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サバイバー・ソロモン  作者: オウルマン
第一章 異世界サバイバルゲーム
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第16話 ソロモンの選択

 次の日の朝。保存食を適当に胃に入れてから、ソロモンは正門館から本館へ向かう。城内は窓から差し込んでくる太陽の光で、夜とは別の顔を見せている。城主の部屋にも暖かい光が届いていた。


「おっ? あったあった」

 城主の部屋の机を漁っていたソロモンは、目当ての物を見つけた。それは鍵束だ。昨晩見つけたのとは別の物だ。

 正門館の鍵は兵士達が持っていたのだが、本館の鍵は誰も持っていなかった。実は前の城主が相続の際に、本館の鍵を渡されなかったという事情があった。ソロモンは城主の部屋にありそうだと予想していたのだがそれは当たった。


 フック付きの金属のリングに紐で繋がっている鍵。その一つ一つに何処の鍵かが記されている。

「この城は戸締まりの必要が無い、といえばそうなのだろうけどね。鍵が無いと困ることもあるだろうよ」

 ベルトにフックで鍵束を付け、室内を一通り見て回ってから外へ出た。


「掃除しないとダメだな。特に寝室とバスルーム。ヴィクトルも手伝ってくれよ」

 隣のヴィクトルは頷いた。

 ベルトの鍵束を鳴らしながら誰も居ない廊下を歩いていく。ソロモンは厄災の事を頭の中で整理していた。


 昨日の夜、異常現象の正体が幻覚を見せる仕掛けだと見破った。それは厄災を守る為の仕掛けだと城主の部屋で見つけた本に書いてあった。その本は二百年前に書かれた本の写本だという。


 それによると遙か昔、『命の女神リセミアナ』が人間を救う為にその力を少しだけ貸したらしい。女神の力と人間の望みが創りだしたモノが、後に厄災と呼ばれこの地に封じられた。


 その正体は『人間にとって都合の良い存在が生まれる卵』だという。


 人間の願いを叶えて安寧と平穏を齎す存在になる筈だったそれは、人間同士の争いの種になった。

 四つあった卵の内、三つは戦いの道具になって戦争に使われ、多くの人間の命を消し飛ばして滅んだ。

 最後に残った卵を手にした男は恐ろしくて使う事が出来なかった。処分する方法が無く扱いに困り、当時は未開の地だったこの山に隠した。

 その男の名前や素性は後世に残っていないが、本の著者は戦争の生き残りだったと予想している。


 厄災と呼び方を変えて誰の手にも渡さない為に尽力し、後継者達によって厄災は護られ続けていった。時代は進み、遠い地からやってきた人間達によって北側にアスレイド王国が、南側にフェデスツァート帝国が建国される。


 いつからか厄災の守り手は領主の立場になり、正体を知らない監視者となって存続していく。

 今となっては城が建ち、何の因果か知らないが『異世界人』がその役を担っている。


「本当に不思議な話だ。ここか、宝物庫は」

 ソロモンは立ち止まった。

 宝物庫は一階の端、正門館の反対側の山に近い場所にある。扉は近くの部屋の扉と、色も形も全く同じだ。ドアプレートに宝物庫と書かれている訳でも無いので、気づかずに通り過ぎてしまってもおかしくない。


「流石は宝物庫だ。ここだけキッチリ鍵が掛かってる」

 鍵穴に鍵を差し込み回す。カチリ、と小気味良い音が漏れた。

「ようし、開けるぜ。準備は良いか? ヴィクトル」

 手に持った槍を掲げるヴィクトル。

「会いに行くぜ。厄災と呼ばれた卵にな」

 取っ手を握る手に力が入る。力強くソロモンが扉を開けると、カビ臭い空気が外へ飛び出す。

 恐る恐る外から様子を窺う。広さは八畳くらい。ガラスケースや棚が見える。


「宝物庫って意外に狭いよな。ヴィクトル、偵察を頼む」

 ランタンに明かりを灯して渡す。ヴィクトルはそれを左手で受け取り、恐れる様子も無く中へ入っていった。

 右手の槍を正面に向け、いつでも攻撃に移れるような体勢でゆっくりと進んでいく。その様子を外から窺うソロモン。

 ヴィクトルが戻ってくるのに時間は掛からなかった。外へ出たヴィクトルは、槍の先で床を何度も叩く。


「地下か?」

 首を縦に振ったのを確認してから、地図に目を通す。

 地図に地下室は載っていないが、一階だから地下に続いていてもおかしくないか。……あえて地図に描かなかったな。


 イメージは固まってる。行くぞ。


 深呼吸を一回。中へ足を踏み入れる。

「金目の物が一切無い。宝物庫というよりは只の物置だな」

 ヴィクトルは奥の方へ進み、床を指し示した。

「よく見つけたな」

 床に長方形の切れ目が入っている。小さな取っ手を見つけて真上に引っ張ると、地下へと続く階段が姿を現した。


「この先か。いよいよ本番だぜ……」

 ソロモンはゆっくりと階段を下りていく。降りた先はまだ続いている。深淵の先へソロモンは進んでいく。二フロア分下ったところで広い空間に出た。ここから先は天然洞窟の様だ。


 今更だけど入り口を埋めるという発想はなかったんだろうか。埋めたけど後世の人間が掘り返した可能性もあるか。

 凸凹の足下に注意しつつソロモンは更に奥へ進む。三十メートル程進んだところがゴールだ。


「なるほど、確かに卵だ」

 ニワトリの卵をそのまま大きくさせたような白い物体が、錆びた鉄製の台座に鎮座していた。ラグビーボールよりも三倍は大きい。


「俺が死んだ後もゲームに決着をして元の世界に帰った後も、この『厄災』がなんとかなれば王国も帝国も心配事が無くなるよな」

 自分の為であり王国と帝国の為でもある。やってやるか。


 俺はこの異世界サバイバルゲームに勝ちたい。このゲームに勝たせてくれる存在になってほしい。

 でもそれはダメだ。ゲームの決着をした後がどうなるか分からない。自分が得をしても、自分だけが得をすることを考えてはダメだ。たとえその考え自体が、自分勝手な独りよがりだとしてもだ。


 自分だけの為じゃ無いって言葉を信じてくれる人が、一人でも居てくれるように。せめて俺は偽善者だと胸を張って言えるように。

 両手を合わせて目を瞑り卵に意識を集中させる。願うことは一つ。


「これは誰かの為にと使うよりも無くなってくれた方が良いと思う。頼むから後腐れ無く消えてくれないか」

 ソロモンの言葉に呼応するかのように、卵は強い光を放ち始めた。洞窟内を埋めるような白が目を覆う。

 それは一瞬だけ。すぐに光が消えて自然な暗さが洞窟に帰ってきた。


 上手くいったかな? おっ台座の上の卵が無くなっているぞ。

 台座に鎮座していた卵は跡形も無く消えていた。卵が無くなった台座には長方形の箱が一つ置かれている。それに気づいたソロモンは手を伸ばした。


「何でこんなものが?」


 箱の上には四つ折りの紙が一枚。広げてみるとそれは手紙のようだ。

『この手紙を読んでいる貴方へ。このリセミアナの卵がどういうものなのかは分かっているだろう。この卵は女神の人間への愛情から生まれた物。人間の救いになればと与えられた物。私は人間が創り繋いでいく、人間の未来を信じているんだ。だから女神の愛を持って歩いて行くことも、手放して人間が自らの力で進む事も肯定する。だから私はこの卵に少し細工をしてね。人間の未来の為だけに使った者の前に、この手紙と箱が現れるようにした。貴方に良き未来が訪れる事を願って私からの贈り物が入っている。受け取ってほしい。貴方の善意に少しでも報いることが出来たのなら私は嬉しい』


 手紙の差出人が誰かは書いていない。


「妙なことをする人が居たらしいな。自分で使えばいいのに」

 まあ悪い気はしない。変な物は入っていないだろうし、有り難く頂戴しよう。

 ソロモンは箱を開けた。ヴィクトルも中を覗き込む。

 その中身にソロモンは溜め息をついた。


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