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サバイバー・ソロモン  作者: オウルマン
第二章 対価に誠意を
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第3話 領主と貴族

 押し切られて領主の立場を断れなかった俺が、カラヤン皇帝代理の提案を断れる訳がない。


「王国領主の身分なら、ソロモンに帝国貴族の立場を与える理由は何とかなるね」

 この一言に王族特有のプレッシャーが加わってトドメである。

 もうどうにでもなれだ。

 逆らうより流された方が楽だろう。少なくとも最初だけは。


「さてソロモン、帝国貴族という身分の本質は『皇帝との契約』にある。これを説明せねばならない」

「契約ですか……」

「庶民よりも高い身分。つまり庶民が持てない幾つもの特権に様々な優遇措置を皇帝に与えられ、その代わりに庶民には課されない義務を負って皇帝と帝国に尽くす。これが帝国貴族というものだ。僕は次期皇帝になる事が決まっている身でね。今の内に将来有望そうな人間を囲っておきたいんだよね」


 所謂ノブレス・オブリージュというものか。なぜ俺にこの話をしたのかがようやく理解できた気がする。けどなぁ……。

「俺に何を求めるおつもりですか? 今の俺には何もありませんよ。買いかぶりすぎではないでしょうか?」


 ソロモンが問う。カラヤンは姿勢を正してから、

「その言葉にはこう答えよう」

 目付きが変わると同時にカラヤンの気配も変わる。

「ソロモン、君は何者だ?」

 睨む、とも違う。相手を縛り付けるような眼。ビーストトランスに相対した時とは違う恐ろしさがこの場を支配し、心臓を掴まれたかのような息苦しさをソロモンに与え始める。


 これが帝国を統べる一族に生まれた人間の本性なのかな……オーラが半端じゃない。

 静まり返った室内でソロモンは完全に気圧されていた。


「君がこの城を買ったあの日から、帝国と王国で君の素性を徹底的に調べていた。しかし何処で生まれたのかも育ったのかも分からなかった。君の相方は特徴的だから連れ回していれば、何処かでこちらの情報網に引っかかる筈なんだがさっぱりだ。突然現れたと言われても否定出来ない」

 相当、俺のことを調べて回っていたらしい。多分だが今回の話し合いは、俺の正体を調べる為だったのかも。


 異世界サバイバルゲームのルールでは、包み隠さず話しても反則にはならない。下手に嘘を言うよりも正直に話した方がプラスになるかもだな。


「突然現れた……。もしそうならカラヤン皇帝代理は信じますか?」

 カラヤンは少し間を開けて、

「現状では是とも否とも」

「俺とヴィクトルは一ヶ月半前に別の世界から来たんです」

「それは神が住まう場所からか?」

「いや、違うと思います。この世界の神様とは別の神様達が居る世界です」


 全て包み隠さず話した。この世界に来た理不尽な理由である、異世界サバイバルゲームのこと。与えられた特殊能力がヴィクトルであること。この世界にやってきた初日に起きたこと。

 半月前に自分も含めて九人いるプレイヤーの内の一人と戦ったことと、ビーストトランスのことも全て話した。時々質問をされたが全て嘘偽り無く答えた。

 ソロモンがサポーターの悪魔達に縁のある人物の名前で、本名が土来定樹ということも話の流れで伝える。


 エルドルトは腕を組んで天井を見上げ、カラヤンは何処からか取り出したビスケットを囓っている。

 暫く静寂が続いたあと最初に口を開いたのはエウリーズだった。


「ワタシは信じちゃうわよ。別の世界の話をしていたって件は、帝国の諜報部からあがってたんでしょう。それにこのヴィクトルちゃん、別の世界から来たって言われても否定出来る理由が見当たらないわ」

「つまり何も分からないと?」

「ええそうよ。魔力反応は一切なかったし、構成している物質がなんなのかも不明。生物の骨でもなければ、金属や石材の類いでもない。こちらの様子や言語を理解して動く仕組みもさっぱりよ。本来この世界には存在しない技術や理で動いてるというなら、一応の説明がついちゃう。当然複製は不可能よ」


 ビスケットを九杯目の水で流し込んだカラヤンは、ヴィクトルをまじまじと見る。


「別の世界の人間ならば考え方や捉え方が庶民と大きく異なるというのも……。分かったその話を信じることにする。エルドルト行政官はどうかな?」

「彼が嘘を言っているようには見えないので個人的には信じてみようと思います。ただラボリエンス国王がどう考えるかですね。彼が悪事を働いている様子もありませんので領主の件を取り下げることはしない、とは思いますが」

 思っていたよりも好感触だ。素直に話して良かったぜ。

 ソロモンはホッと胸を撫で下ろした。安堵の表情がハッキリと出る。


「国王に報告をしてから具体的な事を考えることになるかと」

「では先に帝国側の用件で彼を使わせてもらうということで構いませんね?」

「ええ構いません」

 エルドルトは早く報告をしたいということで先に帰っていった。王国側の人間が居ない方がいいこともある、というのも理由の一つらしい。


「これからもソロモンと呼ぶことにする。改めて貴族ソロモンよ、早速だが君の力を借りたい」

「異世界から来たとか言っている少年に、貴族の身分を与えて本当にいいのでしょうか?」

 ソロモンの問いにカラヤンは笑った。


「全てが今まで通りなど有り得ない。実際この城の状況は変わっているし、別世界から人間がやってきたとか、解析不能の存在が居るとかそんな話が出ている」

 親指でヴィクトルを指す。


「時代と状況に合わせて変化を求め維持を選ぶ。それが僕の政治哲学だ。そもそもリスク無しで国の繁栄と維持が出来るなどと考えてはいないからな。僕は大きな賭けをしているんだよ。君と君の相方にね」


 賭けか。この皇太子様、結構な勝負師だ。ま、俺の方も乗るしか選択肢が無いんだけど。


「分かりました。改めて、貴族ソロモン出来る限りの協力をさせて頂きます」

 異世界から来た少年と若き皇太子は握手を交わした。

「それではお遣いをお願いしようか」


 パシリっすか。

 後日改めて詳細を伝えるということでこの場はお開きになった。



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