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バロウル -超心霊的医術-  作者: 茜丸大悟
前の章 イデオロギー黙示録
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片目乞いのピーター その2

 とはいえ、まったく話題に出さないというわけではない。

 妹の瞳が綺麗なんだと自慢じみた話題を振って来たり、はした金でもバロウルに応じてくれそうな浮浪者の情報を尋ねてみたりと、話題には事欠かない。

 そんなピーターに向けて同僚たちが投げかける言葉と言えば、妹想いのいい兄ちゃんだなあとか、給料あがるといいなあといった励ましの――否、実のない言葉ばかり。


 変にこれ以上関わると、片目の交換をせがまれてしまうかもしれない。

 毎朝一緒にバロウル相手を探すはめに陥るかもしれない。

 もしくはピーターと大して変わらない給料から、カンパとして金を差し出してやるハメになるかもしれない。

 かもしれないを挙げて行ったらキリがないが可能性は可能性だ。

 ピーターに向けて良い言葉は耳障りの良い応援まで。

 それが、同僚たちにとって暗黙の了解となっていた。


 そんな事情を露とも知らず、ピーターは仕事に励む。

 ごみを掴み、放り込む。

 ごみを掴み、放り込む。

 収集車に乗って、次のごみ集荷所へ。


 家庭ごみの悪臭とルーチンワークと化した単純作業にまみれながら、ピーターはクルマから降りるたび、ぐるりと視線を巡らせて人物観察をする。

 ああ、もしかしたら、今この瞬間この場所にこそ、妹と片目をバロウルしてくれる相手が見つかるかもしれない。

 そんな物思いにふけながら、ひときわ強烈な生ごみ臭を放つゴミ袋を掴み上げる。

 鼻を覆いたくなるようなゴミ袋であろうと、とてつもなく中身が重いゴミ袋だろうと、ピーターはただ黙々と掴み上げて収集車に放り込む。

 普段の言動はともかくとして、そういった真面目な職務態度には同僚たちも一目置いていた。






 清掃業者の仕事あがりは早い。

 年末年始や季節の祭りの時期などを除いて、基本的には十五時すぎに職場を後にする。

 同僚たちは連れ立ってビールの一杯でもひっかけにいくが、誰もピーターを誘うことはなかった。

 どうせ、お断りの言葉が返ってくるに違いないからだ。


 ピーターはいつも別れの挨拶を交わした後、中央通りに繰り出すことを同僚たちは知っていた。

 そこで何をしているかと言えば、人物観察だ。

 妹と片目をバロウルしてくれるかもしれない相手を探しているのだ。


 はたから見れば午後のショッピングに繰り出した若者の姿にも見えるだろう。

 あるいは学校帰りの学生か。

 実際ピーターはまだ十七歳と若く、ハイスクールに通っていてもおかしくない年齢だ。

 そんな彼がどうして清掃業者なんかに――とは、尋ねなくてもどういう事情なのかは考えるまでもなく自明の理だ。


 妹の目玉のためであろう。

 間違いはない。


 そこになんの疑問の余地も挟む必要性はないが、ともかくピーターが今行っているのは事前調査というやつだった。


「そこの、たっぷりな荷物を抱えているご婦人は駄目だな。金持ちだから取り合ってもくれないはずだ」

「あのじいさん、この前よりも少し弱ってるな。寝たきりになる前に、痴ほう症にでもなってくれたらいいのに。そしたらうまい事やって、バロウルできるかもしれないのに」

「子連れか……大人になってから片目をバロウルするよりも、子供の頃からなら、そこまで不自由を感じないかもか? まあ、親は応じないだろうなあ……それに、子供の眼玉って、サイズが合うものなのか?」


 いつもこんな調子だった。

 街路樹沿いに備え付けられた椅子に座りながら、ピーターはいつもそんなことを考えていた。


 ただぼぅっと人の往来を眺めているだけにしか見えないが、その実獲物を狙うハゲタカの視線だ。

 眠そうな顔に反して、視線はせわしなくあっちやこっちへ向かっている。

 身長、体重、服装、荷物。

 どんな歩き方をしているか、どこへ歩いていこうとしているか、一人か、二人か、子連れか、夫婦か。

 顔はほとんど動かさず、眼だけぐるぐるさせながらピーターは観察に勤しむ。


 ただしどんなに良さそうな相手を見つけたとしても、今この段階では声をかけない。

 買い物の最中にバロウルを持ち掛けても相手の気分を害するだけだし、夕食の材料を買いに出かけている主婦相手などは、家庭の事情を優先されて()()にされることが分かっているからだ。


 最悪、警察を呼ばれる可能性だってある。

 悪質な客引き行為と誤解される可能性もある。

 ピーターは経験上、そのことをよく理解していた。


 だから今行うのはあくまで観察だけ。それ以上の干渉は一切行わない。

 一見して無駄とも思える行動だが、これにはピーターなりの考えがあってのことだった。

 平日のうちに狙いをある程度絞っておいて、日曜日に偶然見かけた相手に声をかける。

 これがピーターの戦略だった。


 特に日曜礼拝の後などは声をかけやすい。

 その後の予定がお昼まで開いていることが多い上に、何よりも神様の御前の近くだから無碍にされることも無い。

 例え相手から同情といたわりの言葉しか返ってこなかったとしても、罵倒されたり暴力を振るわれるような場面に出くわすことは早々ない。


 そもそも礼拝にも来ないような人間は心の狭い人間に違いないとピーターは思い込んでいる。

 そんな奴らが片目のバロウルに応じてくれるとは考えてもいないし、妹にふさわしい新しい片目の持ち主とは到底思えなかったのだ。

 美しい盲いた瞳の対となるのは、やはり見劣りしないくらい美しい瞳がふさわしい。

 ピーターは少々高望みが過ぎるきらいがあった。


 とはいえ、応じてくれるならばどんなに淀んだ瞳であったとしても、喜んでバロウルしただろう事は想像に難くない。

 理想はともかく現実的にバロウルしてくれる相手を見つけ出すことが、ピーターにとって一番の大事なのだから。


 ただただ人を観察し続けるだけでも時間はあっという間に過ぎる。

 気づけば十八時半。そろそろ切り上げるころ合いかなと、ピーターは重い腰を上げる。

 この日、ピーターが見つけた心の優しそうな――というのはあくまでピーターの感想――相手は三人見つけた。


 そのうちの二人は西通りからやってきて、一通り買い物を済ませた後に西側へと歩き去っていったのを確認済みだ。

 西側といえばめぼしい教会は三か所しかない。狙いを絞るのは簡単だ。

 確か以前にも西地区住まいのピックアップした相手が五人ほどいたはずだ。

 彼らにはまだ声をかけたことはない。


 よし、ちょうどいい。今月の日曜の予定を西側巡りにしよう。ピーターは心の中の予定帳にしっかりと付箋を挟んだ。

 あとはもう何人か追加の候補者が見つかればいいのに。そんなことを考えながらピーターは西通り周りで帰路につく。

 少し遠回りになるが下見を兼ねての行動なので苦にもならない。

 妹のためなら一日中歩き回っても構わないという覚悟がピーターには備わっていた。

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