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サバイバー・ソロモン  作者: オウルマン
第二章 対価に誠意を
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第17話 お礼に

 修道院の大食堂にソロモンとヴィクトルは招かれた。長椅子に腰掛け、大人数用の長いテーブルを挟んで老修道女と向かい合う。この場には三人だけ。外に隠していた荷物は回収済みだ。

 今更だけど教会とか修道院に、スケルトンが立ち入るのはどうなんだろうか。アウェーどころが相性最悪じゃないか。

 ヴィクトルは特に変わり無し。相変わらずである。


「私はイレイネ、このライノックス修道院を任されている者です。お二人の名はシアから聞いています。ソロモンさんとヴィクトルさんですね?」

「ええそうです」

 落ち着いた声、皺が目立つが優しそうな顔立ちだ。


「助けに来てくれて本当にありがとう御座いました。皆を代表してお礼を申し上げます」

「どういたしまして。助けになったのなら幸いです」

 お礼を言うイレイネの表情は柔らかい。

「一つ、お話を聞いて頂けますか?」


「……どういったお話ですか?」

「ガルガヴァルの宝玉の事です」

「は? どういうことですか?」

 眉に皺を寄せるソロモン。イレイネは上着のボタンを一つ外し、少し荒れた指先で首に掛かっていたペンダントを取り出した。両手を皿のようにしてその上に乗せ、二人に見せる。


 濁りの無い緑色の石が明かりを反射して、その美しさを見せている。大きさは親指の爪と同じくらい。銀色の枠に収まっている。


「あの……もしかしてこれ……」

「一見宝石に見えますが、これがガルガヴァルの宝玉です。その名の通り、影の神ガルガヴァルの力が宿る石よ」

「嘘でしょ!?」

 思わず声が大きくなる。ソロモンは口が半開きで固まり、ヴィクトルは体を乗り出して仮面越しに手の上を覗き込む。


「本当ですよ。まずガルガヴァルの宝玉がどういった物なのか、というところから説明します。大丈夫ですか?」

「……大丈夫です」

 イレイネの手元から目を離さずに答えた。見た目は高そうな宝石である。

「これには触れた人間に未来を視せる力があるのです」

「未来を視せる力……」

 黒髪を掻きながら宝玉を見つめる。大食堂に静けさが満ちた。

「あの……未来が視えるなら、あの議員さんの言うとおりこの国を救う事が出来たのではないでしょうか? 例えばですけど、この力を使えば打ち出した政策の結果がどうなのか分かる……とか。要は答え合わせができるっていうか……」

「貴方は前の国王様とその側近の方々と同じ発想をするのね。実際そういう使い方を試したことがあるの。私がまだ子供の頃の話ね」

 俺と同じ考えか……。何だろう、何か問題があったのか。


「この宝玉が見せる未来はある決まりがある。それはね、触れた人が未来に出会う人が視えるという決まりなの」

「未来に出会う人……?」

 不思議そうなソロモンにイレイネは大きく頷いて、

「その人は触れた人に大きな影響を与える人よ。運命の相手と表現した人もいたわね。演劇の一場面のように、ハッキリと視えるし声も聞こえるの。既に出会っている人であったり、これから出会う人だったり、人によっては何人も視えたりするのよ」

 宝玉を優しく指で撫でながら説明する彼女の様子を、ソロモンは複雑な顔で見ている。


「前の国王が視たのは、最初に生まれた子供を抱く王妃の姿。側近達が視たのは、自分の息子や娘の結婚相手とかだったらしいわ」

「ということは……この国の未来とかそういうのは視れない?」

 大きく頷いてから、

「そう、これは個人の未来だからたとえ国王であっても国の未来を視ることは出来ない。だからバーレクス議員には知らぬ存ぜぬで通したのよ。過度な期待はむしろ良くないから」

「まあ確かにそうか。国王様が国の未来を視れないんじゃなぁ。これは役に立たないか」

 黒髪を掻きながら天井を見る。


 神様の力っていっても万能じゃないってことか。多分異世界サバイバルゲームなんていうのを始めた神様達の一体だろう。

 おいまてこんなクソゲーを始める力があるなら、この世界の人間の助けになるような物を作れよって話じゃねーのか。

 今回の件とはズレたところに怒りが向き始めたからか、険しい表情に変わるソロモン。


 イレイネは手に乗せた宝玉を差し出して、

「貴方も試してみる? 但し良い未来だけ視えるとは限らない。過去には自分を殺そうとした人や、愛する人を奪う人が視えたことで事件になった事があったわ」

 ソロモンは緑色の輝きを見つめながら黙ってしまう。


「……良いんですか?」

「ええ、無用な争い事になりそうだから使わせないようにしていたのだけれど、助けて頂いたお礼が言葉だけだというのもどうかと思ったので。いかがかしら?」

 ソロモンは暫く黒髪を掻いていた後、

「じゃあ良い未来が視える事を願ってちょっとだけ……」

 皺が多い手からガルガヴァルの宝玉を摘まみ上げる。


 近くで見るとただの宝石だが……ん!?

 一瞬で黒い紙が目に張り付いたかのように目の前が真っ暗になった。

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