第12話 夜道の向こう
熱烈な見送りを受けて修道院へ歩き始める。彼等には協力する意志も力も無いらしい。
「そういえば名前を聞いていなかったし名乗ってもいなかったな。俺はソロモン、後ろを歩いているのは相棒のヴィクトル。君は?」
「シアと申します。自己紹介が遅れてしまったご無礼をお許し下さい」
「シアね。まあ気にするなよ」
明かりの無い夜道を魔力式ランタンで照らす。長めのスカートと、茶髪のショートヘアを小さく揺らしながら歩くシアに合わせて進む。
「あれか、シアの修道院は」
広場から五分程歩いた夜道の向こう、暗闇に浮かんでいるような光が幾つも見える。近づけば三階建ての建物だと分かる。
「はい。私の家、『ライノックス修道院』です」
誇らしそうなシア。その横でソロモンは修道院の様子を窺う。
低い塀に囲まれている上、背が高めの植木があって敷地内の様子はよく見えないな。門と周囲に人影は……ないかな。外に見張りは置いていないのか……。
「外に見張りはどれだけいるのかな?」
「私が逃げてきた時は居ませんでした」
「中の様子は? 相手は何人?」
「私はすぐに逃がしてもらったので……詳しくは分かりません」
シアは目を伏せた
。
「相手がどれだけの武器を持っているのかは?」
「槍と……斧を持っていた人は見ました。後は魔法を使う人が一人……他の人に命令していたのでリーダーかもしれないです。他はちょっと……」
「そもそも連中は何を目的にあの修道院を占拠したんだろうね。政治に不満を持っていて過激な抗議をする奴等、ではなさそうな話を聞いたけど」
シアは視線を明後日の方向に向けて黙り込んでしまった。
ちょっと情報が足りないかな。相手の数が分からないのが痛い。ま、やると言った以上引き返す訳にはいかないんで出たとこ勝負か。
「立て籠もっているなら玄関は恐らく押さえられてる筈だから、別の所から入る方がいいな。シア、何処かに良い場所を知らないかい?」
「それなら逃げた時に通った、一階の窓から中に入れます。案内します」
「頼む。行くぞヴィクトル」
シアを先頭に敷地内に入った。修道院の隣に教会が建っていて、渡り廊下で繋がっている。
あの教会、中から光が漏れているな。あそこにも人が居るみたいだ。
「こちらです」
規則的に並んだ窓の一つを指差す。僅かに開いた隙間に指を入れて引っ張り、右半分を開けた。
二人分の荷物を植木の陰に隠して身を軽くしてから開いた窓へ近づく。カーテンは全開で中が見えた。念の為に中に誰も居ないことを確認してから入る。
「本来は男子禁制なのですが、今回はお許し下さるでしょう」
「男子禁制の修道院か。あんまり長居をしたくないね」
この部屋はここで暮らす誰かの個室のようで、机やベッドが置かれていた。
こっからが本番だぞ。
耳に神経を集中させながらゆっくりとドアを開ける。向こう側は静かなようだ。




