第28話 反撃準備
ランガートルの動きに変化は無く、ゆっくりと動き続けてこちらを向く。
ソロモンは地面に目を向けた。ランガートルの足が岩場の表面を部分的に砕いていた。
「試してみるか」
ナイフを抜いてランガートルが砕いた部分を刃先で叩き、手でも持てる程の石ころを取り出す。そしてその石ころを数個握り、ランガートルと自分の間に向かってアンダースローで適当にばらまいた。
ナイフを収め両足を肩幅よりも若干開く。
「盗塁は割と得意な方だったんだよな」
ランガートルの頭部がこちらに向いたのを確認してから、視線をばらまいた石ころに移す。神経を研ぎ澄まし集中力をフル稼働させて石ころの動きを注視する。本来、石ころなど勝手に動く筈は無い。しかし――。
石ころが何かに弾かれたかのようにソロモンの方へ動いた。それを視認した瞬間、ソロモンは真上に飛ぶ。膝を畳んでなるべく両足が地面に付くまでの時間を延ばす。
足に何かが当たったような感じは無い。回避成功、といったところか。
素早く腰を落としてランガートルに視線を向ける。目が合った直後に巨躯が駆け出し、ソロモンも走り出した。
右方向、突進の軌道の外へ。少々の軌道修正でも躱しきる速さで逃げる。確実に回避した事を確認した時点で足を止め、魔装弓を起動させる。
「遠距離攻撃の正体は不明だが、地面スレスレを移動する無音の攻撃と見た。足の調子も良いし威力や殺傷力自体は大した事無い」
息を整え矢筒から矢を取り出す。半身になって光の弦に矢を番える。我流とはいえ鍛錬を積んできた武器だ、扱う手に迷いや無駄は一切無い。
狙いは眼球、方向転換の動きの途中で側面を向いた所で、指に力を込めて矢を射る。
「クソッ外した」
矢は眼球のすぐ下に命中。堅い外殻の一部だった為弾かれて落ちる。
続けて矢を射るが全て眼球付近の堅い部分に当たって弾かれた。ソロモンは舌打ちをして睨みつけた。
――位置的に狙いにくくなった。
小走りで移動し再び眼球を狙うが良い位置取りが出来ない。遠距離攻撃と突進のワンパターン攻撃を対応しきってから再び矢を射る。矢は狙った付近に集中してはいるが、矢筒の中身が空になっても眼球に直撃した矢は一本も無い。
「矢の射程的に離れすぎたか……? いや俺の腕だな……」
次の遠距離攻撃を意識しつつ次の一手を決めかねているソロモンに、復活したヴィクトルが合流した。
「おま……籠手が凹んでるじゃねーか。関節部も破損してるし、すげぇ衝撃だったんだな。食らったのが普通の人間だったら、防具を着込んでも一撃で致命傷になりかねないぞ」
改めてこの魔物が規格外だと言う事を認識する。一定のパターンを繰り返すだけだとしても、攻略が出来ていない。
「ヴィクトル、ヤツの遠距離攻撃の正体は不明だが地面スレスレを移動する何かだ。威力自体は大した事無い。問題はあの図体から繰り出す突進攻撃だ。気を付けろよ、さっきの尻尾の比じゃ無いのは間違いない。ブロジヴァイネは刺さったままだが、まだ動きが変わらねぇんだよな。どうするか」
頭を働かせている間にも足に突き刺さったブロジヴァイネは血を啜り続けている。時間経過で粘り勝ちを拾えるのが吸血剣と呼ばれる凶悪さ。
ひたすら逃げに徹するのも選択肢だが、どれだけ逃げ続ければ良いかの時間が分からない。ソロモンにはヴィクトルと違って体力的な問題もある。今はそれほど疲労はしていないが、こちらの動きが悪くなり始める前に何か手を打ちたい場面である。
「ヴィクトル、突ける弱点があるとしたら目だ。射撃武器でヤツの目を狙え。次の突進を別々の方向へ回避して、二方向から狙うぞ。お前はなるべく近くから撃て。被弾覚悟の戦い方で悪いがやってくれるか?」
左手の盾を掲げて了解の意思表示。射撃武器は盾の裏に装備されている。
「悪いなヴィクトル。頼りにしてるぜ」
ヴィクトルの肩を軽く二回叩いてから魔装弓を異世界式ハンドガンに持ち変えた。そして互いに距離を取る。ランガートルから目を離さないのは言うまでもない。
視覚を奪うことが出来れば圧倒的に有利になる筈だ。
冷静に作戦を立てる。そして実行。二人の行動は早い。
異世界式ハンドガンを握り締めてやや早足で動く。見えない遠距離攻撃の射程の中なのは認識している。足に当たって転倒しても、立ち上がって回避できる距離を保つ。尤もそれは感覚というよりは勘に近い。
ランガートルがこちらへ向く。警戒度を最大限にして立ち止まり、次の突進に備える二人。回避と攻撃の準備をして待つ。
静寂の時が流れる。ランガートルは四本の足で立ったまま動かない。見えない遠距離攻撃も飛んでこない。
――どうした? ん? なんだ。
それは、青白い光。ランガートルの巨躯の全身に、筋のように現れた。その光は徐々に強くなっていく。
「おいおい……まさか第二形態とかじゃねぇだろうな。そういうリアルでロールプレイングゲームのボスキャラみたいなのはノーサンキューだぞ」
明らかに不穏。先程までとは違う様子と気配。
ハンドガンを握り締め身構えた直後、ソロモンはランガートルから放たれた青白い光に包まれた。
それは敵であるソロモンへと放たれた魔力の光であり攻撃の光線である。
その光線は破壊の力と変わり爆音と共にソロモンを呑み込んだ。




