第5話 海の向こう
徹夜明けで欠伸をするエウリーズに見送られ、ソロモンは城を発った。同行者はヴィクトル、二人旅だ。
昨晩エウリーズの好意――というか趣味――でヴィクトルは装備を提供してもらっていた。その姿は全身を軽量型防具に包まれ、シンプルなヘルムに黒い仮面。右手には細身の槍。
元々あったラウンドシールドを溶かして作り直した、円と長方形を繋げたような形状のシールドは左手に。
腰にナイフ、背中にはバックパック。何とか動き回れるギリギリの重量に調整済み。
天候に恵まれた旅路、本格的な夏がすぐそこまで来ている季節。城から南へ三日進むと最初の目的地だ。
フェデスツァート帝国の港湾都市『ケステンブール』にソロモンとヴィクトルは到着した。ここから南へ向かう船に乗る予定。
「三日は長ぇよ。バスとか電車とかの有り難みがよ~くわかったわ」
到着後の第一声がこれである。
ちなみに移動中の三日間は、途中で立ち寄った町で適当に買った本を読んで暇を潰していた。ヴィクトルも暇なので買った本は全て読んだ。ヴィクトルがこの世界の文字を読めることを知った。
持ち物が増えるのを嫌い、読み終わった本を古本屋に売ってから食事。海に面した都市だからか海産物を使った料理を出すお店が目立つ。レンドンでは海産物を使う料理は全く見なかった。
折角の機会なので昼食は海の幸を頂く。出汁のきいたスープの中は異世界産の魚に青菜野菜、濃いめの味が美味しい一品にソロモンは大満足。
但し米はここにも存在していなかった。
海沿いは当然停泊する船が所狭しと並び、貨物の積み卸しをする労働者で溢れかえっていた。全て世界観を裏切らない帆船である。大型船では馬車を使って積み卸しをしている。
元の世界でいうコンテナヤードが何ヶ所も有り、輸入品と輸出品が集積されている。貨物船と旅客船は停泊場所が完全に分けられており、それに合わせて宿屋と労働者の集合住宅が立ち並ぶ。
漁をする為の船は無く、海産物は近くの漁港から陸路で運ばれて来るようだ。
陸送の為の専用道路が何本も都市の中を通り、歩道橋を潜らせる形で歩行者の妨げにならないようにしている等、輸送の利便性を重視した都市になっている。合理的な構造、ケステンブールが海外貿易の中心なのも頷ける。
運良く夕方に出発する大型旅客船に乗ることが出来た。
「これから船旅か。実は船に乗るの初めてなんだよね。テンション上がるな。ヴィクトルはどうよ?」
ヴィクトルは二回頷いた。
船内は乗船客で賑わっている。レストランやバーカウンター、リラクゼーションスペース等があり意外と充実している。取ったのは一番安い二人部屋で窓が無いのが安さの理由らしい。
安い部屋だからか鍵が内側からしか掛からない。対策は簡単、ヴィクトルに部屋で荷物を見ているようにと指示を出しておく。二人分の荷物、現金も一部入れてあるので盗まれでもしたら困る。
まぁ結局暇だから食事の時以外は部屋で筋トレしているんだが。
船旅は三日間。風向きが良いと二日で悪いと四日。今回は風の機嫌が良かったようで二日で到着した。
二つ目の目的地、ラグリッツ王国の大規模貿易港『フラスダ』。ケステンブールよりも規模は小さいが停泊している船の数はかなりの量だ。
今回の目的は二つ。この貿易港の状況の調査と届け物だ。今回の活動期間は一ヶ月だから、片道で一週間かかると考えて二週間後には帰りの船に乗らなければならないな。
まずは届け物から済ますとするか。大事な届け物、いつまでも持っていて無くしたら最悪だ。
ソロモンは届け先が書かれたメモ紙を取り出した。届け先はノインズ邸と書かれている。




