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サバイバー・ソロモン  作者: オウルマン
第三章 魔の領主と大地の勇者
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第1話 三大貴族

「お初にお目にかかります」

 来客は大きめの円形の眼鏡を掛けている男性だ。黒の短髪に円形の帽子を乗せ、長方形の手提げバッグを持っている。その後ろには三人の男女。


 帽子を取って一礼をした後、

「ステルダム総合研究所から派遣されてきました。オールト・ウーラと申します」

「遠方からどうもオールトさん、初めまして。この城の城主をしているソロモンです。エウリーズさんから話は聞いていますよ。主任技術者なんですって?」

「はい。僕のことは呼び捨てで構いません。身分は帝国貴族であらせられる城主様の方が上なのですから」

「そうかい? それじゃあ頼むよ」


 挨拶を済ませ中へと招き入れる。彼等はヴィクトルを見ても怖がるどころか、興味深そうに無言で見ていた。


 俺が帝国貴族であることは非公開の筈なんだが。まぁエウリーズさんが仲の良い人に話してるみたいだし、この人もエウリーズさんの紹介で来てもらったからな。


 正門館をソロモンの先導で進む。城が珍しいのか、オールト達は忙しく首を動かしている。


「そういえばオールト主任。俺は帝国貴族のくせにあまり学が無くてね。君に聞けば世間の常識とかは大抵分かるから聞いてみな、とエウリーズさんが言っていたんだけどいいかな?」

 廊下を歩きながら聞いた。


「はい、伺っております。僕で分かることならどうぞお聞き下さい」

 オールトは自慢気に丸眼鏡の縁を上げた。


「ありがとう。では早速聞こう。帝国貴族の中には、自分の家名が付いた大都市を所有してい人が居るよね? それについて聞きたい」

「三大貴族と呼ばれる一族のことですね。分かりました」


 オールトは少し間を置いてから話し始める。


「まずはエウリーズ様のステルダム家です。西の方にあり、学問都市ステルダムと呼ばれております。帝国内でも名のある学校や高度な研究所を有しており、日夜多くの学徒達が学び、様々な研究が行われております。また多くの工場を持つ工業都市の一面もあります」


 オールトはステルダムから派遣されて来た。事前情報では、彼は実力主義の学園で首席卒業した優秀な人材らしい。


「ステルダム家のルーツは、遠方からこの地へやってきた学者なのだそうです。今でも独自の研究施設を持つなど、研究者気質が強いようです」


 それはなんとなく分かる。エウリーズさんと最初に合った時は、ヴィクトルを調べに来ていたからな。


「次は港湾都市ケステンブール。南の海沿いにある海運業の中心地です。海外貿易の大部分を担っています。多くの金と商品が動く経済の大きな柱、という立ち位置です」


 以前行ったことがある。輸送の便利さを追求したような構造だったのを覚えている。


「ケステンブール家は元々何処にでもいるような船乗りだったのですが、商売を始めて財を成しました。三代目で豪商と呼ばれる程になり、四代目は都市の発展に貢献し、五代目で帝国貴族になりました。都市の名前をケステンブールに改名して所有権が認められたのは、六代目の時です。かなり苦労されたそうですよ」

「確かに、並大抵のことではないよな」


 きっと俺なんかでは想像出来ない苦難の道だったのだろう。


「最後は要塞都市ストルクバルン。東の方、隣国の聖エストール王国に近い場所にあります。元は戦争の為の前線基地で要塞化していき、時代の流れで大都市となりました」

「それ、俺も気になってたんだよな。聖エストール王国と戦争中なんだって?」

「ええ、そうです。決着をせずに休戦、再開が続いているんです。最初に始まったのは確か二百年前ですね」


 何処の世界でもあるんだなぁ、こういう戦争は。二百年経っても決着をしないって相当根深い。


「今は休戦中です。正式な終戦宣言がどちらの国からも出ていないので、まだ戦争は終わっていません。国交は断絶状態ですが、休戦期間中は民間での人の行き来や商売はあるようです」


 一同は本館に入り階段を上っていく。


「ストルクバルン家は軍事を司る一族です。対エストール戦では総司令官として何代にも渡り戦い続けてきました。その戦果が認められ、先代当主の時に帝国貴族になりました。帝国貴族としてはソロモン様の次に新しい一族になります」

「軍事の一族か。勝手な想像だけど顔が怖そうだ」


 ソロモンは立ち止まった。


「教えてくれてありがとう。ここがお待ちかねの図書室だよ」


 大きな両開きのドアを押して中へ入る。本館のほぼ中央、三階から七階までの空間を占拠している縦に長い円筒形の図書室。静寂が満ちる中に膨大な書物が眠っている。


 オールト達から歓喜の声が漏れ出る。


「それじゃあ本の鑑定、早速始めてくれるかな?」

「はい! お任せ下さい!!」


 彼等は軽い足取りで近くの本棚へと向かっていく。


「これだけの本の山だ。売れば領地経営の元手はなんとか用意できる筈。その為に鑑定人の手配と買い取りをエウリーズさんに依頼したからな。ヴィクトルもここの掃除、夜通しやってくれてありがとうな」


 親指を立てるヴィクトルは、どこか「やりきったぜ」と言っているようだ。

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