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サバイバー・ソロモン  作者: オウルマン
第二章 対価に誠意を
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第9話 異変

「帝国行き? 貨物船はもうすぐ出るけど旅客船は無いよ。昨日出たばかりだからなぁ、次はいつ来るかは分からないけど、長くても一週間待ちだと思うよ」

「貨物船に乗せて貰うわけにはいきませんかね?」

「悪いが乗せられないね。手紙や荷物の配達なら受けるけど」


 フラスダからさっさと引き上げようと思ったんだがタイミングが悪かったな。

 郵便料金を払い手紙を預けた後その場を離れた。


 全ての大陸は陸続きなので陸路で帰ることも一つの手ではある。尤もどんなに急いでも一ヶ月は掛かるし、そもそも想定外の方法なのでナシだ。船を待った方が早いし安い。飛行機や新幹線が如何に便利な発明だったかが良く解る。


 肩を落とし両手をポケットに突っ込んで海沿いを歩く。時刻はもうすぐ正午。

 朝っぱらから泊まっていた宿の前で暴動が起き、町を歩けばどっちの陣営か分からないデモ隊に因縁を付けられ、鎮圧に来た兵士からは攻撃魔法の流れ弾が飛んでくる。


 巻き込まれた。荒れすぎだこの町。


 港周辺は船乗り達の活気で溢れ穏やかだったが他の場所は荒れていた。ホテルに籠もるのも安全策の一つ。ネックは船に乗り損ねる可能性がある。

 想像していたよりも治安が悪い。港だけ平和なのは、ラグリッツの生命線ということで暴徒達も避けているのかもしれない。だがこのままだと帝国との貿易に悪影響が出るのはそう遠くない筈だ。


 なるべく安全そうな所を選んで食事を取る。店は書き入れ時だ。二人分の席を取る癖に一人分の料理しか頼まない迷惑な客にも、店員は営業スマイルを忘れない。

 ヴィクトルを外で待たせた方が良いんだけど、流石に不安になる治安状況だからな。喋れなくても隣にいるだけで心強い、ヴィクトルは最高の相棒だ。


 代金を払って店を出た。フラスダの大通りを目的も無く歩く。

 ここの状況を調べるのが目的だけど政治的に荒れていますとしか言えないんだよな。

 人で溢れる町の中、大声を上げる人も居る。議会や王政を非難する垂れ幕が目に入る。


「届け物は済んでいるし、今回の依頼はこれで終わりにする。帰りの船を待とう、乗り損ねないようにな」

 隣を歩くヴィクトルは頷いた。


 今後の方針を決めた後は自由時間、というか暇潰しだ。問題はどうするかだが娯楽は限られている。

 酒場で飲酒は未成年なので論外、映画館や劇場は無い。公認の賭場はあったが大盛況すぎて近づく気にもならない。のんびり観光や食べ歩きが出来る訳も無い。


 ソロモンは剣を振ることに決めた。勿論町中でではない。町の外を歩けばすぐに会える魔物達に向けてだ。鍛錬を兼ねた魔物狩りで船が来るのを待つことに。


 町の外へ、ちょっと歩けばケンカを売る相手に困らないのがこの国の事情だ。

 慣れた手付きで剣を抜く。光を飲み込むような漆黒の剣身、血を啜って鋭くなる問題児の吸血剣ブロジヴァイネ。

 護衛を引き受けた際にこの大陸の魔物の傾向を聞いている。一体一体はさほど強くは無いが、繁殖力が高く集団で行動する種が多い。


 例えばリスをそのまま大きくしたような魔物。草食性のくせに縄張り意識が強く、街道に集団で現れては威嚇するなど好戦的な態度を取るが、動きは速くない。統制が取れた動きをする訳でも無いので、爪にだけ気をつけて立ち回れば討伐は難しくない。

 ウザくてデカいリスと呼び名を付けて片っ端から斬り倒す。ちょっとヴィクトルが驚かせばバラけるので各個撃破は楽だ。


 初見でビビるのは毛むくじゃらで四足歩行の魔物。馬ほどの大きさがあり二本の牙と鋭い鉤爪、顔が怖いのが特徴。この魔物も数頭で動く。草食性で警戒心が低く非好戦的、無防備にその辺を彷徨いているだけなので、無理に戦わなくても向こうから離れていく。危険度は低い見かけ倒しの魔物だ。

 歩いて走るナマケモノ、という認識で斬りかかる。逃げようとする背中にヴィクトルの槍が突き刺さる。基本無害な魔物だが、魔物というだけで襲いかかっているあたりソロモンもこの世界に染まってきている。


 問題児にタップリ血を吸わせてから次の獲物を探す、ある意味では危険人物である。


 肉食の魔物が居ないという訳では無い。二足歩行のデカいトカゲ、見方によっては小型の恐竜に見えなくもない。群れで行動する。

 この魔物達、肉食性のくせに襲って来る気配が無く、二人が狩った獲物を堂々と漁り始める。ハンターが近くにいるのにも関わらずだ。様子を見ていると、どこからともなくどんどん別の群れが集まってきた。トカゲ魔物集団、ハンター二人に挑むよりもお零れに預かった方が良いと考えたようである。


 ごちそうさまですと言っている様な態度に見えてイラッとし、オレ達にもお願いします的に頭を下げる後発の群れの仕草にキレた。へりくだるように頭を下げて近づいて来る一頭の首を刎ね飛ばし、ハンティングを再開。


 そもそも迷惑だ、町の近くに集まってくるんじゃない。


 全滅させるのに三十分、ソロモンにダメージ無しの完封勝利である。今日も調子よく魔物の命を斬り刻んだ。

「粗方倒したし、日が沈む前に引き上げようぜ」

 トカゲ魔物から問題児を引き抜き鞘に収め、フラスダへ歩き出す。


 フラスダは人でごった返していた。時間は夕食時、飲食店が忙しい時間帯。

 何処も込んでるな……ん? 何だ……。

 黒髪を掻きながら、道行く人を上手いこと避けて通りを歩く。


 大規模な貿易港を抱えるフラスダは大都市だ。人口もそれ相応に多い。それにしても人が多すぎないか。

 飲食店は何処も大盛況で入店待ちの列が出来ているところもある。馬車も窮屈そうに速度を落として、走るというより歩いている。渋滞だ。


 こんなに人が多かったか? 抗議デモをやってる人は居ないみたいだが……もしかして住民じゃなくて旅行者が多いのか。よく見れば大きな荷物を抱えた人が多いし、家族連れも多いように見えるが……。

 気になったので巡回中の年配兵士を捕まえて質問してみた。


「そうなんだよ。城下町の方から大挙して押し寄せてきたみたいで困ってる」

「城下町っていうとラグリッツ王国の王様が住んでいる城があるところですかね?」

 年配兵士は面倒臭そうに、

「そうだよ。馬車で一時間ぐらいの距離だからみんな逃げ込んでくるんだろ。船着き場も大騒ぎだし、何してくれるんだよ」

 あからさまに不機嫌な態度で窮屈そうに歩く人達を見やる。


「いや、ちょっと待ってくれ。今逃げてきたって……どういうことですか?」

「何だ、お前は違うのか。バカ共が面倒な仕事を増やしやがったんだよ。ほら、早くあっちにいけよ」


 年配兵士は強引に話を終わらせて立ち去った。

 城下町で一体何があったんだ……。

 その背中をソロモンは黒髪を掻きながら呆然と見つめていた。


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