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サバイバー・ソロモン  作者: オウルマン
第一章 異世界サバイバルゲーム
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第19話 魔物ハンター・ソロモン

 準備を済ませて外に出たところで思わぬ出会いがあった。


「ブネ、参上!」

「え、フネ?」

「誰がイージス艦じゃい」

「言ってねーよ!! お前俺の世界の人間だろ!」

「ヒューマンでは無い、悪魔だ」

「サポーターかよ!! 見た目は人間だから他のプレイヤーがカチコミに来たかと思ったじゃねーか!」

 ブネと名乗った悪魔はトレーナーにジーンズ姿の男性。角や牙は生えていない。


「ヴィクトルの強化に来たぞい。今回もベースステータスの強化だぞい」

「サンキュー、早速始めてくれよ。これから魔物狩りに行くからさ」

 ブネが指を鳴らすとヴィクトルは黒い霧に包まれた。黒い霧はすぐに晴れ、その向こうには姿形が全く変わっていないヴィクトルが立っている。


「ガミジンの時と同様に腕力等が強化されたぞい。それと今回は追加でなんと!!」

「なんと?」

「身長が一センチ伸びたぞい」

「誤差じゃねーか」

 親指を立てるブネとヴィクトル。


「名付けて、『スケルトンサードタイプ・ヴィクトル』じゃい!」

「名前長くなったなぁ」


 指を三本立てて飛び跳ねるヴィクトル。


「強化は後六十九回じゃ。頑張れよ、フハハハハ! それとお前さんの装備似合っているぞい」

 ブネは消えた。ヴィクトルは飛び跳ねるのを止めた。


 別に大した強化じゃ無いのになんで自信満々なんだアイツは。

 強化されたばかりの――見た目は変わっていない――ヴィクトルを連れてソロモンは出発した。アスレイド王国側の麓まで馬車を走らせる。


 ソロモンは機動性重視の防具にバックパック。武器は剣と魔装弓、矢筒、ナイフ。

 ヴィクトルは細身の槍とラウンドシールドに胸当て。その上にフード付きのコートを羽織る。城内にいる時と同じく素顔を晒している。


 馬車を山道入り口の脇に停めて、バックパックから本を取り出して開く。本のタイトルは『魔物狩りのススメ』だ。

「この本によるとまずはフィールドを確認すべし」

 見通しの良い平地が目の前に広がっている。足下は草が生い茂っているが、足を取られたり小型の動物が隠れたり出来るような高さは無い。


 天候はやや曇り。雨の気配は今の所感じられない。

 こういう遮蔽物が無い場所は弓が使いやすい。但し魔物にも遠距離攻撃が出来るヤツが居るかもしれないから注意が必要だな。


 大事なのは狩れそうなヤツだけを狙い、これは無理だ狩れそうにないぞと思ったら余裕がある内に撤退することだ。

 今回は特に依頼を受けている訳でもないし、無理しない範囲でやろう。

 馬車を降りて行動を開始。目標はそう遠くない所でゆっくりと動く影。


「この本によると動物と魔物の区別は曖昧らしいな。慣習的に人間に危害を加える可能性が高い生き物をそう呼んでいるらしいが」

 本にはこの地域の魔物の情報が図解付きで書いている。その中には危険度がほぼ無しと書かれている魔物も少なくない。


「よーしアイツを狙おう」

 狙いを付けたのはイノシシをそのまま大きくしたような姿の魔物。体長は二メートル程で、通称は『歩くイノシシ肉』だ。

 初心者でも狩りやすいのと、肉が旨いからという理由で付いたこの通称はどうなのだろうか。


 本の情報では草食性で自分から人を襲うことは殆ど無い。警戒心があまりなく、動きは遅め。ゆっくりと近づけばほぼ確実に先手が取れる。攻撃しても反撃するより逃げる事が多い。

 実際このでかいイノシシはノロノロ歩いていて、背後から近づけば距離を詰めることは容易だった。


「ここはセオリー通り遠距離から仕掛けていくぜ」

 適当な距離まで近づいた所で魔装弓を起動させる。矢筒から矢を取り出し、魔法の弦に番えて狙いを付ける。


 相手の弱点を狙うのが定石。魔物は生き物だから基本的に頭か首、心臓だ。直接狙うのが難しければ、足を狙って動きを止めるか目を狙って視界を奪う。


 ノロノロ動いていた標的が向きを変えた。背後から狙いを付けていたソロモンに対して、側面を晒す向きだ。

「そこだ」

 ソロモンが矢を射る。魔法の弦の力で放たれた矢は標的の首元へ命中し、標的から叫び声が出た。

「よっしゃ! いいぞ! 次は直接攻撃だ!」

 魔装弓から剣に持ち替えて走り出す。逃げる選択をした標的の背後から回り込むように動いて弱点の頭を狙う。


 弓よりも剣の方が威力が高い。食らえ!

 思いっきり振り下ろされた剣は側頭部に大きな切り傷を負わせた。たがまだ倒れない。

 ソロモンの攻撃に合わせてヴィクトルも槍で攻撃を加える。標的の体にダメージが入ったが倒れる兆しは見えない。


「これでどうだッ!」

 両手に力を込めて剣を突き刺す。漆黒の刃が標的の皮と脂肪を貫いた。

 直後、一際大きな唸り声と共に標的が体を捩る。苦しみながら激しく頭部を振り回す。

「うわっ!?」

 暴れ出す標的に思わず剣から手を離してしまったソロモン。不意に頭突きを食らって二メートル程跳ね飛ばされた。


 油断したか。流石に舐めすぎたかな。


 素早く立ち上がるソロモン。ヴィクトルも一発もらったらしく、槍を杖代わりにして立ち上がろうとしていた。

 攻撃が途切れた隙に標的は離れていった。

「逃がしてたまるか!」


 剣が刺さったままだし!


 走り出すソロモン。追いかけっこはすぐに終わった。標的は三十メートル程走った所で立ち止まった。

 ブルブルと震えだしてか細い鳴き声を吐き続ける。横倒しになり絶命するのにさほど時間は掛からなかった。


 倒せたか。俺も特に怪我はしていないし、初陣は大勝利だな。


 深々と刺さった剣を引き抜き鞘に戻そうとした時、ソロモンは違和感を覚えた。光沢が無い漆黒の剣身に指を滑らせその正体を知った。

「剣に血が付いていない……」

 刺さった矢には血が付いているから元々血が通っていない魔物ということは無い筈。


 剣を収めナイフで獲物の腹を捌き始める。内部には全くといっていい程血が残っていなかった。


 まあ考えられる理由は一つだろうな。この剣が《《本物》》で血を吸った。

 ソロモンが持つ剣、ブロジヴァイネ。血を啜りより鋭くなるという剣。吸血剣の名で有名だと言われ、行商人に騙されたと思っていた剣。


 その辺を彷徨いていた別の魔物で確かめる。剣身に触れた血が跡形も無く消えていくことから、剣が血を吸収しているのは確定だろう。


「さっきの魔物は体に刺さったブロジヴァイネに、体内を流れる血を吸われて失血死に追い込まれたんだ。この剣……本物だ。本物の『魔剣』だ。マジでヤバいヤツだ」

 突き刺して時間を稼いでいれば大抵の魔物は狩れると思う。それは人間に対しても同じだろう。恐ろしいが頼もしいとも思う。


「魂を食われるとか取り憑かれるとかそういう話は無いだろうな? そういうのはマジで勘弁だぞ」

 その後は本を参考にして狩った獲物を――吐き気に耐えながら――解体した。毛皮とかはおやつ代にもならないと本に書いてあったので、肉だけ持ち帰った。


 今回お世話になった魔物狩りのススメ。魔物の肉の調理法や保存方法がやたらと詳しく書いてある。しかも挿絵付き。この本の著者は食べることに手を抜かない主義のようだ。


 城に帰ると今日食べる分以外は保存する為の加工を行った。加工した肉は魔法で冷やす大型冷蔵庫に入れて、遅めの昼食の支度に取りかかる。

 自炊していると少なからず調理の腕は上がるようで、手際よく作業を進めていくソロモン。完成したのは緑黄色野菜を多めに入れたスープと、しっかり火を通した赤身のイノシシ魔物の焼き肉だ。


 食べやすいサイズにカット済み。焼きたて熱々の肉を頬張るソロモン。

 ちょっと堅い豚肉といった食感だが全然いけるぞ魔物肉。自分で狩って解体して調理したから、より美味しく感じるんだな。

 暫く肉は買わなくてもいいだろう。


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