第6話 いざ南西大陸へ
厳しい冬を乗り越え、もうじき二月も終わる頃。気温は上がり積もった雪が溶け始めている。
ソロモンは執務机に座りペンを走らせていた。
資金は有る。工事計画はエルドルト行政官からゴーサインが出た。準備が整い次第向こうの開始する予定だからこれはいい。後はもう一つの計画の方だが。
ソロモンはエウリーズの元へ相談に訪れた。彼も何やら書き物をしていた。
「一つ、相談があるのですが」
「プレイヤーを探しに南西大陸へ行くつもりかしら?」
「……分かっていらっしゃる。もうじきベルティーナさんが帰るので同行しようかと。彼女の故郷が南西大陸なので、向こうの土地のこととか知ってるだろうし……」
エウリーズはペンを置いて笑った。一年に満たない付き合いでも、彼はソロモンの理解者であった。知識の提供者だけの関係ではない。単純な利害関係だけで繋がっている訳でもない。
「いつか追い着かれる運命なら、自ら会いに行く。それがソロモンちゃんの意志、そうでしょう」
「そうです。昨年戦ったミウラが言ったんですよ。欠損した腕や足を元に戻す能力を使う医者が南西大陸にいるって噂を。ゲーム開始時の初期配置を散らしていたから、南西大陸からスタートしたヤツが今もそこに居る可能性はあります」
今回は事前に能力のヒントがある。予想されるのは治癒能力の類いだ。もしそうなら攻撃能力は低い可能性がある。
エウリーズは机の上で両手を組んだ。
「領地開発の段階なら大した仕事もないでしょうし、城主の代理を引き受けるくらいならいいわよ。ここには研究所もある訳だしね。ただワタシはステルダム家から呼び出しがかかったから、代理の代理を置いておく事になるけどそれでいいかしら?」
「ええ構いません。ありがとうございます。それともう一つ」
ソロモンは計画書を見せた。パソコンなんて便利な物は無いので当然手書きだ。エウリーズは一度目を通しただけで、感心したように顎元に手を当てた。
「なるほど。そういうことね」
ソロモンの意図を彼は理解した。
「学校の授業なんて、将来あまり役に立たない事ばかりだと思っていました。でも別の世界なら役に立つこともある。大昔に俺の世界で実際にあった事を参考にして、この計画を思いついたんです。プレイヤー情報がガセだったとしても、これなら得るものはありますよ」
「確かにそうね。でも上手くいくかしら?」
「分かりませんがやってみますよ。上手くいく保証が無いのは承知の上なんで」
計画は練った。後はやるだけ。
三月の半ば頃ベルティーナに実家が手配した迎えがやってきた。ソロモンとヴィクトルの同行を申し出たところ、
「同行して頂けるなら心強いです。是非ともいらしてください!」
最高の笑顔で許可してくれた。
出発の日、空は晴れ渡っていた。十分な量の物資を積み込んだ超長距離移動用の大型馬車は、澄んだ空気の中を進み始めた。
馬車が門を潜った時、ベルティーナは男性を引き込む魅力的な笑顔をソロモンに見せた。




