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サバイバー・ソロモン  作者: オウルマン
第三章 魔の領主と大地の勇者
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第3話 大昔の学術書

 食事を済ませ城主室で寛ぐソロモンは、開封を後回しにしていた手紙に手を伸ばした。


 差出人はケステンブール家のロアロイトだ。先月のラグリッツ王国の一件で面識を得た三代帝国貴族の一人である。


 ちなみにヴィクトルは背後から静かに手紙を覗き込んでいるが咎める気は全くない。


 中は二枚。一枚目には先月の件のお礼が書いてあったが本題はその後だ。


『私のお得意様のミレイユ夫人を覚えていますでしょうか? ソロモン様の話をしたところ、彼女から相談を受けました。遠い異国の地で少し羽を伸ばさせてあげたい子が居るから、暫く預かって欲しいとのことです。先月の件で、夫人はソロモン様のことを勇敢で頭が回る人だと大層気に入っていたようで、是非ソロモン様にお願いしたいといっております。滞在費用は出すというので宜しければこの話を受けて頂けないでしょうか?』


 頼み事か。俺って他人から、何かを頼みやすい人って思われているのかなぁ。悪い気はしないんだけどね、どうすっかな。


 もう一枚はミレイユ夫人からだ。綺麗に整った読みやすい字で、お願いできませんかという内容が書かれている。どうやら預かって欲しいのはミレイユ夫人の妹さんのようだ。


 ソロモンは黒髪を掻きながら、お気に入りの肘掛け椅子の背もたれに寄りかかった。


「まあいいか。どうせ俺とヴィクトルしか住んでいないんだし、一人くらい増えてもいいよな?」

 ヴィクトルが大きく頷いたのを、ソロモンは首だけ動かして見た。


「お金を出してくれるみたいだしな。先月の件で結構お金が余った上に、本の売却で入るお金もある。なんとかなりそうだし、この話を受けようか」


 ソロモンは机の引き出しから封筒と便箋を取り出し返事を書き始めた。書いている時はいつも思う。


 通信手段がアナログで不便すぎるぜ。何より遠方と連絡を取るのに時間が掛かり過ぎるのがな。魔法で動く近距離用の通信機があるんだから、遠距離用の通信機もなんとか作れないものなのかねぇ。


 この世界の文字を書くのにも随分慣れた。十五分くらいで封をして机に置く。


 次の日、手紙を出しに帝国側の町へ。戻って来たのは昼過ぎだった。帰ってきて早々手早く昼食を準備する。誰が決めたわけでも無いが、いつも全員で食卓を囲むのがルールみたいになっていた。


 その席でオールトが一つ報告を入れてきた。

「先程、大変興味深い書物が発見されました。少なくとも三百年前に書かれた物の様です」

「そんな古い本があったのか。で、お幾らくらいになるんです?」


 スープに口を付けながらソロモンが聞く。


「それなんですが、件の本はそれ自体よりも内容の方に価値が有る物でして。勿論、買い取りは可能です。写本して複数売却というのも一つの方法ではあります」

「そうか。ちょっとそれ、内容を確認してから決める」


 食事が終わるとヴィクトルに後片付けを頼んで図書室へと向かう。長テーブルの一つに新たな本の山が出来はじめていた。


「こちらになります」

 オールトが差し出してきた本。三百年前に書かれたという割には、そこまで古い見た目では無い。厚さはそこそこある。


 ソロモンは受け取りタイトルを見るが、

「なんだ……表紙にも背表紙にも何も書いてないぞ。古いから文字が掠れたのか?」

「いえ、最初から何も書いていなかったようです」


 ソロモンの疑問にオールトが答えた。


 タイトルの無い本か。何が書いてあるんだ。

 空いている椅子に腰掛けて本を開いた。ページを捲って中身に目を通す。


 右のページに挿絵、左のページに説明文が載っており二枚で一セットになっている。ページの裏には何も書いていないので、不自然な白紙のページが混ざっていた。


「へぇ~興味深いな。これ、大昔の学術書か。人工魔石の作り方に、魔装具の仕組みと設計図か。俺はどっちかっていうと理系だから、こういうのを読むの好きなんだよね。挿絵付きなのが良いよ」


 魔法関係だけではないようで、ページを捲っていくと兵器関係が書かれたページや、見たことが無い姿形の魔物の図鑑があった。


 これは面白い。読み出したら止まらないな。


「その本は別の大陸の古い言語で書かれていて、僕達では読めないのです。ステルダムに専門家がいるので、解読を頼もうと考えたのですが……ソロモン様は読めるようで御座いますね?」

「えっ……ああ普通に読めるけど……。これは今じゃ使われてない文字なの?」

「はい、左様でございます」


 ソロモンは黒髪を掻きながら手元の本に目を落とす。


 理由に心当たりはある。この世界に送られる前に、俺が読み書きを出来るように運営がした。それが標準言語だけではなく、古い言語も含めてのことだった。恐らくはそれで間違いないだろう。


「この本、面白そうだしな。書き写した方を売却する方針でお願いできるかな? 今すぐでなくてもいいからさ、任せるよ」


 オールトは眼鏡を上げて胸を張り、

「かしこまりました。ではそのように手配します」


 返事を聞いたソロモンは、片付けを終えて図書室に来たヴィクトルと共に自室に戻った。


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