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サバイバー・ソロモン  作者: オウルマン
第四章 南西大陸の聖女様
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第30話 ブリンガランの聖女

 誰かが自分の名を呼んでいる。本名では無いが、今ではすっかり自分に定着したの名前だ。意識がその呼び声に引き上げられていく。


 目を開く。呼んでいたのはリーダーだった。


「ああ良かった! 気が付きましたよ先生」

 リーダーが視線を送る先へ頭を動かして見る。仰向けのソロモンを見下ろしている人物がいる。ソロモンが上半身を起こすのと同時にその人物は傍らに片膝立ちになった。


 ――女性だ。ショートヘアーの黒髪、服装は上が女性用旅装束で下が黒のスカート。ハーフフレームの眼鏡を掛けていて顔立ちからすれば年齢は二十代後半。上に見ても三十か三十一くらいだろう。左目側に泣きほくろがある。


「大丈夫そうね。全身に打撲、骨折は無しだったから思ったより楽だったわ。鍛えている分は頑丈、といったところかしらね」

「いやぁ良かった。こちらはシナノガワ先生。ソロモン卿の治療をして下さったのですよ。それに確かソロモン卿が探していた方ですよね?」


 確かに、俺は探していた。間違いなく異世界サバイバルゲームのプレイヤーだからな。


 思わず両手を握り締めた。左手には何も無かったが、右手には何かを握った感覚がある。 剣だ。光を拒絶する、もしくは吸い取るような黒の剣身。


 ブロジヴァイネ……折れたんじゃなかったのか。あーそういえばコイツ、折れても勝手に元通りになるとかそういう話を買った時に聞いたな。実際に折れたところを見たのは今日が初めてだけど。


 気を失う前、確かにブロジヴァイネは根本付近から折れていた。けれども今、手には剣として完全な形で握られている。汚れ一つ無く、刃毀れも無く、傷の一つも無い漆黒の刃を晒している。


「その剣で斬り掛かるのは無しにしてよ。私は助けた側なんだから。交渉の機会くらいは頂戴よ? プレイヤーさん」

「バレていたか。ま、俺も噂を聞いてプレイヤーだと思ったから探しに来たんだけどな。そういうことなら話は早い、今ここで争うつもりは無いよ」

 剣を鞘に収めて立ち上がる。それに合わせてシナノガワも立ち上がる。彼女の身長はソロモンよりも若干低い。


「だったらそこの彼にも言ってよ。貴方の相棒でしょ? さっきから不穏な感じがするんだけど。戦う意志が無いって言っているのに、主人を治療してもずっと背後に立っていて気味が悪いことこの上ないわ。物騒な武器を持っているし」


 そこの彼というのはヴィクトルの事だ。仮面が壊れてドクロの素顔が晒されている。鎧の破損具合が中々の不気味さを醸し出す。左手にはライフル付きの盾、右手にはソロモンが無くした筈の異世界式ハンドガン。銃口は向けていないが引き金に指が掛かっている。


「優秀だろ? 俺の自慢の相棒さ。警戒を一時解いても大丈夫だヴィクトル」

 ヴィクトルも理解はしていたのだろう。すぐに頷いて引き金から指を離してソロモンの横へ移動。足取りはしっかりしている。自己修復は完了しているようだ。異世界式ハンドガンをソロモンに差し出した。


「貴方、見掛けによらず用心深い質のようね?」

「ついさっき、碌に考えもせずに舐め腐ってケンカを売った挙げ句に、死にかけたヤツがここで伸びてたからな」

 受け取った異世界式ハンドガンをホルダーに収めながら、半笑いで人差し指を真下に向けた。


「改めて、俺の治療をしてくれたことに礼を言う。俺はソロモン、ありがとう助かった」

「どういたしまして。偽名だろうけど本名は聞かないでおくわ」

 リーダーはイマイチ話が飲み込めないようだ。


 陽が傾き夕暮れの空色に変わり始めている。巨大魔物ランガートルは横倒しのまま絶命していた。その近くに数人調査を行っている者がいる。


「そういえば、シナノガワさん達はどうしてここへ?」

「私は魔物退治の付き添い。あそこに居る子よ。なんでもご先祖様しか討伐できなかった魔物が出たらしいんだけど、貴方が討伐してしまったみたい」


 シナノガワの視線の先には、背中をピンと伸ばし灰色の巨躯を見つめている一人の女性がいる。蒼いロングヘアー、右手には杖。その横顔には悲しみと怒りが混じり合ったような影があった。


 黒髪を掻いた。その記憶は自ら近づいて来るかのようだった。


「ブリンガランの聖女、か」

 エフアドとリーダーから聞いた話。力の神ブリンガランから特別な力を与えられた女性の子孫。彼女もまたプレイヤーとは違う特別な力を持っている筈だ。


「知っているの? あの子の事」

「いや、よくは知らない。あのランガートルを唯一討伐出来たのが、昔のブリンガランの聖女だったと聞いたことがある」

「唯一というのはもう違うな。貴様が討伐してしまったのだから」


 杖を突きながら蒼いロングヘアーを揺らして彼女はソロモンの前へ立った。歩き方は堂々としていて、足が悪いから杖を持っている訳ではないようだ。年齢は二十歳を幾つか過ぎたくらい。ソロモンよりもやや長身、苛立ちが見える表情、堂々と立つ黒髪の少年を映すのは洋紅色の瞳。


 もしも、聖女と言う言葉に慈愛と穏やかなイメージを持っているなら、彼女はそれを覆すだろう。


「答えろ。何故貴様がランガートルを討伐出来たんだ! 何故だ! 何故なんだ!!」

 押さえていたのであろう感情を爆発させる。激昂し杖で何度も地面を叩く。あまりの形相にソロモンは数歩下がる。ヴィクトルは一歩も下がらない。


「答えろ! 何故だ!! お前は何者だ!!」

「ちょっと落ち着いて下さいよ」

 掴みかかってきそうな勢いで捲し立てる。整った顔立ちが歪んで見えるほどの怒りがソロモンへ向けられている。


「そうよ落ち着きなさいなルナリス」

 シナノガワが割って入った。

 この人、ルナリスって名前か。


「さっきからちょっと荒れててね。理由は説明しなくても分かると思うけど」

 いやちょっとどころじゃねーぞ!


 ルナリスはソロモンに噛み付きかねない勢いで迫る。


「分かった分かった。説明するよ。だから落ち着いて」

 少なくとも話を聞けるくらいまで落ち着いたところでソロモンは簡潔に説明する。


「相棒達のお陰さ。不死身のハイスケルトンオメガ・ヴィクトルと、俺の腰に居るこの問題児の吸血剣ブロジヴァイネの、ね」

「何だと!! それはどういうことだ!! 一体どういうことだ!!」


 再び噛み付きそうな勢い。


「だからね! 俺の実力だけで倒した訳じゃなくてだね……」

「ルナリス、彼は私と同じで特殊な能力を持っているのよ。恐らくその能力はソロモンが相棒と呼んでいる彼ね」

 ヴィクトルに視線が集まる。無言でただ置物のように一ミリも動かない。


「それは分かっている。先程聞いた。聞きたいのは貴様が何故その剣を……悪しき剣を持っているのかだ!」

「悪しき剣? まぁ確かにそう言われてもしょうがない力がこの剣にはあるが……」

「そんなに凄いの? その剣は?」


 シナノガワの視線がソロモンの左腰に注がれた。


「人間と魔物の血を啜ってより鋭くなる力がある。ランガートルの外殻を剥がして本体に突き刺して、後はヴィクトルと一緒に失血死まで粘ったんだ」

「流石はファンタジー世界ね」

「俺も手に入れた時にそう思ったよ。何度も命を助けて貰ったからな、悪しき剣とは思っていない。使い方の問題じゃないか? 俺は魔物退治と本当に必要な時だけ人に向けるようにしている」


 ソロモンの顔を怒りで歪みそうな顔で見るルナリス。右手の杖をキツく握り締めている。


「答えろ! 今貴様が言ったことが本当なら、それは間違いなく『ソルガディアスの剣』だ! 人の神ソルガディアスが子孫に作らせた、私達を殺す為の『聖女殺しの天命』だ!」

 ルナリスの怒りの声はその場に居た全ての人間の視線を集めている。


「何故その剣を持っている! どういう経緯でその剣を貴様が持っているのだ!」

「去年、流しの行商人から買ったんだ」

「なんだと! そんなバカな話があるか! これはソルガディアスの剣だ! 別の世界から来た人間の手に渡るものか!!」


 ルナリスは左手でソロモンの胸倉を掴んだ。それにヴィクトルが反応するが、ソロモンはすぐに手で制止する。


「現実に彼の手にあるのだから、そういう偶然があったってことじゃないかしら」

「……普通の剣ではない事は確か、だが……」


 夢で見た、ブロジヴァイネの記憶らしき映像。それを思い出して――。


「何時の日にか聖女ラシュテルに出会う。お前の力を持って聖女ラシュテルを討ち、ブリンガランの聖女達を斬れ。そんなことをブロジヴァイネに言った人が居た夢を視たな。もしかしてこの剣がルナリスさんと俺を引き寄せたのかな?」

 つい口に出してしまった。その言葉を聞いたルナリスは左手を離した。


「そうか……」

 ルナリスは左手を離してソロモンに背を向けて歩いて行った。


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