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サバイバー・ソロモン  作者: オウルマン
第四章 南西大陸の聖女様
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第7話 長い旅

 南西大陸行きの旅は、四頭の馬が引く大型の馬車が一台と中型の馬車が二台の計三台で行っている。一行のリーダーはハルドフィン家のお抱えの男性使用人。年齢は今年で五十歳というが少なくとも十歳は若く見える。整った髭にガッシリとした体型で、護衛役も兼ねているという。


 大型の馬車は元の世界でいうとキャンピングカーのようなものだ。内部は二つのスペースに分かれている。簡易ベッドと小さな机が備わっているベルティーナお嬢様専用のスペースと、お嬢様の世話役の女性使用人が二人――要はメイドさんだ――が乗るスペース。


 更にお湯を沸かすことが出来る魔力式の小型加熱器を備えているので、走行中でも紅茶が飲める。振動を抑える装置が床下に備わっているので意外と快適。きっと価格は桁が違うのだろう。


 他の二台は護衛役や御者役の交代要員が乗る馬車。旅に必要な物資の大半を積んでいるのでほぼ貨物用である。ヴィクトルはこっちに乗っている。


長い長い旅。ソロモンはお嬢様の客室に招かれ暇潰しの相手を務めていた。将棋盤と駒一式。彼女が来た時には存在しなかった娯楽。


 三セット持ち込んだので残りは他の同行者に貸し出した。予想通り彼等はドハマりした。


 旅の最初、所要時間が最短で二週間と聞いたソロモンは思う。


 長い。長すぎる。飛行機があれば一日で着くのにな。逆によく彼等はここまで来たものだ。


 フェデスツァート帝国は北方大陸の西側にある。そこから南西大陸へは真っ直ぐ南下すればいい訳だが、実際は地理的な問題でおおよそ蛇行しながら進んで行かなければならない。


 最初の中継地点、港湾都市ケステンブールまでは比較的平坦な道だ。ここで宿を取り次の日の午前中に出発する大型旅客帆船に乗る手筈を整える。リーダーが率先して動き手際良く準備を進めていく。彼は相当旅慣れているようだ。


 ホテルのグレードは上の中といったところ。要は富裕層向けだ。チョイスしたのはリーダー、理由は勿論ベルティーナお嬢様である。


 ハイグレードのホテルは大抵、メインの宿泊客用の部屋とは別に使用人用のシンプルな部屋とセットになっている。ここもそうだ。


 メイド二人はベルティーナの部屋の隣で、他の同行者は隣の棟の多人数用部屋。このホテルは男性客と女性客とで棟を分けている。


 他の同行者ということは、ソロモンとヴィクトル――男性扱い――も使用人用の部屋を使う。帝国貴族である件は伏せたが、城主で領主の身分をリーダーは知っている。なので受付時にお嬢様と同じグレードの客室を礼儀正しくオーダーしてくれたのだが、

「俺は庶民派なのでこっちの安い方でいいです」


 と言って悪いなと思いつつも彼を横で止めた。高い部屋は落ち着かないし、旅費の節約もある。部屋代を出してくれると言われれば、申し訳なくて首を縦には振れない。


 ヴィクトルと二人用の一部屋があればいい。


 午後の自由時間。ソロモンはヴィクトルと共に海沿いを歩いていた。ケステンブールには去年お遣いで来たことがある。陸路での輸送路を中心とした立体的な構造。貨物船と旅客船を分けた港。今日も大小様々な船が行儀良く並んでいる。


 ヴィクトルの水上歩行能力を試してみたかったので、丁度良さそうな場所を探していた。


「あの辺で試してみようぜ」

 ソロモンが指差したのは船舶が泊まる港から離れた場所。開けていて海面までの高さが比較的地面と近い一角。防波目的で積まれた石垣があった。


 ヴィクトルは頷き海に近づいていく。石垣を乗り越え海面へ降りる。躊躇う様子は全く無い。


 ソロモンは石垣に寄りかかるように覗き込む。少しの水飛沫と僅かな水音がした。ヴィクトルは海面上に立って見上げている。


「浮かぶ……ていうのとは違うな。波で揺れている訳じゃない。ちょっと動いてみてくれよ」


 ヴィクトルは歩き出した。指示を出したわけではないが、走ったりジャンプしたりと海の上を動き回る。何を思ったのか反復横跳びをやり始めた。


 動きを見る限り地面の上と変わらんな。飛び跳ねても沈む様子は無いし僅かな水飛沫が上がるだけか。


「オッケー、役立つかは分からないが凄いスキルだってのは分かった。戻ってこい」


 ヴィクトルは石垣を乗り越えて地面に戻った。大して苦労をしたようには見えないし、何かが変わったようにも見えない。


 靴が僅かに濡れたぐらいか。ふーん。流石は人魚の姿をした悪魔の強化、といったところか。


 二人は今晩泊まるホテルに戻った。利用客は皆明らかに大富豪感が漂う面々とお付きの者達だ。


 場違いだよなぁ俺達は。見た目はただの護衛役で雇われた下っ端だしな。


 翌日の午前美味しい食事をたらふく食べて一行は船旅へ。選んだ船は馬車ごと乗り込める大型帆船。旅客用と貨物用のスペースが半々ずつだ。


 甲板上から海を眺めるソロモンは思う。


 長い。長すぎる。帆船じゃなくエンジン付きの船ならもっと早いんじゃないのか。


 船は何事も無く次の中継点、中央大陸ラグリッツ王国の港湾都市フラスダへ到着。ここまでは昨年の夏頃に来たことがある。


 あの時はラグリッツが大騒ぎで首都から逃げてきた人達がフラスダに溢れていたな。まるで難民キャンプみたいだった事を思い出す。


 お遣いついでに内情偵察。ライノックス修道院と議会の本部での救出作戦。ガルガヴァルの宝玉で見た未来で出会う人達。帝国貴族ロアロイト・ケステンブールとベルティーナのお姉さんのミレイユ夫人。ラグリッツの王子とバーレクス議員にも会った。


 この世界に来てから初めての長旅だった。しかし今回の旅はまだ序盤。


 ここからは先は俺にとって未知の場所。好奇心があるが他のプレイヤーに会う恐怖心もある。


 ミサチやミウラと戦った時とは違って、この先は孤立無援を覚悟しないとな。ベルティーナさん達を俺の私闘に直接巻き込む訳にはいかないし。


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