつけようかしら』


リーフ=セルティネイキア

生命力(HP) 11 魔力(MP)11 体力 11

攻撃力(AT) 11 防御力 11 速度 11  

スキル:聴力強化 アイテムボックス

特殊:大罪の化身


『どう?見えるかしら。これで旅の荷物なんかは手に持たなくていいわ。私達みたいな女子に大きなカバンなんてナンセンスですもの。唱えれば空間に出入り口が開くわ。強くなれば大きくなるけれど、今はテント1張り分くらいかしら』

「な、え?私、魔法が使えるようになったの?」

『そうよ?なに、詠唱が嫌いなら強くイメージすれば出来るわよ?確かに声を上げるなんてはしたないものね』


 そこじゃない。どうも私は魔法が使えるようになったらしい。


「アイテムボックス!」


 空間にドア程の穴が開いた。とりあえず今侵入している家屋の食材や衣類を放り込んでおいた。しばらくするとその扉は空気に溶けるように消えて行った。


『今のリーフじゃ一日2回呼べるかどうかしらね。けど便利よ。取り出しはイメージに応えて吐き出すように調整しておいてあげるわ』


「本当に出来た…こうやって少しでも何かできるようになっていけばいつか…」

『そう。実感できてよかったわね。本当はあの程度を目標にされるのは心外なのだけれど、まぁいいわ。さぁ行きましょう。この街、臭うもの。邪気邪念は好みでも悪臭は御免だわ』


「えぇ、行きましょう」


 恨みを心に焼き付けて

 殺意を胸に焼き付けて

 地獄を瞳に焼き付けて


 人が消え建物が朽ちた、このままいずれ地図から消える都市から、私は、いえ私たちは復讐の一歩を踏み出した。

☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


 いつもリーフたちのことを見守ってくださってありがとうございます。

お読みいただけていることが大変うれしく思います。


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