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サバイバー・ソロモン  作者: オウルマン
第一章 異世界サバイバルゲーム
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第27話 運命の答え

 千載一遇のチャンスだったんだッ!


 立ち上がりながら心の中で自分を責める。確かに攻撃は届いていた。タイミングは的確だった。悪かったのはただ一つ。


 剣の向き、《《刃が相手に向いていれば》》深手を負わせていた。腕一本斬り落とせたかもしれない。渾身のフルスイングは剣の側面で叩く形になり相手は無傷。落下時の衝撃で弾き飛ばされる結果になった。


 警戒しているのか、着地後すぐにミサチは距離を取る。風の刃で援護をしてくれるセレニアの助けもあって反撃を受けなくて済んだ。

「魔法……ムカつくわ……あの女は特に……無性に腹が立つ!」

 目を血走らせ、セレニアへと向かっていく。風の刃の連打を掻い潜り、迎撃を許さない速さで蹴り飛ばす。

 小さく苦痛の声を吐き出すセレニアに、ミサチは飛びかかり踏みつける。


「気に入らない! 気に入らないィィィ!!」

 狂った様に何度も踏み、その度に体を丸めたセレニアは涙を浮かべて耐え続ける。


「あんなミスはもうしない。次こそは今度こそ斬る!」

 刃の向きに気を付けて剣を持ち直し、再び斬りかかる。またしても届かない。

「グッ……ウッ……」

 セレニアからミサチを引き離すことは出来たが、回避直後の拳を食らう。ギリギリ倒れなかったソロモンは、追加の蹴りを貰って体が宙を舞った。

 地面に叩きつけられ衝撃が全身に伝わっていく。頼みの綱の剣は手放さなかったが、全身に力が入らない。


 痛い、体中が痛い。たった二発殴られただけでこのザマだ。防具、着ていても衝撃はどうにもならないんだな。初めて知ったよ。


「ハハハハハハハ!!! 死ねェ! 死ねぇ!!」

 立ち上がろうとするソロモンを、ミサチは叫びながら躊躇無く蹴り飛ばす。立て直す隙を与えず反撃も許さない断続的な攻撃。

 一方的な攻撃に耐え続ける。ソロモンの自信と戦意、その両方が削ぎ落とされていく。

 擦り傷が増え、頬や口元からは血が出てきた。


 未熟、素人、雑魚、無力。どれも今の自分を表す言葉だ。俺は格闘技や武道どころが、殴り合いや掴み合いのケンカすら一度だってしたことが無い人間だ。そう、たかが一ヶ月剣を振り回したところでどうにかなる訳が無い。


 シンプルで圧倒的な暴力。それを実現するのは異世界から持ち込まれた力、ビーストトランス。

 これが現実だったんだ。どんなに強力な剣を持っても、扱う俺が未熟者なら宝の持ち腐れだ。何の意味も無い。ゲームオーバーか……。


 うつ伏せの体から気力が流れ出し、全身から力が抜けていく。罵倒する言葉も耳に入らなくなった。

 敗北を覚悟したソロモン。だがトドメを刺す攻撃は、いつまでたっても来ない。

 霞み始めた目に映ったのは、化け物に大剣で斬りかかるガランの姿だった。何度避けられても、何度殴られても必死に食らいついていく。ガランはまだ諦めてはいなかった。


 その闘志に呼応したかのように、エントランスホールに援軍が突入してきた。男女混合で年齢層も幅広い四十人程の武装集団が、目をギラつかせている。

 他の馬車の護衛達だ。彼等は負傷したツンツン頭の簡潔な指示で、状況をすぐに理解しミサチに攻勢をかける。


 各々が持ち込んだ武器で挑んでいく。中にはボウガンや手斧の投擲、遠距離魔法を使う者も居た。

 攻撃魔法が混ざる波状攻撃がミサチへ襲いかかる。


「どいつもこいつもワタシを寄ってたかって!」

 遂にミサチの逆鱗に触れた。狂気が張り付いた顔で目に付いた者を片っ端から攻撃し始める。怒りで更に凶暴さと速さが増したミサチは、狂った様に叫びながら暴れ出す。多少の傷を厭わずに波状攻撃を押し返す。ビーストトランスの猛威は加勢に来た一団を次々と戦闘不能に追い込んでいった。


 折られかけたソロモンの心に闘志が戻ってきた。自分一人で戦っている訳では無い。他者の存在が力になることを、元の世界で知っているのだ。それを、今思い出した。

 まだ立てる力はある。剣を振る力も残っている。まだ負けてはいない。《《俺達はまだ負けてない》》。


 両腕と両足に力が戻り、石の様に重くなっていた体を起き上がらせる。

 援軍は人外の姿と強さを前に臆することなく、仲間が倒されても気にせずにひたすら攻め続けていた。全滅することを厭わない勢いだ。


 一人、ソロモンのそばまで投げ飛ばされてきた。セレニアだ。ボロボロの彼女も戦列に参加していたようだ。

「大丈夫か? セレニアさん」

「ダメね……情けないわ。手も足も出ない……」

 傷だらけの女性剣士は涙を浮かべた目でソロモンを見る。


 もう一人、大男が投げ飛ばされてきた。筋肉質で屈強な体を投げ飛ばすあたり、獣人化したミサチの膂力の強さはやはり尋常じゃない。


「兄さん大丈夫か?」

「ああ……大丈夫だ。まだやれるぜ。怪力強盗女の正体が、まさかあんなバケモノだったとはな」

 全身青痣だらけの大男は再び立ち上がり、トゲ付き棍棒を拾い上げる。

「加勢に来てくれてありがとう。馬車の方はどうなったんだ」

「いいってことよ。馬車は全て通過した。動揺はあったが問題はねぇ。だからこうして加勢に来たんだ。アンタ、先行して戦っていた奴だよな?」

「そうだよ。見事に返り討ちにあったけど、俺もまだ戦える」

 ソロモンの言葉に大男は満足そうに笑った。


「感謝したいのは俺達の方だ。ヤツを見つけてくれたお陰で借りが返せるからな。ここに集まった連中の多くが、あのバケモノ女に自分や仲間が襲われた経験者だからよ」

「そうだったのか。そりゃ無茶もするよな。悪い事は出来ないね。いつかどこかで自分に返ってくる」

「違いねぇぜ」

 会話をしたことでソロモンに冷静さが戻ってきた。今の戦況が見えてきたソロモンは戦線に復帰しようとする大男を呼び止めた。


「相手は圧倒的すぎる。ダメだ、このまま戦い続ければ全滅だ」

 短時間で戦況は壊滅寸前まで悪化していた。

 攻撃に参加している人数が少なくなっている。その為ミサチは戦い方を、多少のダメージを覚悟しての攻撃から回避しつつの反撃に切り替えていた。最初に戦った時と同じで、掠り傷すら受けずに残りを各個撃破していく。人知を超えた強さに陰りは見えない。


「数の優位性は無くなっている。相手は大人数でかかっても倒せないバケモノだ。タイマンになったら絶対に勝てない」

「だったらまだ動ける人間が居るうちに攻撃しないといけねぇな」

「いやもう数的に無理な所まできてる。あのバケモノ相手に正面から攻めても無駄だ」

 死屍累々の城内。どちらも白旗を揚げる気は無く、ほぼ勝敗が決まった状況でもまだ戦いが続いている。


「もしかすると死者が出ているかもしれない。ここで負けたら全てが無駄になる。そうさせない為に、一つだけ打てる手が有る。援軍が来たから使えるまでの時間を稼ぐことが出来た策だ」


 この城を使った迎撃方法。以前から考えていたものの一つ。


「俺がヤツを挑発して誘導する。この作戦なら一撃必殺とはいかないが深手を与えられるから、戦える人はそこで再度の攻撃に出てくれ」

 ソロモンは説明しながら周りを窺う。戦闘の音が響き渡るホール内、作戦が使える可能性は高い。


「……分かった。追撃は任せろ」

 大男はソロモンの提案を聞き入れたようだ。


「よし、行くぞ!」

 ソロモンはミサチがいる方とは別の方向に走り出した。痛む体を引っ張るように、正門館の奥へと続く扉の前に立つ。


 扉は僅かに開いていた。


「おい! 不細工で醜いミサチ!!」

 注意を引く為に、腹に力を込めて思いっきり叫ぶ。その叫びはミサチの耳へ届き血走った眼はソロモンへ向けられる。


 よしかかった。挑発っていうか侮辱すると確実に意識がこっちに向く。それはこれまでの様子で分かっている。


「自分勝手な考えで他人に迷惑かける、お前みたいなクソみたいな女はいるだけで腹が立つぜ。あとさっき美人の女性剣士にめっちゃキレてたよな? ブスが酷い嫉妬で折角の能力を無駄遣いしてんじゃねーよ。他人を助ける為に能力を使わないとか、醜いのは顔だけにしろや。心まで醜い、だからお前はブスなんだよ。この世界に来て他人に迷惑かけるだけだしさぁ、とっとと斬られてくれねぇかな」

 剣を僅かに上下させながら出来る限りの罵詈雑言を浴びせて、自分に攻撃目標を誘導する。効果は覿面てきめんだ。


「その汚い口を閉じろォォォォォォォォォ!!!!!!!!」


 向かってくる。狂気の塊が自分に向かってくる。それに相対したソロモンは笑っていた。


 ビーストトランスに勝つ。ミサチを倒す。これが最後のチャンス。

 僅かに開いていた奥への扉、体当たりをするように押し開ける。無防備な背を、狂気の塊に向けて奥へと進む。


 ソロモンは剣を投げた。勿論捨てた訳では無い。ビーストトランスと同じく、異世界から持ち込まれた力へパスしたのだ。

 相手はソロモンズファミリアと名付けられた異世界の力。


 ヴィクトルの名を持つ仲間以上の存在は、扉のすぐ横に静かに立っていた。事前にこの動きを練習していたので、難なく剣を受け取る事が出来た。


 不意打ちを仕掛ける場所としてピックアップしていた場所。弓での奇襲が失敗したら、この場所で待機するように指示を出していた。


 ヴィクトルは指示を忠実に守っていた。指示通りに動いているとソロモンも信じていた。

 ヴィクトルは渡された剣を構える。剣身を地面に対して水平にし、刃が横になるようにする。踏切の遮断機のように進んできた相手を足止めする形。

 猛スピードで近づいてくる相手は急には止まれない。逃げ場の無い通路故に、刃は届く。

 ブロジヴァイネの刃がミサチの右腰の少し上を切り裂いた。切り口から噴き出した血をヴィクトルは浴びるが、全く気にする素振りは見せない。


「な……なにッ……」

 狂気の顔が痛みで歪み動きが止まる。ヴィクトルは黙って剣を振り降ろす。咄嗟に腕で防御したが、ブロジヴァイネの刃は太い腕を切り裂いた。

 必死に後退するミサチにヴィクトルは更に攻撃を続ける。ミサチの表情に恐怖の色が見え始めていた。

 ギリギリ躱したミサチはエントランスホールまで下がったが、これ以上の逃げ道はもう既に塞がれていた。


 まだ戦える者達が集まって来ている。深手を負ったミサチを見て、むしろ士気が上がっていた。一斉にミサチへ攻めていく。

 猛威を振るったビーストトランスの力と速さは無くなっていた。それでもミサチは抵抗を続けた。


「グウ……ウガア!!」

 叫びを上げるミサチに更に異変が起きた。


「元の人間の姿に戻っていくぞ……そうか! 能力に制限時間があったかダメージの蓄積で解除されるデメリットがあったな!」

 スーツ姿に戻ったミサチ。当然受けた傷は残ったまま。


「剣を寄越せヴィクトル! 決着は俺がつける! 投げろ!」

 ヴィクトルが剣を投げ、ソロモンが受け取る。剣の向きには気を遣った。


「これが! 俺とお前のッ! 運命の結果ァ!!!!!!!!!!!!!!!!」

 逃げる体力も防御する力すらも無い。その一振りは胸元を大きく引き裂いた。

「ビーストトランスの強さなら、俺なんかよりも多くの人を助けられたと思う。その力を誰かの為に使っていたのなら、きっと結果は違っていたのかもしれない」


 異世界の人間だからと自分のことしか考えなかった。だからミサチは一人で戦わなければならなくなったんだと思う。

 この世界に来て最初の日、怪我人を助けたのは義務でもない。見返りが欲しくてやったつもりも無かった。

 それが始まり。それが繋がり巡り巡って俺は助けられたんだ。それがこの答えなんだ。


 息絶えたミサチは光になって、血溜まりを残して消えていった。

 元の世界に死体が送り返されたのだ。その理由を知っているのはソロモンとヴィクトルだけだろう。


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