第13話 潜入、ライノックス修道院(前編)
一階の廊下を警戒しながら進む。巡回と鉢合わせにはなっていない。
「おっと」
先頭を歩いていたソロモンが止まる。部屋の一室から明かりが漏れているのを見つけたのだ。掌を後続の二人に向けて止まれの合図。
「この部屋、中から物音がする。誰か居るみたいだから見てくる」
聴覚に神経を集中させてから半開きのドアをゆっくりと開ける。剣に手を掛け、息を殺し、忍び足で室内へ。
一人発見。
体つきからして間違いなく男。チェストを漁っている。
ゆっくりと背後に近づいていくソロモン。
あっ、こいつまさか……。
ソロモンが立ち止まったのと男が振り返ったのは同時だった。
男は慌てて両手を後ろに動かす。明らかに何かを隠そうとしている動き、男が何を隠そうとしたのか見当が付いている。
半開きで中身が見えるチェストを見やり、答えが合っていることを確認した。
「アンタ下着泥棒をする為に来たのか?」
「い……いや……そういう訳では……。ちゃんと探しているよ? うん!」
明らかに焦ってるし目が泳いでいる、図星だ。
軽蔑の目を向けつつ、剣から手を離さずに相手が武器を持っているかを確認。丸腰のようだ。
「何を探すのか分かっているのか?」
仲間ではないことを悟らせないように堂々といく。
「勿論分かっているよ? 『ガルガヴァルの宝玉』だろ? ちゃんと探しているって」
落ち着かない様子の下着ドロを睨みつける。
「べ……別にいいじゃないかちょっとぐらい。そんな真面目にやらなくたってさぁ。兄さんだって興味がある年頃だろう? 男子禁制の修道院のシスターだよ。ほら、清楚な割には結構際どいのが」
盗んだ下着を自慢げに見せてくる下着ドロ。
「まあ、俺も男だから……でも泥棒は良くない。いい年して漁るんじゃないよ」
「まあまあ固いこと言わずに、ちょっとぐらいバレないって。お宝探しなのは一緒一緒」
悪びれる様子など一欠片も無く、再びチェストを漁り始める下着ドロ。
「個人的には白が良いんだが黒もある――グハッ!?」
不用心に無防備な背中を晒した下着ドロに蹴りが入った。フルグリーブに守られた脚は側頭部に直撃し、鈍い音を発する。クリーンヒット、一発でノックアウトだ。
「コイツを縛っておくロープとかないかな」
部屋の外から恐る恐る様子を窺っていたシアに聞く。
「廊下の角が倉庫になっていて、そこにロープがあったと思います」
確かめに行くとロープの束が幾つか置いてあった。適当な長さに切って、気絶中の下着ドロを縛り上げる。
その作業中ソロモンはシアに聞いた。
「ガルガヴァルの宝玉っていうのに心当たりはあるかい? コイツらが探しているみたいなんだけども」
シアは視線を逸らして黙り込んだ。
心当たりはあるが言いたくないって顔だな。まぁ無理には聞かないことにしよう。




