第5話 知識をお金に
ソロモン城研究所。エウリーズ達がソロモンを囲んで覗き込んでいる。
「駒は円形にカットした木材の表と裏を、黒と白で塗り分けたモノです。これを黒側と白側に分かれて交互に盤面に置いていきます。相手の色の駒を縦か横に挟む形になると、その間の駒をこんな風にひっくり返します」
説明しつつ実演してみせる。技術者達は基本的に頭脳派、すぐにどういうゲームなのかを理解した。
「最後は白の駒と黒の駒の数を数えて、多い方が勝ち。俺の世界では『オセロ』もしくは『リバーシ』と呼ばれるゲームです」
感嘆の声を上げる技術者達。ソロモンは同じ駒を使ってもう一つのゲームを説明する。
「白側と黒側に分かれて交互に駒を置いていくのは変わりません。こうやって置いていって……」
テンポ良く盤上に駒を置いていく。
「縦・横・斜めどの方向でも良いので、先に自分の色の駒が五つ並んだ方が勝ちです。これは『五目並べ』と呼ばれるゲームです」
再び感嘆の声が上がった。
「異世界風将棋のボードをそのまま流用出来るので、駒だけ作れば両方遊べますよ」
「いいわね。じゃ、これも商品化ね」
エウリーズは即決した。直ちに商品サンプルの発送準備に取り掛かる。翌日の朝にはステルダムへと送られていった。武器や兵器の研究は継続しているが、売れそうな商品も大歓迎しているのだ。
懇意にしている帝国商人シェイラに現物を見せて意見を聞いてみた。
「良い商品じゃない。是非ともウチで取り扱わせて頂戴」
お墨付きが出た。それを聞いたエウリーズは販売戦略の一つとして提案を持ち掛ける。
「もしよかったら優先的に仕入れられるように紹介状を書いてあげてもいいわよ? 特約は付けさせてもらうけれどね」
エウリーズとシェイラ間で交渉が行われた。
特約は仕入れ代金を現金一括で払うことと、優先して卸した分は全て隣国のアスレイド王国で売り捌くことだ。
工業都市でもあるステルダムは、目先の利く商人達によって強力な流通網が形成されている。大抵は帝国内で売れて評判になってから他国へ輸出されるが、今回は商品が良いのだから先に輸出ルートに乗せてしまおうという戦略である。シェイラがアスレイド王国側の市場に強みがある、という事に目を付けたのだ。
このような手を速攻で打つあたり、流石は帝国貴族といったところである。その戦略に乗ることを即断するシェイラも流石のやり手っぷりだ。
エウリーズは一筆書いた紹介状を彼女に渡した。ステルダムを牛耳る帝国貴族の紹介状は強力だ。
「後は結果を待つだけね。さ、五目並べで一勝負しましょ」
休憩時間や夜の自由時間になると、技術者達はボードゲームに興じ始めるのだ。強い要望により、正門館の一室を遊戯室にして自由に遊べるようにした。使用人達も仕事が終わった後は混ざって遊んでいるようだ。
勿論ベルティーナもその一人である。最近は古びた蔵書の山よりもボードゲームにご執心だ。彼女はエウリーズ達とは違い本館に部屋があるので早々に引き上げるが――。
「ソロモン様、お相手をお願いできますか?」
内側の階段を使って毎晩のように城主室を訪れる。曰く、あまり勝てなくてちょっと悔しい。ということで、この世界では一応生み出した人扱いのソロモンに特訓をお願いしてくるのだ。
今宵もソファーに腰掛けて将棋を指す。入浴後の良い香りを纏って来ることが多いからほんの少しだけ集中力が落ちてしまう。
皆楽しんでくれたならこういう物もいいね。
皆が寝静まった後も一人で遊んでいる為なのか、ヴィクトルの強さがとんでもないことになっている。勝負事に手を抜かない性格なのかもしれない。
元の世界の娯楽を持ち込んでから一ヶ月半後。城主室の執務机に革袋をひっくり返す少年城主ソロモン。
「笑いが止まらんなぁ。絶対ウケるとは思っていたがねぇ」
小気味の良い音と共に黄金色の輝きが姿を見せた。その数は八枚、ピッカピカの金貨だ。製品版の将棋セットと、オセロ・五目並べが遊べる白黒の駒セットと共に、ステルダムから報酬として送られてきた。
「ヴィクトル見てみ。良く出来てるぞ~」
将棋盤と駒は木製で元の世界の物よりも大きめ。指先で摘まみ易いように作られていた。将棋の駒は一目で分かる絵が描かれている。どちらも元の世界では無かった工夫だ。
白黒の駒は鉱山や採石場でよく採れる石を加工して作られていた。簡単に加工が出来るが、強度が微妙で建材などに使えず使い道があまり無い石らしい。原材料が安上がりという話だ。
ボードゲームはステルダムで爆発的な人気が出たようでエウリーズ曰く、
「新製品の売り出し方は上手いし、冬は外出する機会が少なくなりがちだから室内で楽しめる遊びには食い付きいいのよねぇ」
売り切れ続出の大ヒット商品になったようだ。




