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サバイバー・ソロモン  作者: オウルマン
第二章 対価に誠意を
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第16話 約束の為に

「貴様のような人間に居座られると迷惑だ」

「それはお互い様だろう」

 平行線が続くソロモンとバーレクス。そんな中、修道院側のドアを強引に開けてバーレクスの部下達が突入してきた。

「ボス! アイツです! あいつが俺達をボコりやがったんだ!」

「分かってるよ」

 バーレクスはソロモンを指差して騒ぐ手下達には目もくれない。


「やむなし、先に手を出してきたのはそっちだ」

 バーレクスが掌をソロモンに向けた。その意味をすぐに察したソロモンは、フラシル像の後ろに退避。予想通り攻撃魔法が飛んできた。赤色の球体だ。

「ケンカを売ったのは俺の方だってのは正しい――あっちぃ!? 着弾点から熱波を発生させる魔法か。戦闘開始だヴィクトル!!」

 ソロモンが指示を叫ぶが、実はバーレクスが攻撃魔法を放った瞬間から近くの手下へ攻撃を始めていた。刺突をせず、槍を振り回し殺傷力が低い打撃で攻める。この場は極力人殺しはしないという、ソロモンの方針を忠実に守っているからだ。


 修道女達の悲鳴が響く中、戦いの火蓋が切って落とされた。開戦早々に手下達はヴィクトルを相手に、バーレクスはソロモンと一対一の様相に。

 熱波の魔法を連射するバーレクス。フラシル像を盾にして直撃は避けているがソロモンは動けずにいた。

 魔装弓で応戦しようにも発射間隔が短すぎて隙がねぇな。つーか直撃を避けても熱波が届いてクソ熱いんだが!


「神様の像に遠慮無く魔法を撃ち込むなよ」

「お前がそこから出てくれば良いじゃないか」

「海の女神フラシルって何となく火とか熱とか強そうだけどさ。神様に頼ろうっていうんだから止めとけよ。印象が悪いぞ」

「盾にしている貴様も大概だろうが」

 魔法によって生み出された熱はじわじわとフラシル像の周辺に溜まっていく。火傷する程では無いが、これが続くとどうなるかわからない。

 防戦一方のソロモンに対してヴィクトルの方はというと、

「ボス! 助けて下さい! ボス!!」

 無双状態だった。手も足も出ない手下はバーレクスに泣きついた。


 槍を振り回し盾を構えてのタックル。命に関わるレベルの攻撃ではないが、手下達の心を次々とへし折って戦意を砕いていく。無言で攻撃し疲れ知らずのヴィクトルに恐怖した丸腰の手下達は早々に逃亡した。

「もう少し踏ん張れよ! 数はこっちが多いだろ!!」

「いやムリっすよ、アイツ戦い慣れしてますよ。こんな所に乗り込んでくるぐらいだ、絶対素人じゃないっすよ!」

「寄せ集めでも根性見せろ!」

「ムリっすよ!! ボスの魔法で何とかして下さいよ!!」

 泣きつく手下に、我先にと教会から飛び出していく手下達。フラシル像の影から、ソロモンはその様子を見ていた。


 あいつら弱すぎじゃね。予想外の弱さだぞ。まともに戦えるのあの議員さんだけかよ。

 手下達を一通り蹴散らしたヴィクトルは、バーレクスに狙いを変えて近づいていく。盾を構えながら歩くヴィクトルに、バーレクスは容赦無く攻撃魔法を放った。

 間髪入れずに放たれた赤い球体が金属の盾や鎧に直撃する。それでもヴィクトルは止まらない。


 物体を破壊するんじゃなくて急速に熱する。魔力が着弾後、瞬間的に熱エネルギーに変化するのがあの魔法か。普通の人間には効くだろうが……まあ、ヴィクトルには効かないよね。

 無言で接近してくるヴィクトルにバーレクスは舌打ちして、一瞬魔法を止めた。


「これならどうだ!」

 向けられた掌に、今度は黄色い光の球が現れる。それはヴィクトルへ向けて発射された。

 黄色い球体が当たった盾は光を発し、断続的な音を発する。音と光はすぐに消えた

「流石ボス! 金属の鎧を貫通する雷魔法が使えるなんて凄いっす!」

 手下が賞賛の声を上げたが、バーレクスは眉をひそめた。


 雷魔法……あのバリバリって感じの音は電気か!? 魔力が電気エネルギーに変化して金属の盾と鎧に流れたのか。

 ヴィクトルは一瞬動きを止めたがすぐに動き出す。それを見たバーレクスは雷魔法を続けて発射。電撃特有の音が轟き、閃光が広がっていく。

 連射を全て受けてもヴィクトルは動き続けていた。無言なのが不気味さを増し、恐怖の気配がソロモン以外の全員に広がっていく。

 まあ……ヴィクトルには効かないよね。

「ボス! 全然効いていないみたいっすよ!? どういうことですかボス!?」

「わからん、何らかの魔法対策をしているのかもしれない」

 予想外の事に慌てても攻撃魔法の手を緩めないバーレクス。ヴィクトルは熱と電撃をものともせずに槍を振り回し始めた。バーレクスは躱したが、手下は二振りめで直撃を食らい涙目で出口にダッシュ。これで残りはバーレクスだけになった。


 攻撃魔法とは相性が良いんだろうな。もうヴィクトルだけで良いんじゃないかとは思うが……。

 ソロモンは魔装弓を起動させ、矢筒から矢を取り出した。矢を番えつつフラシル像の影から移動。射線上に修道女達が入らない位置へ。

 ヴィクトルに任せきりで見ているだけっていうのはいい気がしない。

 槍を掻い潜るバーレクスの隙をついて矢を放つ。矢は僅か数センチ横を通過し床に落ちた。

 外してしまった。まだまだ実践で使うには練習不足か……。

 しかし全く無駄だったわけではない。矢に気を取られた隙に槍の横薙ぎが決まった。体勢を崩しよろけるバーレクスに、ソロモンは素早く近づき剣を突き付ける。ヴィクトルも槍の先を向けて戦闘行為を中断した。


「勝負有りだ、降参しろ。議員さんの手下達も全員逃げた。ガルガヴァルの宝玉は諦めて引き上げてくれよ」

 提案に対して舌打ちし、

「魔法に自信があったんだが、全く効かない相手が居るなんてな。力尽くでどうにかしようって考えは、やっぱり間違っていたか」

 戦う意志は完全に無くしたようだ。

「よし、じゃあさっさと帰ってくれ。これでお終いだ」

「そうする。悪かったな」

 腕を摩りながら出口へ歩いて行くバーレクス。


「今夜はヤケ酒でもしてガルガヴァルの宝玉のことは忘れちゃいなよ」

 ソロモンなりに気を使った言葉。背中を向けたまま手を振る、これが返事だった。


 見えなくなるまで待った後、

「これで約束は果たしたよね? 俺達も帰るよ」

 剣を収め、手でヴィクトルに合図を出して歩き出した。


「お待ち下さいな。お礼の一つも聞かないつもりかしら?」

 呼び止めたのは老修道女だった。


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