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バロウル -超心霊的医術-  作者: 茜丸大悟
前の章 イデオロギー黙示録
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21th Counselor Girl. その2

 ――仮設を立てたという事は、次はその理論が正しいかどうか確かめる為に追記実験を試したと思われますが、それはどうでしたか?


 流石お医者様です。仰る通り、私達は何度かの実験を重ねることで、多分テレパシーが有るだろう、という結論には達しました。ですが……。


 ――ですが?


 ……その能力は、長続きしませんでした。月日が経つにつれ、持続時間の減少や他の物事に対する集中度合いの必要性が高まり、ほとんど交信することが難しくなっていったのです。

 不思議と距離に関してだけは影響を受ける事は無かったのですが、これに関しては今も理由がわかりません。

 おそらく先ほど先生がおっしゃったバロウル連絡線が関わっているのだろう、という事だけは今なら判るのですが……ともかく私達兄弟の、右腕のテレパシー能力は失われていったのです。


 ――なるほど。私個人の感想を言わせていただきますと、キャラダインさんの体験は中々興味深い臨床実験だったと思いますね。……ところで、その実験は右腕のテレパシー能力が失われた状態で、お止めになりましたか?


 いいえ、勿論と言いますか当然と言いますか、実験は続きます。私達は兄の右腕の骨折が治ると、次は左腕の交換を行いました。

 なぜ右腕ではなく左腕をと聞かれれば、もしかしたらテレパシー能力は右腕だけしか発症しないのかもしれない、あるいは折れた骨が修復される間の時限定の、何か神経上の不具合の様な効果によって、発現した能力ではないだろうか、という疑いを晴らすために行ったからです。

 その左腕の実験に関しては、一応成功しました。そう、成功といえば成功した分類に入るのでしょうが、如何せん私も兄も右利きで、とっさに腕を動かす際も、まず右腕から動かしてしまう癖がありましたので、十分なサンプルを計測する事ができませんでした。


 仕方がないので次は再び右腕を交換しました。今度は満足のいく計測結果が得られました。やはり普段からよく動かしている場所のほうが、数多くの実験結果を得られることが大きかったですね。

 私達はこのお遊びに夢中になりました。

 ただ……ちょっとばかり気まずかったのは、お互いの彼女と、まあ、その、イヤらしい雰囲気になった時とか、自分で口に出すのもはばかれる行為に耽っている時に、もう片方にあれな感覚が右腕を通して伝わったり、あるいは逆に右腕が勝手に動き出すことで、雰囲気が台無しになってしまった事ですね。

 あれは本当に……気まずかった……。


 ――なかなかユニークな体験だったようですね。


 まあ確かに当事者じゃなければ笑い話になりましたね。

 私達はその後も何度かバロウルを繰り返し行って、その度に部位の変更や一度に交換する数を増やしてみたりと実験を重ねてみました。

 それによって分かった事は、部位の大きさや一度に取り替えるパーツ数に関係なく、初めて交換した部位のテレパシーは持続時間が乏しいことと、回数を重ねるごとに能力が強靭になってゆき育っていくということです。


 ――育つ、といいますと?


 テレパシーが伝達する期間が伸びていのと、その時伝わる感覚がより正確に、詳細になっていくという事です。そして、全神経を集中する事によって、ある程度相手の部位を動かすことが出来るようになりました。


 ――待ってください! 遠隔で、相手の身体を操れたのですか?


 はい、そうです。正確には交換したばかりの部位に限りますが、動かす事に成功しました。


 ――驚きですね。素晴らしいサンプルです。今の所キャラダインさんの様な実験結果には、お目にかかった事はありません。口頭のみの記録だとしても、なかなか興味深い現象であると認知されるかもしれませんね。ですが……何故私のもとにご相談に参られたのでしょうか? この様な体験を公表したいのでしたら、心療内科ではなくどこか大きな大学にでもきちんとした臨床データを持ち込むべきだと――


 ああ先生、違います。先生は勘違いをなさっています。

 私達が行いたいのは、私達が発見したこの新しい能力を発表する為の相談などではないのです!


 ――と、いいますと?


 ……何十回目の実験を行った後でしょうか。不思議なことに、兄が手で持ち上げたままのコップの重みと中身の暖かな感触が、ずぅっと途切れることなく伝わり続ける事がありました。

 最初私達は、テレパシー能力が強化さてれ、強く伝達されただけだと思いました。ですが、その両腕から伝わる感覚は途切れる事なく一日中感触が伝わり続けたのです。

 これはおかしい、何かやり方を間違えたのではないか――そう思った時には、もうすでに遅すぎました。


 テレパシーの暴走です。一度身体の触感などが片方に伝わってしまうと、長時間継続する様になってしまいました。

 寝ても覚めても皮膚に伝わる感覚が二重に感じてしまう状態……お互いの息遣いがこだまし合って、まるで幽霊にでも取り憑かれている様な気味の悪さ。


 食べ物を咀嚼した時の、固さ柔らかさ温かさ冷たさ苦さ甘さ辛さ塩っぱさが不自然なまでにくっきりと同時に味蕾を刺激する、不可思議な味覚の混在。

 二重三重に伝わるテレビの音。お互いの声が骨伝導を含め三重奏・四重奏と響いてしまう聴覚の悩み。

 まるで二人の身体は二枚のイラストを重ね合わせたかの状態です。

 受けた外部刺激を共有してしまうのです。


 ――それはまた、中々突拍子もない状態ですね。いえ、疑っているという訳ではございません。私自身体験した事のない現象のため、感覚的に理解することが難しい、という意味です。


 そうですね、先生にはこの苦しみがお分かりにはなれないでしょうね。

 これは私達兄弟にしか理解できない感覚かもしれません。

 ですが、別にそれはいいんです。こんなもの理解されようがされまいが、私達にか関係ありませんから。

 大事なのは、この謎のテレパシー暴走現象が発生しても苦にならなくなるお薬を出してもらいたいと言う事だけです。


 ――えっ、薬の処方ですか?


 そうです。私達は薬が欲しいだけです。でなければ態々病院になんて来ませんよ。

 私達が欲しいのは、例えばストレスを鈍化させるような代物、あるいはぐっすりと眠れる効能の強い睡眠薬、感覚を鈍らせる様な薬といった代物です。

 どうせこのテレパシーの暴走も、時間を置けばやがて落ち着くだろうという事は分かっていますからね。

 ええ、分かっています。時間を置けば消失していくはずなのです。

 だからその間耐えられる様になる薬を出して欲しいのです。


 ――念の為お尋ねしますが、バロウル連絡線を研究している施設や機関に相談、あるいは通院なさるといった選択は――


 お断りします! 実験動物扱いは真っ平御免です。本当は先生にだって打ち明けたく無かったものを態々薬をもらうためにここまで説明したんですからいいから早く薬を出して下さいお願いですから私達が兄が私が怒りますよ兄が立ち上がりこちらを睨みつけていますええ兄は今この病院の休憩室で私と一緒にあなたを見てますあなたを聞いてます怒ってます感じてます睨んでます早く薬を早く早く早く!


 ――分かりました、キャラダインさん。お薬は出しますのでまずは落ち着いてください。


 本当ですか? 本当ですね! お薬を出して頂けるのですね! ひゃっはあ、ありがとうございます。


 ――ですが、一つだけ。


 何ですか? まだこれ以上何か私達が説明しなければならない事がありますでしょうか。


 ――大変興味深い症例ですのでお尋ねしたい気持ちもやぶさかですが、違います。あいにく、当クリニックでは面談された方のみの分までしか処方することが叶いません。ですので、お兄様の分は別途面談が必要となります。


 ええ、兄も私と同じように、またこの相談をしなければなりませんか? 私と一緒に、先生のおっしゃった内容を全部聞いていたというのに? これと同じ事をもう一度?


 ――はい。規則ですので。


 ……では、治療費も二倍?


 ――そうなりますね。


 ……まかりませんか?


 ――まかりません。他の患者様の不公平になりますから。


 ……兄、こっちに来るそうです。


 ――いえ、大変残念ながら次の患者様がお待ちしておりますので、順番を守って問診待ちしてください。一階受付カウンターで必要項目に筆記の上、お待ち下さい。それでは後ほど処方箋をお渡ししますので、一階ロビーにてお待ちください。本日はお疲れ様でした。


 ………………え、いや、あの、……あ、はい。


〈再生終了〉


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