CHAPTER 1 面接
令和二年。四月十日。午後十三時四十六分。あの凶悪な事件が発生・発覚した。
「・・・・・・助けて・・・お願いします、助けてください」
神奈川県横浜市にある交番にヨロヨロと歩きながら、一人の少女が助けを求めた。
「だ・・・大丈夫か君!!」
「何があったんだい!?」
「か・・・・・・家族が・・・女」
「お・・・おい、君しっかりするんだ!! 取り敢えず、救急車を!!」
「は・・・はい!!」
交番には二人の警察官がおり、二人は少女に駆け寄り、それぞれ言葉を投げ掛けた。しっかし、少女はなにやら途切れ途切れで、必死に二人の警察官に何かを告げようとしたが、その場で気を失ってしまった。
それから、少女は一人の警察官が呼んだ救急車に運ばれ、都内の病院に担ぎ込まれた。これは、事件調査ファイルからの情報だが、病院に担ぎ込まれた少女は命には無かった。
「お疲れ様です!!」
同日深夜。東京都木生松町にある一軒の家に前に数台のパトカー・覆面パトカーが停車していた。この、状況からしてこの家で何があったことは一目瞭然だろう。
「死因はなんだ?」
「中毒死のようです。一家全員が・・・」
「中毒死!?」
家の中では、リビングだと思われる部屋の中で、三十代ぐらいの夫婦とその親族と思われる老人が倒れて、亡くなっていた。
先程到着した、男性の刑事、三松健三警部補が一足先に鑑識と共に現場に到着した雀原凛に被害者の死因を聞いた。
鑑識のみかいでは、被害者たちの死因は中毒死。そして、後に調べたところ一家は全員がアレルギー中毒で死亡したことも明らかとなった。
一家全員が謎のアレルギー中毒死をした、事件の翌日。神奈川県警察学校の一室では警察官を夢に見る若者たちの面接が行われていた。
「私、音無春馬はこの神奈川県の市民を守るために、警察官になることを志望しました。家族構成は母、父、祖母の三人家族です。父はプロの格闘家。母は派遣会社で働いています。祖母は家で家事をしてくれています。兄妹はいません。悩み事なし。前科はありません。特技・趣味は筋トレ、将棋、格闘技です。これで以上です」
「・・・・・・専門学校を卒業し、保育士となったがたった三ヶ月で退職、それは何故だ?」
「はい。自分の元々の夢は警察官になることでした。しかし、高校に入り、ボランティアで子どもたちと触れ合うに連れ、保育士の道に進みたくなり、保育士の専門学校に行き、念願の保育士になりました。しかし、そこで私はうっかり子どもたちに私の夢を話してしまったのです。それを聞いた子どもたちに次々と「夢を叶えて、先生!!」と言われ、子どもたちとの約束を果たすために再び警察官になることを決めました。以上が理由です」
「なるほど。分かった。下がれ」
「失礼します」
前職が保育士という異色の職歴を持つ青年、音無春馬が面接を受けていた。音無は保育士の退職理由を聞かれても戸惑うのが普通の筈だが、一切戸惑わず、冷静に退職理由を面接官に説明をした。
最後の質問も終わり、面接官から退室を命じられ、音無は一礼をし、退室した。
「・・・・・・発言に信憑性が無いわね。彼」
「そうか?俺には本当のことを言っているようにしか、見えなかったが」
「一応、私は警察学校で長年教官をやっていたので、あれぐらいの嘘は分かります。長原教官こそ長年現場で刑事をしていたのだから、あれぐらい分かって当然だと思いますけど」
音無が退室すると、面接官であり、この警察学校で十年間教官を務めている、花山恭子が手元にあるノートパソコンを弄りながら音無が答えたことは全て嘘だと断言をした。
「・・・・・・なら、俺からも一つ言われてもらおう。あの学生は今直ぐにここに戻ってくる」
もう一人の面接官であり、今年、この警察学校の教官となった成宮大輔はそう断言した。
─────────コン コン コン コン コン
成宮がそう断言した直後、面接室のドアが数回ノックされ、ガチャりと扉が開いた。入ってきたのは次の若者では無く、先程面接を終えたはずの音無だった。
「すいません。先程教官たちの話を偶然耳にしてしまい、一つだけ意見があって来ました」
「・・・・・・なんだ?」
音無は無言で、花山の前まで足を運び、教官たちに一つ意見があると言った。花山は視線を手元のノートパソコンから音無に移し、音無の意見を聞く姿勢をとった。
「私が、花山教官の質問に答えたことは全て本当のことです。もし、疑っているのなら私が勤務していた保育園の園児たちに聞いてみてください。そうすれば、私が嘘をついているかどうかは一目瞭然なので」
「お前が、訂正したいことはそれだけか?」
「はい、それで全てです」
「分かった。確認のため、お前が勤務をしていたという保育園の園児たちに話を聞いてみよう」
「はい、お願いします。では、失礼します」
音無が意見したことは、保育園を退職した理由についてだった。何故花山教官たちのやり取りが聞こえていたのか、それは、音無の聴力はとても良く、数メートル先に落ちた針金の音でさえも判別することが可能だったからだ。
音無は、もし自分が応答したことを疑っているのなら、園児たちに聞いてみるようにと言った。それに対し花山は念の為園児たちに話を聞いてみることにすると言い、音無は再び面接室から退室をした。
「はぁ・・・・・・、アイツの聴力は一体どうなっているんだ?」
「資料によると、彼の聴力は数メートル先に落ちた針金の音でさえも聞き分けることができるらしい」
音無が退室すると、花山は音無の聴力に対して一言、言葉を漏らした。
「全く、今回の学生たちは変わり者ばかりだな・・・」
花山は手元にある3枚の資料を見ながら、そう呟いた。