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バロウル -超心霊的医術-  作者: 茜丸大悟
前の章 イデオロギー黙示録
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リンガ・リンガ その1

※下ネタ注意。

「ねえナオミ、ちょっと聞いて欲しい事があるんだけど――」


 同僚のキャサリンが、この前置きで話し始める話題は大抵ろくでもない内容に決まってる。

 今この場にいるのは私とキャサリン二人っきりだけ。当然、私に向かって話しかけてきてる。

 普段なら急用を思いつくとか他の子に押し付けるなどして見事逃げ出してみせるんだけど、今回は丁度お昼のお弁当を広げたタイミングで話しかけてきたもんだから、これじゃとても逃げ出せない。


 よりにもよって、今日は丁度シェフをやってる彼氏が作ってくれた、一つ星なお弁当だったのに。

 楽しみを潰されて、気分は最悪。けどキャサリンを追いやったら追いやったで、後で絶対面倒なことになるから諦める。

 私は覚悟を決めて話を聞くことにした。


「それで、今度は何の話? ペットの猫が犬のうんちを食べて食中毒になったから病院に連れて行ったら妊娠してることに気づいた時よりどのくらい悪い話?」

「いつの時の話をしてるのよ、もう。あのね、以前ナオミにも紹介したことあるじゃない、あたしの彼氏のマイクの事」

「ああ、あの筋肉ダルマの事……? 何、浮気でもされたの? それともプロテイン相手に寝取られたとか?」

「ナオミ、あたしのこと馬鹿にしてるの?」


 馬鹿にしてるだなんてとんでもない。

 馬鹿な娘だって確信してるだけよ。


「そうじゃなくて……ええと、ナオミ。あなたって一度くらいバロっちゃった事ある?」


 自慢じゃないけど私は月に二回ほど、まつ毛を付け替えるためにバロウル液を買ってる。

 周りのみんなには一本一本時間をかけて丁寧にケアしている自慢の美まつ毛なのよ……なんて吹聴してるけど、実際はバロウルでずびゃっとやってビャビャッとやって整えてるだけの手抜き品。

 エラそぶってまつ育が違うのよ、まつ育がぁーだなんて触れ回っているんだけど、ホントはバロウルしているだけなの。

 だけど私はスーパーナチュラルで通してるわけで、そんな事暴露するわけにもいかないから、ここはあえて猫をかぶる。


「ううん、使ったこと無いよ? やり方とかは知ってるけどね!」


 誤魔化せたかな? ま、わざわざ言わなきゃバレないか。

 キャサリンは特に疑問を持つことなく、私の答えを鵜呑みする。


「そう、やり方は知ってるなら、まあ問題はないかな」

「何よもったいぶって。彼氏のマイクだっけ? バロウル治療でも失敗したの?」

「ううん、失敗はしてないの。してないからこそ困ってるんだけど」


 はて、バロウルに成功して困ることなんてあったかしらん?

 私はお弁当のおかずにお箸を突きさす手を止めて、食い入るようにキャサリンを見つめる。


「あのね――マイクがね、よりにもよって赤の他人とペニスを交換してきたのよ」


 なんじゃそりゃ!

 キャサリンが語る、聞くんじゃなかったランキングの第一位がぶっちぎりに更新された。


「いやいやいやいや! あんた、それ、いやちょっとまって――え、変えたの? やれるの? 使ったの!?」

「使ったって何よ、いやらしいわねナオミ。そうじゃなくて、ええと……マイクの友達に、なんとかって名前のスポーツ整形外科志望の医大生がいるらしいんだけど、筋繊維心霊縫合(MPDB)実技試験(OSCE)を受ける必要性があったらしいのよ。科目は簡易式な接合方法だったらしいんだけど、それじゃあポイントが増えないってことで、それならとディテールに拘ったバロウル接合で高得点を狙ったらしいのよ」

「ディテールって……いやあんたそこでなんでおちんちんの交換になるのよ」

「知らないわよそんな事は。丁度よかったんじゃないの? こう……太さとか」

「ひわーい」


 成人男性の股間に手を突っ込んで、ぐちゅぐちゅと縫合する姿を想像してみる。

 だめだ、絵面が汚すぎる。それどころか笑いもこみ上げてきちゃう。

 いやまあ真面目に想像力を働かせてみるなら、尿道とか血管とかあれやこれやでいろんな管が走ってるわけだから、それらを全部綺麗に接合してみせたらそれはもう素晴らしい腕前だって証明できたことになるのかもしれない。


 けど……ブフッ、それでおちんちんとか。

 何でそこを選んだの?

 逆にすごいわ、そいつ。いや部位の提案したのはマイクの方かもしれないけどね。

 ひょっとして、あのイカつい顔やムキムキのボディーに似合わず可愛らしい男の子が付いているのかもしれない。

 もしそうだとしたら……あっはっは。


「ちょっとナオミ、なに一人で大笑いし始めてるのよ! あたしは真面目に相談してるつもりなんだけど!?」

「ごめんごめん、怒らないでよキャサリン。んふふ……それで、どうだった? サイズとか」

「ナオミッ!!」


 怒られた。本気で睨みつけてくる。

 でもでもだってどうしても気になるじゃない。キャサリンだって、当事者じゃなければ絶対突っ込んで尋ねてきたわよ、きっと。

 あはは、最初は最低な話題だと思ってたけど、よくよく聞いてみたらコレ、他人からしてみると最高の娯楽だわ。

 いやぁ実に面白いっ! 最高にクールでキてるわね、ホント。


「気持ち悪くなってすぐに追い返したわよ。あたし、別にバロウルに偏見持ってるつもりはなかったけど、流石にああいうのは……嫌よ」

「なんだ、見てなかったのね。……でもあれじゃない、実は嘘や冗談をついてるだけで、ホントはバロってない可能性だってあるわけだし、実際のところブツを見ない事には判らないんじゃない? 夜にでも確認してきたら?」

「面白がっているだけのナオミにはわからない事だと思うけど、マイクは今まで一度たりともあたしに嘘をついたことないから。だからきっと、本当のことよ」


 あらあら、どうにか疑いの矛先を向けさせて確認させようと思ったのに、上手くいかなかったみたい。

 けどね、あんたの彼氏のマイクだけど、裏で女の子をとっかえひっかえしていることを、私はよく知っているんだからね。

 嘘つきじゃないと信じてるだなんて、ウブな子。

 あ、嘘はついてないか。僕は浮気してまぁーすって公言してないだけの事よね、ふふふ。

 まあ態々私が浮気癖のことばらす必要性もないし、黙ったままにしておこ。

 そんなことより今はマイクのちんこの話よ、ちんこちんこ。


「オーケー分かった分かった、彼氏は嘘をついてない。それでいい?」

「うん、マイクは誠実な人だから、嘘なんてはかないわ。それにこの前だって――」

「あんたのノロケ話はいいから、今は彼氏のちん――おちんちんの話しましょう。それで、結局どうしたいのよあんたは。別れたいの? それとも元のアレに戻してほしいの」

「別れたくないわよ……戻してほしいに決まっているじゃない」


 戻してほしい、ねえ。

 なるほどねえ、それじゃあ彼氏とのあれやこれやなゴニョゴニョも、割と満足しているってわけなのね。

 残念。ちょっと面白くない、蒸し返してやろ。


「なら彼氏にちゃんとそう伝えて――待って、そういえば彼氏って、一体どこまで交換したのかしら?」

「どこまでって……どういう意味かしら?」


 察しの悪い子ねえキャサリン。

 今私たちの周りには他に誰もいないけど、あえて顔を寄せ聞かれない様に囁こうとしているフリをする。

 そしたらキャサリンも熱心な顔で、息をひそめたまま私に顔を寄せてくる。

 私は内心では満面の笑顔を浮かべつつ、表では神妙な造り顔を浮かべてそっと告げる。


「バロウルしたものってさあ、所謂……棒の部分だけだったの? それともタマタマのほうまで?」

「なあああああああっ?!」

「うわあっ、びっくりしたっ! ちょっと、いきなり叫ばないでよもう!」


 顔を近づけていたもんだから、真横で放たれた突然の大声に耳がきぃーんとなってしまう。

 馬鹿っ馬鹿っ、叫び声をあげる時は人の迷惑ってものを考えなさいよもう。


「あああああああんたねえ何てこと考えてるのよ普通そういう事って口にするものでもないでしょ!?」

「いやぁ気になっちゃって。そしたら聞くしかないじゃない、みたいな?」

「だとしても普通言わないッ! 言うにしても、言い方ってものがあるでしょ!?」


 だって気になったんだもん。

 それに、もっとこの話題でひっかきまわしてやりたかったんだもん。

 だからこれはちょっとした好奇心故のお茶目な冗談なのよ、そうお茶目な冗談よ。

 そんなに睨まないでよキャサリンちゃん。


「でも真面目にタマの有無って大事じゃない? いや聞いた限りじゃタマが無いなんてことはないんだろうけど、自前のものがそのまんま残ってるのか、相それとも手のブツと交換済み(バロウル)かってトコ、大事じゃない? 仮にしちゃった上で妊娠までいっちゃってたら、そりゃもうこれ完全に寝取られじゃないの。他人棒でもてあそばれた挙句に子供までこさえちゃったら、いくら肉体本体が彼氏のままでも、浮気以外の何物でもないわよねえ」


 さて、どう出る――?

 怒鳴るか笑うか、それとも泣くかぁ――……


 自分でも自覚できるほど悪趣味な事を言ってみたつもりだけど、意外にキャサリンはすんっ……と冷めた視線を向けてくる。

 ありゃ、押しすぎて壊れたかしら?

 出方が解らず狼狽する私に対し、断りの文句一つ入れずにキャサリンは部屋から出ようとする。


「な、なによぉ……?」


 無視、無視。返事はない。

 キャサリンは徹底的に、私を無視。

 そのまま部屋を後にする――バタン。


 なによもう、あの態度! ちょっとからかってやっただけじゃない。

 せっかく人の貴重なランチタイムの時間を浪費してあげたっていうのに、そのやり返し方はないんじゃないの!?

 私は憤慨する。だけど不満を向けたい相手が居なくなっちゃったから、心の中のもやもやは膨れ上がり続ける一方だった。


「結局どこまで交換したのよ! タマまで!?」


 答える主はいない。

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