第24話 追いついた者、待っていた者
ソロモンが乗る馬車を先頭に、その後方には馬車が一列に並んで土埃を上げている。御者席の後ろの席にはソロモン、セレニア、ヴィクトルが並んで座る。
馬に乗った護衛役に、怪力強盗女が乗っている可能性が高い馬車を見張って貰う。勿論悟られないように注意してだ。
「今の所動き無しでやんすよ」
ツンツン頭が先頭の馬車に並ぶ。彼は馬に乗って前後に動き回る役だ。
「今回は移動日で襲う気は無いのかもしれないわね。今日中に決着を付けたいけれど」
「そうだな。ただ……これから一波乱有りそうな気がする」
ソロモンは正面を注視していた。
「何か気になることでもあるでやんすか?」
「ああ。妙だ、魔物の姿が一匹も見当たらない」
見通しの良い平原。魔物が隠れるような場所はほぼ無い。まだ日は高いから遠くからでも魔物の姿が見える地形だ。
「そういえばそうでやんすね。楽でやんすけど」
「死骸は幾らか転がっているが生きているヤツが居ない。午前中にこの道を通った時は結構な数が彷徨いていたんだけど、半日も経っていないのに魔物が消えてしまった」
不気味だ。何か、良くないことの前兆ではないだろうか?
ソロモンの不安を余所に、魔物が居ない平原を走る馬車の列。先頭の馬車は国境の山脈を縦断する山道へ差し掛かる。
「ねぇ、城主様」
「ソロモンでいいですよセレニアさん。何か?」
「聞きたいことがあるんだけど、いいかしら?」
「答えられるものであれば」
隣に座るセレニアは真面目な顔でソロモンを見る。
「例の強盗女はソロモンの因縁の相手、ということでいいのよね?」
「少なくともマークしてもらっている女は俺の因縁の相手で間違いないな。そいつが強盗をやってると考えている」
「どんな因縁があるのか聞いてもいい?」
セレニアの質問にソロモンは天を仰いで、
「お互い会ったことも無いし、顔も名前も知らない。そういう人間と戦わないといけないんだ。いや戦わなくても済む方法があるんだけど、戦うという選択の方が簡単で楽に思えてしまうんだ。そんなクソ迷惑な因縁を作りやがったヤツがいるんだよ」
「どんな奴なの? 因縁を作ったヤツって」
「正体は上手く説明できないけどな、兎に角腹が立つヤツだよ。そいつ曰く人間には運命があるんだと。俺は一ヶ月前に運命に出会う日だとか言われてさ。何の準備も無く孤立無援で戦う事になったんだ」
一生忘れないあの日の事。幸運に背中を押されて、人の縁で行き倒れなくて済んだ。
「だから交通の要所を押さえているアドバンテージを、協力者を作る事に使ったんだ。生きていくのも戦い続けることも、ヴィクトルと二人だけだと難しいからね。お金は働けば手に入るけど、味方は簡単には手に入らない」
ソロモンの言葉をセレニアは黙って聞いていた。お互い沈黙する時間が少し過ぎた後、
「その戦いに加勢は必要?」
「俺の私闘だ。情報提供とか生活面とかでの協力は別だけど、俺の都合で直接戦うことに巻き込めない。今回は強盗女でなかったら加勢はしなくていい」
ソロモンはセレニアを見てハッキリと意思を示す。
いつか来るだろうとは思っていた。どこかで出会うだろうとも思っていた。受け入れなければならないと、自力で何とかしなければと精一杯動いた。たった一ヶ月の時間だが出来る限りの事はした筈だ。
覚悟はもう決めた。
「そう。もう一つだけ聞いていい?」
「いいよ」
「人間には運命がある。それなら私にもあるかしら? 運命に出会う日が……」
「あのクソ野郎が言うにはあるんじゃないの。どんな運命でいつ出会うのかは分からないけど」
二人の会話はここで途切れた。セレニアは思い詰めたような表情で俯き、ソロモンは気が張り詰めて目つきが鋭くなった。
それから少し時間が経って先頭の馬車が城門前に到着した。ソロモンとヴィクトルは馬車から降りる。
「打ち合わせ通りに頼むよ」
ヴィクトルは大きく頷いて開門作業に入る。魔法の力で、重そうな城門が唸るような音を出して動き始めた。
反対側の城門も唸りを上げ始め、ソロモンは御者に発進の合図を出す。馬車列は少しずつ進み始めた。
ソロモンの隣にセレニア、ガラン、ツンツン頭が並んだ。
「このまま真っ直ぐ進めば山を下りて町まで行けます」
後続の馬車に適宜広報を行う。目当ての馬車が近づいてきたところで、ソロモンは釣り餌を取り出す。
紙飛行機だ。翼の部分にプレイヤーへのメッセージが書かれている。
セレニアさんで確かめてある。この世界の人間ならまず何かのマークかと考える。文字だと思っても絶対に読めない。
それは同じ理不尽を共有した者にだけ伝わる、平仮名と片仮名と漢字で書かれたメッセージ。
『プレイヤーへ。俺が相手だ降りてこい! この世界の人間に強盗をしたなら素直に謝れ』
城門や城が珍しいのか、場所から身を乗り出している人が居る。その中から目的の女に向けて紙飛行機を放る。
逃げる気は無い、行け。これが俺とアンタのクソッタレな運命だ。
目的の女の元へ真っ直ぐに飛んで行く紙飛行機。掴んだ女はすぐに馬車を降りて、発進元へ歩き始めた。紙飛行機は握り潰されている。
「アナタもプレイヤーなの?」
「そうだ。やっぱりアンタもプレイヤーか。それが読めるのは俺等だけだもんな。で? 無関係な馬車を襲いながら良く来たな、怪力強盗女?」
「リサーチ済みって訳? そうよ、怪力強盗女とかって下手クソな手配書は私よ。別に略奪しようが殺そうが良いじゃない。この世界の人間をどうしようと罪には問われないんでしょ?」
「この世界でも立派な犯罪行為だよ! 迷惑千万だ!!」
「だから何だって言うの? ここはゲームの舞台でしょ? 偉そうに懸賞金だとか言い出してさ。こんな世界の奴らがどうなろうと私が勝てればいいじゃない!」
血相が変わった丸顔から吐き出す言葉に、ソロモンは拳を強く握る。
「はい自白~、この女は手配書が回っている強盗女だ! 俺が何とかするから馬車はそのまま止まらず進め! 早く行け!!」
ソロモンの指示と、馬車の近くに居た護衛の広報で止まっていた馬車が進み出した。女プレイヤーは馬車には目もくれずに握り潰した紙飛行機を投げ捨てた。




