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サバイバー・ソロモン  作者: オウルマン
第四章 南西大陸の聖女様
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第4話 悪魔のワード

 昼食時にダラダラと起き出してきた技術者達。彼等は二日酔いを忘れて将棋に熱狂していた。一発で心を鷲掴みしてしまったようだ。


 普段なら食事が済んだらすぐに自室に引き上げるベルティーナも、今日はその輪の中に入っていた。ルールを教えたのは言うまでもない。


「時間をくれれば何セットも作りますよ。そんなに凝った作り方をしていないんで」


 手が空いている技術者に手を貸してもらい更に四セット作った。変に拘らなければ簡単に作れるのだ。


 最初は説明役だったソロモンも途中から参戦。ヴィクトルも参戦。


 相手を変えながら勝った負けたのが続く。一言で状況を説明すると大騒ぎ、だ。


 対局者は、心理戦をしているのか考察しているのか分からないぐらい口数が多い。観戦者も好き勝手に口を出す。


 経験者でありこの世界に持ち込んだ張本人であるソロモンは連戦連勝だった。大人気ないかもしれないが、勝負事には基本手を抜かない性分である。夕食前、そのソロモンに唯一黒星を付けた男がいた。


「あっ、やっべ……」


 しまった、という表情のソロモンに予想通りの手が打たれた。戦車が利いた縦筋に駒を飛び越す騎馬兵で押しだし、間の将軍の横に遠くから斜めに動く駒を打つ。今日現れてサポーターの情報をくれた悪魔にちなんでフェネクスと名付けた『成り角』だ。


 悪魔を従えた王に不死鳥の悪魔でトドメを刺したのは、使い魔であり相棒のヴィクトルだった。


 夕食後も遅くまで食堂でワイワイやっていた。昼まで寝ていたエウリーズ達は兎も角、朝早くから起きているソロモンは流石に疲れてきた。なので疲れ知らずのヴィクトルに任せて部屋に戻った。


 次の日の朝、食堂には一人で駒を動かすヴィクトルが居た。


「一晩中やっていたのか?」


 欠伸をしながら声を掛けたソロモンに、二回首を縦に振った。


「朝ご飯前に一局指すか」


 ヴィクトルは頷いて盤上に駒を並べ始めた。


 一晩でどれだけ強くなったのか試してみるか。


 ソロモン、ドラゴンと将軍に王が追い込まれ約六十手で投了。


 起き出してきたエウリーズに聞いたところ、全然ヴィクトルに勝てなかったらしい。


 多分だが集中力の影響もあるんだろうな。頭を使うゲームだ、疲れたり眠くなったりしてミスだって増えるだろう。ヴィクトルにはこの弱点が無いからな。


「それでねソロモンちゃん。このボードゲーム商品化して売り出さない? きっと大儲けできるわよ。勿論ソロモンちゃんにも分け前を出すわ」

「……ホントに?」


 ニヤけるソロモンにエウリーズはハッキリと、

「大ヒット間違い無しよぉ。奥深くて面白いし、見た所材料費はそんなに掛からないみたいだから安く売れそうだしね。まぁもう少し出来は良くするけども。ステルダムなら上手い事売り出してくれる筈よ」

「よし! やりましょう!」


 ソロモンとエウリーズは固い握手を交わした。


 分け前は領地経営の資金に当てればいいな。


 意気揚々と城主室に戻ったソロモン。初めて会うが知っている客が来ていた。


 鷲の上半身と獅子の下半身を併せ持ち、伏せの体勢でもソロモンを見下ろす程の体高がある。見た目は明らかにモンスターだが……。


「グリフォンの悪魔、か?」

「悪魔はボクだよ。グリフォンかヒッポグリフがキーワードだったんだけどね」


 折り畳まれた翼と獅子の体の陰から兵士の姿をした青年が名乗り出た。


 グリフォンが本体じゃないんかーい。


「ボクは『ムルムル』。グリフォンに乗る悪魔さ」


 ソロモンは指を鳴らして、

「大当たり引いてた! ラッキー」


 ムルムルは笑い、彼の相棒であろうグリフォンも鳥獣の高い声で鳴いた。


「でもさ、どうして昨日来なかったんだよ。条件は満たしたんだろう?」

「あれ? バエルが最初に説明しませんでしたか? 連続して強化はしないって」


 ソロモンは黒髪を掻いた。


「そうだったっけか? まぁいいか。一日遅れって事だろ?」

「はい、条件を満たしても前回の強化から二十四時間経たないと強化できないルールなんです」

「そうか、いいよ。それじゃあ強化を頼むよ」


 ヴィクトルはグリフォンを眺めていた。何を思っているのかは分からない。グリフォンの方は目を見開き頭を近づけてヴィクトルの様子を窺っている。


「ボクからは『腕力強化』か『脚力強化』か『耐久力強化』の選択制になります」


 要は、攻撃力か機動力か防御力かだよな。よし今回は……。


「腕力強化で頼むよ」

「分かりました少々お待ちを」


 いつも通りの黒い霧。姿形は変わらない。両手を開いたり閉じたりしている。


「フェネクスはタウでしたよね。ボクはラムダにします」

「『ハイスケルトンラムダ』だね。ありがとう」

「いえいえ。今後とも我等ゴエティアを宜しくお願いします」


 グリフォンと共に頭を下げたムルムルは音も無く消えた。


 ムルムル、礼儀正しかったな。


 次の日、朝食後に城主室に戻ると今日も悪魔が来ていた。毛並みの良い白馬に螺旋模様の一本角だ。


「ユニコーンか。名前はユネクスとかか?」

「『アムドゥキアス』だよ」


 全然違うじゃねーか。


「ソロモン氏、ベルティーナ嬢はいつ攻めるのです?」

「彼女は敵じゃねーよ。見てたんじゃねぇのかよ」


「そう意味じゃなくてね。手籠めにしないのかなぁってだね」

「するかアホ!!」


 アムドゥキアスは心底残念そうな顔だ。


「城主様なんだからさ! 思い切っていこうぜ!」

「いく訳無ぇだろ」


「あのお嬢様は処女だ。間違い無い。今がチャンスだ!! 行くんだソロモン!」

「煽ってんじゃねーぞ。アホなこと言ってないで早くヴィクトルを強化しろよ」


 今まで出会った悪魔達の中で一番ウザい。


「まぁまぁ強化は後でも。貴方は思春期真っ盛り。あんなに美人でスタイルが良くて、おまけに胸も豊かで大きいのに無視するなんて勿体ないですよ。とても気持ち良いですよ」

「俺が手を出した方が見ている方は楽しいってか? 確かにベルティーナさんは素敵な女性だと思うよ。でもな……」


 ソロモンはアムドゥキアスを睨みつけた。


「勝って元の世界に帰る為に命賭けで戦っているんだ。この世界で男女のお付き合いをするつもりは無い。ましてや不誠実で悪人みたいな行為は絶対にしない」

「真面目すぎ。意志が固いですねぇ」

「そういうことだ。分かったら早く強化してくれ」


 ヴィクトルは黒い霧に包まれた。


「ボディに対魔力コーティングを施したよ。これで魔力の影響を受けにくくなった。攻撃魔法のダメージを抑えられると思う」

「魔法耐性みたいなもんか……」


 鎧で身を包んでいるとあまり意味が無いのではないだろうか。


「それでは『ハイスケルトンパイ』を宜しく。もうちょっと愛に生きてもいいんだよ?」

「元の世界に帰れたら考えるさ」


 一角獣の悪魔は音も無く消えた。ソロモンは椅子に腰掛けて天井を仰ぐ。


 モテたいから頑張っているんじゃない。生きて帰りたいから頑張っているんだよ。


 次の日、また別の悪魔がやってきた。


「キーワードはマーメイドだったか」

「そう、私はこういう姿だから」


 その悪魔は城主室の三人掛けソファーに腰掛けている。上半身が水着に一枚羽織った姿で、下半身が鱗が綺麗に並んだ魚。イメージと寸分違わない人魚の姿。


 水色のロングヘアーは前も後ろも腰元まで届き、前髪が顔に掛かっている。まるで水のカーテンの向こうから顔を覗かせているかのようだ。


「名前は『ウェパル』」

「ウェパルね。よろしく」


 ウェパルは僅かに髪を揺らした。


「ヴィクトルは基本的に、構造上の問題で泳げません。勿論、水中を動く事は出来る。水底を歩く、とか。けれど自力で浮上や潜水が出来ません」

「確かに言われてみればそうか」


 骨だけのヴィクトルが泳いでいる姿は想像出来ない。


「そこで今回の強化ですが、『潜水能力』と『水上歩行』との二択になります。自力で浮上・潜水・潜行が出来るようになるか、水上に立って移動できるようになるか……」

「確認したい。それに何らかの制限はある?」


「水上歩行は脚部や腕部が破損していなければ有効です。潜水能力は頭部が無事なら再生能力と併用で有効です。常時発動するパッシブスキルと考えて下さい。どちらも淡水でも海水でも発動します。但し、潜水能力は沼や液状化した地面では適応されません。水上歩行は適応されます」


 ソロモンは黒髪を掻きながら内容を整理する。


 どちらも有用な能力だと思う。尤も内陸部でしかも山に拠点を構えている現状では、使い所が無さそうだが……。


「別の悪魔が今回選ばなかった方の強化をしてくれる、ということはあるのかな?」


 質問に対してウェパルは口元に指を当てて、

「……ありえます。但しどの悪魔が、は教えられません」

「そうだよな。それならば……水上歩行でいこう」

「わかった。少し待って」


 ウェパルがヴィクトルへ顔を向けると、青いカーテンのような光に包まれた。


 姿形は全く変わらない。そこはいつも通りだ。


「終わったわ。オメガにします」

「『ハイスケルトンオメガ』か。格好良いじゃないか」


 ヴィクトルは首を傾げた。


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